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七話 大丈夫じゃなくていいんだよ

 立ち入り禁止区域から出たパルは、ようやく人見知りも治り、少年と落ち着いて話ができるようになった。

「少年さんはリナちゃんと仲が良いですね〜。安心しました〜」

「パルは青髪の子とは違って、仲良しのままなんだね」

 身じろぎもせず、パルは少年を一瞥すると、足を止め、懐から一枚の絵を取り出した。映し出された幼さを残す三人が笑い合っている様は、側から見れば実に微笑ましいものだ。

「はい。肌身離さず持ち続けていますけれど、虚しいだけでした。この頃に戻りたいとは思わない(よわい)になりましたが、忘れるなんて……どうしてもできませんよ」

 過去の情景を切り取られた絵は、パルが思い描いた理想の残骸だった。

「どうか叶いますよう……切に祈りながら……滑稽ですね」

 パルは自身の手首に結んでいるミフィタを名残惜しむよう撫でていた。途切れた過去は、元に戻らない。その事実を否定したいと、訴えているかのように――。

 すると、ドタバタと走り回るリナの騒音が、二人の静けさの間で暴れ回る。

「しかしさ、何でそこまで柄に拘るんだろう?無地なら手取り早いのに」

 空気の変わり目を読んだ少年は、すかさず話題を変えた。苦笑交じりにパルは答える。

「でも〜そうすると明日にはできちゃいますよ~?少年さんは、そんなに早く飛べるようになりたいんですかぁ~?」

 邪念のない無垢な声を聞き届けた少年は、「時間がかかるのはどんな柄なんだい?」と、気持ち良いほどの手のひら返しをして、パルは穏やかに笑った。

「ふふっ、そうですね〜、あ、よろしければ……わたしから提案してもいいですか〜?」

 その後、提示した要望に驚くリナは、少年が画策した遅延目的ではないかと疑うものの、パルの説得もあって渋々ながら認可した。

 さらに騒がしい音を立てて、忙しなく飛扇の生地を用意するリナの様子を二人で眺めていた。

「パルありがとう。何から何まで至れり尽くせりで申し訳ないね」

 少年は、飛行練習が遠のいたことに内心ほくそ笑み、パルへ感謝を述べた。

「そんなことありませんよ?久しぶりに楽しみができましたので〜」

「でもここまで凝る必要ある?光が当たると、構造色で虹色に映るだなんて……しかも未踏」

「出来ることを繰り返しても新しい発見はありませんので、挑戦は続けたいんです。むしろ成長の機会をくださり、ありがとうございます〜」

 その発言に痺れた脳内で、寝ぼけた露出狂という少年のパルへの第一印象が、木端微塵に砕け散った。

「パルは凄いねマジで!さっきのは醜態ではなく、集大成だったわけか~」

 いや〜、と照れたパルは、慈しむように細い目でリナを見た。

「でも、こうなったのはリナちゃんに即発されてですよ?わたしなんかよりもずっと頑張っているんです。貴方にもいつか――」

 パルの眼差しの先で、リナがキョロキョロと周りを見た後、生命草マフアの花の蜜を指ですくいとり、ペロペロ舌で舐めていた。するとパルは、まるで何かを思い出したかのように小さく声を上げ、少年に向かい合った。

「あ、そういえば少年さん、立ち入り禁止の部屋で見た事柄はすべて機密事項ですので、もし口外すれば、該当する記憶の抹消措置が取られるか、完全な監禁状態となります。注意して下さいね〜」

「えっ!?おいおい……中々酷いね事後承諾かよ」

「すみません〜。でも、言わなければいいので〜特に問題はないかと〜」

 悪意の欠片もない朗らかな声で笑うパルは、最初からこの展開を見越した上で少年を案内した。寝不足による見過ごしな訳が無い。パルの人となりを知った少年は、話の流れから真の狙いも判っていた。

 リナと仲良くしろ、でなければ自由を奪う――そんな脅迫に近い取引を日常会話の様に言い放つことは、温厚なパルには無理だ。間違いなく、誰かからの指示を受けている。パルは、あの傀儡の操り人形にされているのだと。

 

