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ツマヌダの勝利

 「ツマヌダ格闘街」という漫画は……説明するのが大変なのでざっくりまとめると格闘漫画です。主に描かれるのは路上での格闘なので整理された「ホーリーランド」と言うべきか。


 礼儀作法の動きの根本には戦いがある、という説明で日本人としての記憶が呼び起こされたみたいだね。


 「ツマヌダ格闘街」の作者はその後に「悪役令嬢転生おじさん」を描き始めるので、何か関連が……あるわけはないか。

 全然違うし。


 結局、あの漫画最後まで読めなかったなぁ、という感傷はともかく「ツマヌダ格闘街」ですよ。


 その漫画の中で、ごくごく最初の方で主人公が歩き方から指導される展開があって、その時には、


「頭の上から糸が出て、それに吊られているような感覚で歩くように」


 と言われていたはずだ。


 恐らくこれこそが「体幹」を意識したトレーニング方法に違いない。


 だから与謝蕪村の筆跡を真似るために、筆を天井から吊るすみたいな「ギャラリーフェイク」のエピソードは関係ないぞ私。


 深く記憶を探ったせいで、記憶が散らかってしまっているようだ。整理しなくては。

 そこで私は、まず立ち上がることにした。


「ジョー?」


 その動きが突然すぎたのだろう。

 レルが不安そうな声を掛けてくる。


「見ていてください。多分、これがコツなんだと思います」


 そして体が吊り下げられていると想像して、一歩踏み出す。

 考えてみれば、正式な場所ではさらにヒールを履く可能性もあるのか。そういう文化があるのかはわからないけど「ある」と考えた方が無難だろう。


 そしてさらに、二歩三歩。


「――そこで曲がって」


 不意にリーン女史の厳しい声が耳朶を打った。

 ただ歩け、と言われるよりは進歩――しているのだろう。


 だって、吊られることを意識しながら曲がるのすっごく難しい。

 ええと、さっき右足を出したから次は左足……なんだけど、出し方がわからない。


 それでも何とかしようとすると――こけかけた。

 当然、頭の上の糸も切れてしまっている。


 これはマズいな、と反省していると、再びリーン女史から声がかけられた。


「では、やはり歩くように。ただし、先程のやり方で。壁に沿って歩けば、自然に曲がり方も身に付くでしょう」


 ……ということは?


 吊られることを意識するのは、リーン女史的には正解というわけだ。

 これは――ツマヌダの勝利だ!


「ジョー! やりましたね!」


 そしてレルの勝利でもある。


「はい! ようやく先に進めそうです!」


 ……と答えてから、レルはやっぱり私を導くために存在してるっぽいなぁ、と人でなしなことを考えていたことは、もちろん内緒である。

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