富士見書房のうっかり屋さん
フッフッフ。
エリーは言ってやった、みたいな顔してるけど、ここが私の望んでいた着地点。
ようし、ここからは本命だ。
「それがどうした、じゃなくてそれが肝心なわけ。――まず私はこのゲーム知らない」
「そこが信じられないけど……はいはい、それで?」
「だから、このままゲームを進めるにしても、やる気が出ないんだよね。なにしろ私はゲーム制作者のこだわりでこうなってるって思ってるし」
あ、そんな風に瞳孔の無い瞳で半目になられても。
「それでも、やめ方わからないし。それなら、やる気が出る方法を考えよう、ってなった」
「前向き……なのかな?」
疑問形でツッコまれた。
「それで考えた。このリブートに協力して、成果をもたらして――このもの凄いAIを使わせてもらおうって」
「――ん? うん? 何となく凄いっていうのはわかるけど……まぁ、いいや。それでAI使って何をするの?」
そう。そこが肝心だ。
私もAI使わせて貰おうってとこまでは辿り着いた。
そこで色々考えたんだよね。何に使うのが一番有意義何だろうって。
いや、意義というか何が一番心残りなんだろうって。
それでAI使ってでも、いや発展したAIだからこそ、出来る事。
それで思い付いた。それは――
「――私、『風の白猿神』の続きが読みたい!!!」
魂の叫び。
エリーはさっきとはうって変わって、目を全開にしていた。
「え? え? 風の……何ですって?」
「『風の白猿神』」
「そこだけ繰り返されてもわかんないんだってば。そもそもその風の何とかは何?」
「小説。富士見ファンタジア文庫から発行されてるから、ジャンル的にラノベになる」
「うん? じゃあ読めば……ああ、読めないのか。でも途中で止まってるの結構あるし、わたしもこっちに来て諦めたの結構あるし」
チッチッチ
「風の白猿神」は、そんな生易しい代物じゃないんだ。
ここはたっぷりとやる。というか説明を始めたら、途中で止める自信が無い。
「『風の白猿神』は、90年代に富士見ファンタジア文庫大賞に選ばれた。この賞は当時のラノベの登竜門と言っても良い」
「90年代……それで面白いんだ? 大賞なんだから」
「そう。とっても」
「読んだんだよね?」
「読んだ」
「じゃあ、何を……?」
「『風の白猿神』はとんでもないことをやらかしていたんだ。何とこのラノベ、キリの良いところで終わらない」
「それって普通――あ、そうか。受賞作なんだよね? じゃあ一冊で完結するぐらいの分量じゃないとダメなんだ」
「そうなんだよ。それが普通なのに富士見書房のうっかり屋さん。応募規定に『完結作品であること』って文言が載ってなかった。そこを突いたのが滝川羊」
「何? ブランド羊? 松阪牛みたいな?」
「『風の白猿神』の作者」
「ああ、はぁはぁ」
何だその気合の抜けた返事は。
私は容赦なく「風の白猿神」受賞後に、
――「完結作品であること」
という応募規定が明文化されたことを伝えた。




