キャラデザは「天使禁猟区」
こんなイベントがあるなんて事、エリーは何も言ってなかった。
となると、これは私が好き勝手やった事によって生じた歪みなのか。それともイベントが前倒しされたのか。
いや、このイベントがどういう理由で発生したのかは、この際どうでもいいか。
そして私のやることは決まっている。
「――お気を使っていただいて感謝いたします。実はクレッソン侯爵家のエディット様に申し付かりまして、図書室に用が」
と、決めていた口上と共に、綺麗に一礼した。
二年に渡る特訓の成果をリーン女史にも見て欲しい。
「ああ、そうなんですね」
私の一礼は功を奏したのか、緑の攻略対象は一歩引く感じで答えてきた。
「エディット・クレッソン」に夢中で、攻略対象の名前も確認してないんだよね。
しかし……緑はどういうキャラデザなんだろう?
顔面の精緻さは「天使禁猟区」か「われら混声合唱団」という感じ。
その繊細さは身に着けている煌びやかな多くのアクセサリーにも及んでいて、えらく力が入っている。額にあるホクロが何とも印象的だ。
ただまぁ、それでも全体的な印象は私に言わせれば「チャラい」という感じで、「乙女ゲーム」に求められる各キャラの属性を満たす要素なんだろうな。
「貴族の方は、時々そういう無茶を仰るから困りものですね……ああ、僕も貴族じゃありませんからお気を使わずに」
「そうなんですか?」
と、思わず声が出てしまった。
ただこの場合はそれがラッキーだったのだろう。
緑の攻略対象は、緊張感の解けた表情を浮かべている。
何しろ私が彼の事を知らないのはこの時点では本当だからね。
「――僕はギルバート・ログレス。君も新入生ですよね?」
「はい。私はジョセフィン・メリーアンです」
そこで改めての自己紹介。
恐らくそこから主人公が何か尋ねてゆけば、イベントが進行するのだと思うけれど、そんなことはさせない。
やがてギルバート・ログレスは諦めたように、こう言ってきた。
「……じゃあ、僕は他に用事があるから」
「そうですか。ログレスさんも大変ですね」
平民という事なら、そちらも貴族のわがままで動いているのでしょう? わかっていますよ。
……という態で返事をしてみる。
すると、
「ああ、そうですね。本当に大変です。お互い頑張りましょう」
と、朗らかな声が返って来る。そして破顔一笑だ。
う~ん、これはどうなんだ?
フラグ立ってやしないだろうか。
と言っても、これ以上出来ることは無い。
腕を振って離れていくギルバート・ログレスを再びの一礼で見送って、私は再び図書室へと向き直る。
図書室の扉は歴史を感じさせる色合いで、木製と金属製の中間みたいな重厚さを感じさせる。
もちろん両開きで、取っ手は多分真鍮製。
そして私は、この図書室に――《《入って物を調べる》》意志を示した。