 用事を終えた少年は、リナとパルに連れられて、ある場所へとやってきていた。


 それはパルの研究所にあった洞窟とは似ても似つかぬ華やかな洞穴だった。

 一つ二つどころでは無い花が、上下左右と四方八方の視界全てに満たされていた洞窟だ。

 色彩豊かな絵の具を散らしたかのような鮮やかさを前にして、少年は不満げだった。 

「ねぇ〜家に帰るんじゃなかったの〜!?」

「すみません〜。けどぉ〜」

「次は家に帰るから」

 足取りが重い少年を宥める二人は、前後を挟んで無理やり進ませていた。

「お祭り担当のパトラさんがね、是非少年君に来て欲しいって頼まれたの。アルフレッドさんの奥さんでカラフル一番の美人さんだよ。まだ少年君の歓迎をしていないから、ちょっとだけ顔を見せて欲しいの」

「ふ~ん、エンタメ……そりゃ僕は格好の餌食だ」

「一杯の水を飲む私達の生命線も、ずっと同じだと味気ないじゃない?そこでみんなで集まって、楽しみながら飲もうってことで始めたの」

 ふと、思い出したように少年は頷いた。

「そういえば、川も湖も海も無かったな。慢性的な水不足」

「うん。この世界樹の森で水は超貴重品でね。生きる為に必要なのに限られた量しか手に入らないの。だから一滴でも節約するんだ」

 そういえば昨日、リナが同じコップを共有していたのは、水の節約の一貫らしい――少年はすんなりと納得した。

「一日の必要量と採取量はどれくらい?」

「両方ともコップ一杯だよ。心配しなくても、少年君の分も用意したからね!」


 そうして華やかな洞窟内を歩くこと数分、甘い香りが漂っていると少年の嗅覚が伝えてくる。

「この甘ったるい香りは消臭しなくて平気?お外では一切の痕跡を断っているのに」

「空気より重いので〜下に溜まって外に出ないんです〜」

「着いたよ!少年くん!」

 振り向いたリナが、洞窟の出口に垂れ下がった暖簾の様な大きな花弁を勢いよくどかした。

「ではではお待ちかね!これが娯楽の祭典、メゼスだよ~!」


 明るい声で賑わうメゼスの会場は、色鮮やかなお菓子や果実のご馳走が並び、みんなの心を魅了する大きな花園の中に作られたお茶会だった。

 球体の空間の中腹に、宙に浮かぶ足場が置かれて、広場の周りにはいくつもの生け花が並び、甘い香りを漂わせる美麗の宝庫だった。

 中央には赤い和傘の下に円卓と椅子が等間隔で置かれて、広場の周りを生花や盆栽だけでなく、果物の果樹園も併設されていた。

 人々はそれらを躊躇なく手折り、遠慮なく口へと運んでいた。会場のオブジェになっているものは、すべてお菓子で作られたもので、誰でも好きに食べれるらしい。

「はぁ……御伽の国に紛れ込んだ感じだ」

 童話に出てくるような空想的な空気に、少年は奇麗な絵画の中にいるような錯覚に襲われた。

 味覚はもちろん、視覚や嗅覚でも来た人を楽しませようという責任者の意気込みが伝わってくる会場の風光明媚に魅了されて、トボトボと歩く少年の前にふたつの人影が近づいてきた。

「お!?兄ちゃんじゃねえか!遅いぞ!」

「ご機嫌よう。お待ちしておりました」

 先程少年と仲良くなったライゼンとアンナが、両親と思わしき大人と一緒に、美味そうな飴細工などの甘味に舌鼓(したつづみ)を打って楽しんでいた。

「おっ!」

 少年は子供らに促されるまま席へ座った。

 香ばしい湯気を上げる茶器が綺麗に配置されて、濃淡のある緑に茶色、薄い赤に黄色と様々なお茶が用意されていた。中でも少年が注目したのは、なんと木から作られているお酒があった。種類で香りが異なるだけでなく、樹齢が何十、何百、何千年と変わるだけでも風味が変わるらしい。

