過敏な反応
ハラー村をはじめとして、メナン、ザーギは結局山間の村なので住人からの死角も多い。
それを利用すれば、集積所は人目から隠すことも出来るし、悪臭に関しても、工夫のしようがある。
ただロート村では、他の村で使えた工夫が役に立たない。
傾斜してるとはいえ、基本的に平らで見通しが良い村だからね。悪臭も風が吹けば広まってしまう。
どうしたものかな? と、目の前に仕事が出来たせいで、諦観に浸っていた私はまた思い出してしまった。
日本ではどうだったかな? と。
それで思い出したのは、とにかく堆肥が溜められてある場所は低い場所にあった事。
そして水の近くにあった事。
これを理屈を貼り付けながら考えると、低い位置にあれば空気より重い臭気は、容易く拡散しないのではないかという事。
……それがこの世界でどれほど再現されているかはわからないけれど。
で、悪臭が出るという事は、それだけ発酵しているという事。
ならばそれを抑えれば良い。つまり冷やしてしまえばいい、という事になる。
そしてこの世界では「冷蔵庫」があるのだ。
それらの理屈を重ねてゆくと――
ロート村では糞を集めて、川辺に埋められた樽に溜められる。
私がそれを強制的に発酵させた後は、今度は温度を下げて保管する。
こういう手順になったわけである。
で、実際に使用する時はレルが改めて祈りを捧げて発酵させるわけだ。
これがレルにとっては良い訓練になったようで、
「じゃあ、学校に行くのはレルってことで」
と、私はすぐさま提案した。レルが繰り返し祈りを捧げた結果、彼女の《聖女》としての力はそんなに変わらなくなったんじゃないかと思ったんだよね。
そうするとレルは真顔になって、
「……あなたは何を仰ってますの?」
と返してくるわけだ。
さすがは私を絶対学校に送り込むガールである。強制力の化身。
訓練と言えば、私も怪我の治癒の訓練をやるにはやった。
でも訓練のために「怪我をしろ」とは言えないわけで。
さらには軽傷、打ち身、ぐらいでは《聖女》の手を煩わせるわけにはいかないと、そういう敬虔な気持ちが私の周りには蔓延しましてですね。
各村を発酵のために回っている内に、なんというか……ちょっと私を見る目が変わってきているような気がして。
巡回説教者を気取るつもりは全く無かったんだけど。
……話を戻そう。
そんなわけで訓練と言うほど事は出来なかったけど、治癒に関してはこれにも想像力が有効に働いたようだ。
というか「はたらく細胞」の血小板ちゃんを想像したらあっという間にかさぶたが出来てしまって。
一般に想像するような魔法での治り方とは違うけれど、これでも合格みたいだった。
子供が転んだぐらいの傷だったから、唾でもつけたようなものだと思うんだけど。
打ち身に関しては温湿布と変わらない。
つまり新陳代謝を活発にするだけ、という感じだね。
温湿布って、そういう理屈だったかどうかは置いておく。
……で、あとは礼儀作法教室の受講者たちの態度が変わった事についての説明をしよう。




