熊騒動の「悪巧み」の真実
私の事情を説明しているはずなのに、話が前に進まないなぁ。
これでは、この「報告会」が終わっても、定期的にエリーの話を聞く時間を作った方が良いんだろう。
そうすると主人公と悪役令嬢の交流が盛んになるな。それ自体が「やらかし」の一種になってしまう。
私とエリーを同時にこの世界に巻き込んだのも、その「やらかし」を求めてのことかもしれない。
絶対的に、通常のシナリオにならないって事で。
……うん、話を進めないとな。
ここからはエリーの「説得」になるだろう。
丁寧さよりも勢いが必要になりそうな気がするし。
「――それで、私が田舎にいた時の最大のイベントは熊退治だったわけ。そういう過去が主人公にはあった? テキストで語られるだけでも良いんだけど」
「熊? いいえ、全然。日本の話と混ざってない?」
ああ、そういうことはあるかも。
ただ元のゲームには無いようだ。
そこで私は、巨大熊についてエリーに説明する。
巨大熊が発生した理由と、それにどうやって対処したのか、というあたりをざっくりと。
「そんな話初めて聞いた。……じゃなくて『読んだことが無い』って言った方がいいのかな。『アウクスブルク』に来るまでにそんなことがあったなんて……」
「そういえば『レル』って名前の友達は田舎にいた?」
「それも覚えてないなぁ」
テキストでチョロっと出てきただけかもしれないし。
……ああ、ダメだ。その話は後に回そう。
「それでその時、私が仕掛けた『悪巧み』がある」
「は? 悪巧み? 何をしたの?」
「簡単に言うと、熊を罠に掛けたんだけど、その時に火を使ったんだよね」
「火事にするわけ?」
「違う。一酸化炭素中毒になるかどうか試したってわけ」
あ、ここもっと演出つけて説明した方が良かったかも。
勢い重視で、サラッとやってしまった。
それでもエリーは驚いた表情を浮かべている。瞳孔の無い瞳が目一杯拡散していた。本当に見えているんだろうか?
……その疑問も、この時の私の「悪巧み」に通じるものがあるのかもしれない。
「……い、一酸化炭素中毒、か。ああうん、そうね。そういうのがあったって、今思い出したわ。そうか、一酸化炭素中毒ね……かなりヤバいって覚えがある。血液から酸素が無くなって……」
大体あってる。
二酸化炭素は、炭素原子と二つの酸素原子が結びついて出来ている。
炭素原子と酸素原子はこの形が最高に安定するものらしい。
だから酸素原子一つとしか結ばれなかった炭素は――これが一酸化炭素だね――他と結びついている酸素を強奪してでも安定した形になろうとする。
そういった反応が人体で行われた場合、血液が運んでいる酸素も強奪されるってことだ。当然、そんなことになったら全身に酸素が回らないから機能不全に陥る。
一番最初にダメになるのは確か脳じゃなかったかな?
これが「一酸化炭素中毒」だ。
私はそれを巨大熊にお見舞いしてやろうと思ってたんだよね。
……でも、それは失敗した。