 初めて見る変な人を見つけてきょとんとしたライゼンとアンナに似た容姿の二人は、首を傾げる。

「見ない顔、この人だあれ?シュゼン――ライゼン?」

 所作の一つ一つがお淑やかで雅な着物を纏った女性がライゼンに声をかける。

「昨日やってきた兄ちゃん!今朝の決闘で俺たちを下僕にした男なんだぜ!」

「違います友達です。根も葉もない虚言はやめて下さい」

 第一印象を著しく貶められる前に、少年は全力で弁護した。

「ソノン……違うわ、アンナよね。本当なの?」

 自分の娘の名前を呼ぶにしては難儀している様子だった。

「はいお母様、あの手練手管には参りました。これはもう責任をとって頂かないといけません」

「ちょっと言い方ァ!?リナも少しは擁護してよ〜!」

 少年は死んだ魚のような眼をしている二人の母親が、なにか精神的な病を患っていることを察した。このメゼスは、治療を兼ねた癒しの時間だと。 

「じゃ!二人とも少年君をお願いね!パル行こ!」

 言い終わるより早く、凄まじき敏捷性を見せたリナは、パルの手を引っ張って甘味の世界に向かって颯爽と立ち去った。

「あれ?もういねえッ!?」

 残された少年は、遠く小さくなる彼女の後ろ姿を見つめるしかなかった。

「メゼスはリナ姉の唯一の楽しみだからなぁ〜」

「作品の美しさは日頃の腕の見せ場。食べなくても見るだけで楽しめますよ」

 二人に勧められた少年は、差し出されたかごの中でキラリと輝く宝石のような琥珀糖を適当に一つ摘んだ。

「アルフレッドのか」

 透き通った塊の向こう側を覗き込むと、十二単(じゅうにひとえ)に似た重厚な美しさの着物を(まと)う桃色の髪色をした女性が少年の方へとやってきた。 

「あらあら!貴方様が来訪者さんですね~!よくいらっしゃいました!アルフの美人妻のパトラで~す!メゼスにようこそ!もう、来ないから心配してたんだぞ?」

 金色の装飾品をあちこち着飾った豪奢(ごうしゃ)(きら)びやかで所作の一つ一つがお(しと)やかな彼女を見た瞬間、少年にはある不思議なことが起きた。

「っ!?これは……ご挨拶かな」

 少年の肌から伝わる触覚が水中に入った時と同じになった。異常で異質な現象――魔法だ。

「≪音頭殷賑(おんどいんしん)≫――驚かれました?幻覚の魔法で、楽しさを感じて欲しくて発現しました~!様々な感覚を疑似的に体験できますのです!お気に召しますぅ?」

 見目麗しき令嬢であるにも関わらず、口調はずいぶんと若い。

「うん!とっても!それに、とてもお綺麗ですね」

「あら!ありがとう!では、少し時間を頂戴しますね~!」

 桃色の髪を揺らすパトラは、その美しき所作で籠の中の茶道具を一式机に広げた。趣のある茶碗に入れた緑色の粉、そして(みやび)茶筅(ちゃせん)でしゃしゃっと抹茶を立てる様子は、技巧の極致だ。

「美味しいお茶には、リナの作った竹道具で決まり!この色と香り、美しい花を見ながら飲む抹茶の味は、格別なんだぞ!」

「……ひとつ聞きたいな、パトラはなぜ、これを願ったの?」

 少年は正直だった。

 口調と印象に多少の差異はあるものの、竹を割ったような単純思考のパトラには、思ったことをそのまま伝えることが一番だと判断した。

 にっこりとした笑顔で「楽しませるのが楽しい!」とパトラは言って、ささっと道具を片付けてから、また別の所へお茶を立てに行ってしまった。

 意外とサバサバしている女性だ。

 しかし、その熱意は本物だ。

 人が祭りを行うのは、辛かったり苦しかったりしても下を向かない為、熱中する暇つぶしを増やして楽しいことを追い求める事が目的だ。人生をより豊かにするための活動、それが催事の本質なのかもしれない。

