侵された王国
そこからさらにグラナドス侯爵家の内情を聞いて行くと、やっぱりテセウスが死んだ戦いの影響が大きかったようだ。
主戦派だったヘクターの父親バルトロメと、年の離れた兄オリオールは、この時の敗戦で随分勢いを無くしたらしい。
まぁ、それはそうなるか。負けたわけだから王国からの締め付けも厳しくなっただろうし。領民からも冷たい目で見られそう。
では侯爵家が白い目で見られているのかというと、そういうわけではなく――
「ヘクターの母親のクラウディアが主導権を握っていてね。あとグラウディアの兄……なんていったかな」
「本によるとエリアスって名前の仕切り屋がいるみたいな事が書いてあったけど」
「あ、そうそう。エリアスだった。そいつが侯爵領を動かしてる、って話になってたんだ」
何か微妙に引っかかる物言いだな。
「実は違う?」
「いえ、全部間違ってるわけではないんだけど、グラナドス侯爵家、っていうかグラナドス領がそもそも女性が強い、みたいな風潮が強くてね」
「……確かヘクターには姉がいるって」
「覚えてたか。そうなのよ。その二人の姉がまたヘクターの人格形成に影響を及ぼしていて……」
ますますひねくれたってわけか。
もしかすると侯爵が戦争を吹っかけてきたのも、鉄が欲しい、って理由だけでは無くて、女性が強いという領の風潮に反発したから、なんて理由もあるのかもしれないな。
でも、今はその辺りまでは確認しなくても良いだろう。
今度は「乙女ゲーム」ってことを忘れないぞ。
「それは……実際にシナリオが進むと主人公どういう関係になるの? 嫁と姑と小姑みたいになるわけで」
「ああ、そういう陰湿なところはないから。女の方がさっぱりしてる感じなのよ」
「じゃあ……本当にどういうシナリオになるの? ギルバート・ログレスは『更生』なわけでしょ?」
「そういう感じでヘクターをまとめるなら、それは『独立』になるわね」
え? そこまで行っちゃうんだ。
でも武器が無いんだよね? それに食料も。
……うん? もしかして主人公の《聖女》設定ここで生きてくる?
かつて戦争で戦う事になった二つの領が、ヘクターと主人公の交流をきっかけにして手を取り合う流れになる。
で、《聖女》の力で食料――う~ん、これだと足らないな。
私はそういった推測を含めて、そんな風にシナリオの先読みをエリーに伝えてみる。エリーはスコーンを齧りながら、ふんふんと頷いていた。
そして唇に付いたクロテッドクリームを舌先でなめとりながら、覚悟の決まった目をしてみせた。
……やっぱり瞳孔は見えないんだけど。
「ねぇ、本当にこのゲーム知らないの? 大体あってるし。でも、これはわからなかったか。実はね。王国は鉱毒に侵されてるの」




