「残当」により、休日の予定が決まる
「それならパウルのとこに行ってみるのはどうだい?」
けれど、深刻な表情とは裏腹にオットーおじさんの提案は、穏やかなものだった。《聖女》の謎に迫る感じは無いという点で。
けれど改めてその提案を考えてみると、これはこれでハードなものがあった。
パウルおじさんは、畑ではなくいわゆる酪農を生業にしている。そのせいかどうかはわからないけど、ハラー村の中心地よりも高い場所に住んでいた。
つまり歩いてゆくのもなかなか大変だという事だ。
そして《聖女》が果たして酪農にも効くのかどうか。これがさっぱりわからない。
それならまずはやってみれば良い、という考え方もありはありだろうけど……
「パウルのとこ、羊がいるだろ? それで毛が随分必要になって……わかるだろ?」
「ええ……それはわかります」
わかってしまうんだよなぁ。
何しろ「靴を履かない生活」がスタンダードになってしまったことで、この村ではカーペットの需要が高まっている。
ギーガーで製作されるような、毛糸を染めそれを編み込む色鮮やかなカーペットは求められていないが、快適な生活のためにただの敷物としてのカーペットは、そろそろ贅沢品のカテゴライズから外されそうな勢いだ。
それに羊毛を染めもせず、ただ編むだけならこの村でも作成できるわけで、その手軽さもまた需要が膨らんだ理由になるだろう。
ただどうしても羊毛は必要になる。
つまり《聖女》がパウルおじさんに求められるとするなら、それはもう「羊毛の育成」ということになる。
……もしかしたら「牧草の育成」かもしれないけど、求められるものは羊毛であることは間違いない。
そして私は、その要求に対して無下に断ることも出来ない。何しろ羊毛の需要が増加した元凶は私自身なのだから。
「残当」という奴である。
「……わかりました。今度はその気でパウルおじさんのところに行ってみます。それでもあの……効果があるかどうかは……」
言い訳を先に置いて、それでも前向きな返事をしておく。
そうするとオットーおじさんは、日焼けした顔に一杯の笑顔を浮かべて、
「それなら今日は遅すぎるから、今度の休みの時に連れてってあげるよ。馬車が無いと大変だし」
「ありがとうございます!」
反射的に頭を深々と下げてしまった。
実はこの頭を下げる行為も珍しがられたものだ。今では周囲が慣れてしまったみたいだけど。
……土下座を披露するような窮状に追い込まれることは無いようにしなければ。
「それなら、私も行きた~い!」
「お手伝いもしてもらうぞ」
「それぐらいできるもん」
と、父娘の間でも段取りが出来たようだ。
だけどそのやり取りでわかった。オットーおじさんは何かの用事のついでに連れて行ってくれるらしい。
……それなら、そこまで深刻なことにはならない――と思いたいなぁ。