 だとすると、彼女はその体現者なのだろう。

 しかし、そんな中、みんな輪になって和気(わき)藹々(あいあい)とお菓子を食べているのに、リナはずっと立ち食いなのはどうしてだろう?と少年はむず痒い疑問を抱く。

 同時に、リナの恐ろしき食いっぷりをボケ〜っと観察した。飴細工は口に含むと無くなり、琥珀糖は大皿を秒殺、蜜をかけた果物を空気みたいに吸い込んでいた。

 すると少年は、リナのある変化に気がついた。

「あれ?リナの耳飾りの結晶体、何だか大きくなってない?」

「なんだ~兄ちゃん~糖結晶も知らないのか?貯めるほど、望力が保管されるから、魔法を安定して使えるんだぜ!」

「私達は甘いものを無制限で食べる事ができるのです。余分のエネルギーはああやって結晶化して蓄えるのです。だから太りません」

 二人は髪を上げて耳にぶら下がっていたを鉛筆の先くらいの結晶見せてくれた。

「え、なにそれ魔法じゃん!すげぇ!夢みたいな話だね~」

「兄ちゃん、何も知らないんだな〜。連れまわしてもっと教えてやりたいぜ!」

「質問ばかりで、まるで子供みたいですよ。そして私たちが大人みたい」

「情報は力だ。知らない事には何も始まらん。得る為の恥は恥ずべきでないのさ!」

 そうやって楽しく談笑していると、メゼスの会場は徐々に暗転し、球状の壁面に巨大なパトラが浮かび上がった。

「それではみなさんお待たせよ!少年殿の来訪を祝しまして!とっておきをご用意しましたっ!存分に、お楽しみください!」

 パトラが声高々に叫ぶと、アルフレッドが飴細工で作られた笛を吹いた。

 それを合図に、球体となっていたメゼスの壁面に、情景が映し出された。

 

 何もないところからは生まれない――。

 黒い背景に白い文字が描かれ、パトラの清涼感のある透き通った声が文章を読み上げる。

 万物の元となる変素が、特異点から始まった。それは、神の見えざる手と呼ばれる。

 それは遥か悠久の時を経てしだいに集まり、一点に縮こまり押し込まれていった。

 やがて限界に達した変素の反応によって、漆黒の虚無から大きな爆発が起こり、ばあっと広がった。


 ――まさか世界樹の成り立ちが表現されるとは思わず、エンタメ風に誇張表現されているとはいえ、重要な情報源だと、少年は釘付けにされていた。

 メゼスの会場の下から花火のような光が咲き乱れた。実際に泡の中に入れた樹脂を燃やしているらしく、少年は爆発を思わせる強風をその身に受けた気がした。現実で実際に起こした演出とパトラの幻覚魔法が、この映像に最高の臨場感を与えている。


 瞬く間に銀河系や星々の星雲、そして光り輝く恒星が大量に生成されて放出された。

 熱や冷気が続けざまに通り過ぎ、少年は椅子に腰掛けて観ているはずなのに、実際に進んでいる感覚があった。 

 何億年もの変化の軌跡を、螺旋階段のように巡り回して、絶えず見ている人が飽きないように情景を替えて景色を飛ばした。

 飛び散った星々は、物質のない巨大な泡に閉じ込められて、一定の方向へと流されていった。

 その虚無の泡は一つではなく、数えきれない大きな潮流となって世界樹の内部を通ってできた代謝のひとつに過ぎなかった。


 脈動する命の胎動が聞こえるまで世界樹に接近したと思ったら、草木を刈り終えた時の緑の香りが鼻腔をくすぐった。

 描写は世界樹の外になると、少年も実際に見てきた壮大な自然と生命が映された。

 巨大な動植物が繋ぐ命の宴は、今に至る――


 気がつくと、少年の意識はメゼスの会場へと戻ってきた。

 知らぬ間に会場に明かりが灯されて、お菓子や果物の補充がされていた。食べられたオブジェも様変わりして、メゼスに活気が戻ってきた。


 物語の余韻に浸る少年は、再び団欒の空気になったことで、何も考えず子供らに切り込んだ。

「何でリナは孤立してるの?」

 メゼスが始まってから誰もリナに話しかけない事を、少年はずっと不思議に思っていた。

 付き添いのパルは、この場に慣れていないそぶりを見せていた。きっと今回、孤立していない様に見せるため、臨時でやってきたのだ。普段は研究室にこもっているはずだ。

「ちょっ!?兄さま!それはよしてく、れだぜ!」

「それは言えね、ない。禁止事項ですのよ」

 反射的に動いた二人はお茶をこぼした。大慌てで口を止めようとする二人だが、もう遅かった。


 その言葉を聞いたライゼンとアンナの両親が答えようとした瞬間、様子が一変した。


「ああ、しゅう?しゅう〜どこぉお?」と、椅子から転げ落ちたと思いきや、もう一人は「ソンソンソソソンソンンンン〜!」と奇声を上げて、飲んでいた茶器に何度も頭を打ち付けた。

