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君のあだ名は。

 私が最初に気付いたのは、光景そのものを見た――わけでは無くて「音」がきっかけだった。

 「音」と言っても、それは怒鳴り声。誰かが喧嘩をしているようだと。


 目を向けてみると怒鳴り声の主は男子で、どうやら校長に向かって、何事か訴えている。

 そこまでは察することも出来たんだけど、内容まではわからない。


 怒鳴っていた男子は、何を隠そう王太子エルネストだったんだよね。

 男子の授業は「運動」ではないので、この時の王太子は制服姿だったんだけど、怒鳴る相手が校長というなら、直前の「授業」にだけ問題がある感じでは無い感じ?


 この時、私は「エディット・クレッソン」問題だけでは無くて、色々な疑問をたくさん抱えていた。

 その一つが「アウクスブルク」の権力構造でもあったわけで。


 「アウクスブルク」が公立であるなら、そのスポンサーは確実に国だ。

 となると王太子は、いわ「ば理事長の息子」。畢竟、先生方もこの理事長の息子に対しては頭が上がらないはず。


 ……と思ってたんだけど、どうも教師と王太子の間にはそういう上下関係が出来てない感じなんだよね。


 かといって教師陣が揺ぎ無い信念を持っていて、やんちゃを繰り返す王太子を諫めているといった感じでもない。

 今も校長は眼鏡をかけ、縦に間延びしたような顔で、人を馬鹿にしたような表情(笑み)を浮かべている。


 他には特徴も少ない、モブみたいなこの校長……見るたびにむかつく。


 そんな校長だったので、私はむしろ揺ぎ無い信念と言われれば、それはむしろ王太子にあるんじゃないか? っていう感じだったわけだ。


 校内が、そんな感じなので私にとっては不可思議な状態だった。

 そのために、その方面で情報収集してる途中だったこともあって、私は更衣室に向かう足を止めて、怒鳴り声の方向に振り返ってしまったという感じ。


 振り返った先にあるのは「内庭」とでも言うんだろうか? 小さな庭がある。回廊で囲まれてはいるが、割と開けた場所。

 そういう場所だから、王太子の怒鳴り声はより強く響いたのだろう。


 そして彼らは回廊の反対側にいる《《私たち》》に気付かなかった。

 そう。私と「エディット・クレッソン」だ。


 もっとも私は「内庭(そこ)」から遠ざかる廊下の途中。そして「エディット・クレッソン」は「内庭」のすぐ傍。私たちの距離は離れてはいるけど「回廊の同じ側」にいたってことだ。


 だから「エディット・クレッソン」も私に気付いていなかったんだろうね。

 彼女は校長の方にしっかりと険のある眼差しを向けている。


 そして、彼女はこう告げたのだ。


「――この《《増税メガネ》》が」


 ええ。


 耐えきれませんでした。


 私は盛大に吹き出してしまいました。

 それこそ「ブホゥ!!」なんて勢いで。


 それを誤魔化せるはずもなく。私の方へと振り返った「エディット・クレッソン」としっかり目が合ってしまったよ。何なら「ちびまる子ちゃん」のように、お互いの顔に縦線が入っているような表情で。


 けれどこの瞬間、色々なものが一気に動き出したのは間違いない。


 ……岸田のボケナス、この世界ではいい仕事したようだ。

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