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自分のペースで動けない

 事態がこうなってしまっても。

 私が、そう簡単に行動に移さない事はおわかりいただけると思う。


 「エディット・クレッソン」と話をしなければならない。……となっても、その会話のシミュレーションはしっかり行ってから、が私の流儀だ。


 ただそれは私が基本的に「一人」だったから可能だった流儀。

 しかし、この世界には中に誰かがいる「エディット・クレッソン」が現れてしまった。こうなると、自分だけのペースで行動できない――


 ……ということに気付いたのは、


「お時間、いただくわよ」


 なんて寮の食堂で「エディット・クレッソン」に話しかけられた時だったわけで。これやっぱり笑い話の範疇なのだろう。


 私はいつも通り、一人で礼儀作法教室で習ったように魚の何かしらを食べている最中だったんだけど、思わず「エディット・クレッソン」を見上げてしまった。


 確実に態勢が悪い。

 いや、物理的に戦うつもりはないんだけど、上から見下ろされるのは、なかなか精神的に来る。

 

 ましてや「悪」の権化とも言える「エディット・クレッソン」なのだ。

 瞳孔の無い瞳が、それでも私を射抜いている。


 私はかろうじて口の中の魚の何かしら――きっとムニエルだと思う――を飲み込んで、


「かしこまりました」


 と、了承するだけで精一杯。


 ただ私が「エディット・クレッソン」の《《命令》》に素直に応じたことで、食堂に満ち満ちていた緊張が緩んだことは……いい事なんだろう。多分。


               ~・~


 そんなこんなで、私はろくろく準備も出来ずに寮の「エディット・クレッソン」の部屋を訪れることになってしまった。


 他の寮生からは、


「一体何があったのか?」


 なんて、尋ねられることになったわけだけど、


「着替えのことかもしれませんし、《聖女》としての私に聞きたいことがあったのでは?」


 と答えて、はぐらかすことにした。


 「エディット・クレッソン」の中に人がいるのなら、自分で着替えることぐらいはできるだろう。つまり実際に着替えの手伝いは必要ないことはわかってるけど、対外的には、この理由はまだ使えるはずだ。


 もう、入寮してから一週間ほど経ってるんだけどね。

 その間も彼女は一人で着替えていたようだし、これだけだとちょっと弱い。


 そこで《聖女》を持ち出したわけなんだけど……うん、まぁ、ここでも「うんこ聖女」の異名は役に立ったよ。あれやっぱり正解なんじゃないかな?


 コンコンコン――


 と、そんなことを思いながら、この世界でも当たり前に使用されている「ノック」の作法で、「エディット・クレッソン」の部屋の扉を叩く。


「――どうぞ。あなたの名前が“ジョセフィン・メリーアン”なら」


 含みを持たせた「エディット・クレッソン」からの返答。

 私は笑みの形に緩む頬を意識しながら、


「はいそうです。私は“ジョセフィン・メリーアン”ですよ。侯爵令嬢さん」


 と、挑発してみた。


 そして返ってきたのは「ガチャリ」という開錠の音――

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