「俺たちはここだぜっ!ここ!ほら!ここ!」

「落ち着いて下さいましお母様!ご迷惑をお掛けしました!心配ございませんから!」

 小さな体で押さえようとする二人の懸命な言動も耳に入らないようで、二人の女性ががむしゃらに暴れ始めた。

 少年は驚きを隠せなかった。親の挙動や二人の言動に、ではない。その周りの人達がまるで何事もなかったように静観している事に対してだ。少年は歪さを感じ取った。彼女らの心的外傷の発作は、彼らにとっては日常の証だった。


 騒ぎを聞きつけた族長のアルフレッドが、少年の方へ歩いてきた。

「馴染めているようでなによりです」

 族長の時とは雰囲気が違っていたアルフレッドは、昨日と同じ様に一口サイズのチョコレートを少年に向かって差し出した。

「あの……止めなくていいの!?」

「ええ。いつものことです。少しの間を置けば、落ち着きます」

 落ち着き払ったアルフレッドの言う通り、喚き散らした親達は、息を切らして落ち着きを取り戻した。

「ふぅ、驚かせちまったな。けど心配すんな兄ちゃん。いつもの事だからよ。家まで送ってくる」

「すみませんが失礼しますね、お兄さまは引き続きお楽しみいただけると幸いです」

 疲れ果ててうなだれる両親と手を繋いだライゼンとアンナは、そのまま居住区へと帰っていった。

「知らなかったとはいえ……申し訳ないことをしちゃったな」 

 仕方なかったとはいえ、少年は少しの罪悪感を覚えた。しかし、覚えのある匂いが鼻に突いて思考を止めた。

「んん?何……この匂い?あ!焦げてる!?」

 メゼスの会場の端の方で、お菓子の一部が燃えて、焼ける匂いが辺りに充満していた。

「む?これは珍しい……パトラが燃料樹脂の火力調整に失敗するとは。気合を入れすぎです」

「変ねえ~、純度も濃度も安全基準を満たしてたはずなんだけどなぁ~」

 原因は、さきほどの映像を流していた時に燃やした樹脂による引火だった。

 だが準備をしたパトラにとっては、ぜったいに起こりうるはずのない火事だった。

「あの~、原因究明もいいとは思うのですが~、はやく消火しなくちゃと~思うのですけど~」

 アルフレッドとパルが燃えている駆け寄ると、それを見て一瞬、固まった。

「なんだ……と……この短時間で燃え尽きている!?」

「これ~……ぜったいに燃えない性質のでしたよね?」

「とにかく火を消すよ!」

 リナが会場やってきて、消火用の粉末が詰まっている泡を持ってきてパチンと割ると、火は一瞬で消えた。

 しかし、燃焼物が消失してできた床にびっしりくっついていた黒い煤を見た瞬間――少年は不意に、身体中の感覚が無くなった。

「あ、あれ?何で床が……前……にぃ」

 瞳孔が大きく広がり、妙な浮遊感に苛まれ、頭の中がグルグル回転しているかのように……膝をつく。

 少年は上手く息が吸えず、過呼吸となり、汗が勢いよく吹き出す。

 血相を変えて駆け寄るリナの姿を最後に、視界が急激に暗くなり、少年はついに何も見えなくなった。



 ――…………

 ………………――……。……、……――ン……ォ――ン。ポン。パンポン。


「うぅ……ん?」


 ピンポンパンポン!ピンポンパンポン!ピンポンパンポン!ピンポンパンポン!ピンパンポンペン。


「……っ、ぅ……うるさい」


 最初に思ったのは、白い空間だという事だ。壁も天井の広がりも定かでは無く、明暗も無く仕切りもない。


 これを明確に表現する名詞が思い当たらず、僅かながら苛立ちを覚える。


 極めて耳障りな電子音は、耳を塞いでも音量が変わらない。どこから伝わっているのかさえ分からない始末だった。


「対象の覚醒を確認。おはようございまする。それではいきなり自動スキャン開始!」

 電子音声が勝手に喋り出して、許可もなく何かし出したようだ。

「診断結果。多少欠落が見られますが、ぶっちゃけ影響無しなので、話を進めさせていただきます!」

「はっ?」

 全身に思わず力が入る。節々の太々しい態度に腹が立ってきた。

「よくぞいらっしゃいました!不死身最強大繁栄、何でもありのワンダーワールド!思惑煮詰めた貴方のフェチズム御覧じろ!という訳で先ずは初期設定をしていただきます!」

「おいっ」

 高圧的に凄んでも、音声は勝手に進行を続けた。悪態をついたところで機械に感情で干渉しても無駄みたいだ。

「初めに手動か自動かを選んで下さい。手動なら自由ですが時間がかかります。中には何十年以上もここで引き篭もりやがる方がおられますが、極めて邪魔なので自動でいいですね?はい!了承頂きました!」

 何も言わずの無反応を貫くが、このポンコツ機械は強制的に話を強行し始めた。

「ではアンケート調査を実施します。率直な意見でお願いします。嘘でもいいよ。では始めます。あなたは――」

「待て始めるな!何を勝手に――」

「攻撃的ですか?防御的ですか?能動的ですか?受動的ですか?平日が良いですか?休日が良いですか?貰いますか?あげますか?起きたいですか?寝たいですか?自分ですか?他人ですか?田舎ですか?都会ですか?自然ですか?機械ですか?飼いたいですか?飼われたいですか?食べたいですか?作りたいですか?自分のモノですか?他人のモノですか?上からですか?下からですか?満たされたいですか?飢えてますか?奪いたいですか?与えたいですか――……」

 それは早口言葉のように、夥しい質問が降り注いだ。

 何一つとしてこちらの意思を尊重しない分際でしゃしゃり出るガラクタの態度に虫唾が走り、しだいに熱が帯びてきた。

「答えさせる気がないな。ガラクタめ」

「ではこれが最後の質問です。よろしおすか?貴方は――生きたいですか?死にたいですか?」


 ドクンッ――


 不覚にも生じた刹那の動揺を、音声に抜け目なく受信させてしまった。

「調査終了。基準査定承認。無意識下の無作為構築完了。思考シークエンス解析終了。条件設定開始、終結。動作確認――完了。これよりエントリーを開始します。お手洗いに行かれる場合は手を挙げて――あ、いらないようですの〜」

「おい!何だそのふざけた口調は?おい!話を聞けェ!」

「それでは、良い世界を――」

「おい!ちょ待っ――」

 内臓が浮かぶ気持ち悪さを覚えた途端、まるで落下したかのように、深く、立ちこめる闇の中に溶けていく。 


 そして、歪みが影が指すようなひびを入れ、世界が散り散りとなって崩壊した。


「てェッ!?」

 びくんと体が跳ねた。

 驚愕の表情を浮かべながら、瞳を大きく見開いて、少年の意識が戻ってきた。

「少年くん?少年くん!?わたしがわかる!?」

 黒い霧が晴れ渡るように、じわりとリナの輪郭が浮かび上がる。

「あ、あれ?さっきのは一体、リナ?ここは?」

 少年が目を覚ますと、今にも泣き出しそうなリナの顔がこちらを向いていた。

「わたしたちの家だよ。また、記憶、無くしちゃった?」

 混沌の渦中だった意識が、穏やかに収まっていく。

 そして真正面からリナの顔を見上げている光景から、少年は置かれた状況を把握する。

「リナを覚えてるから、とりあえず平気だよ。膝枕ありがとう。もう大丈夫」

 起こそうとした少年の体を、リナは優しく静止した。

「大丈夫じゃない人は、よく大丈夫って言うんだよ。まだ横になってて」

 そうして、太ももの上にまた頭を乗せた。

「大丈夫じゃなくていいんだよ」

 リナは少年の頭を撫でながら、大切に言葉を絞り出す。

「心丈夫になるまで、ひとりにさせないから。お願い」

 それは誰に向けてのものか、少年がどんなに慮っても、全く意味はない。

 少年が無言でいると、リナは小さく息を吐いた。

「ごめんね、眠っても食べてもいない人をずっと連れ回しちゃった。貴方の疲れを考慮できていなかった。本当に、ごめんなさい」 

 リナは膝枕をしている状態で頭を下げた。当然、上体がみるみる下がると、リナの豊満な胸部がこちらへ迫ってくる。

 そのせいで、少年の目の前が胸一杯で一大事だった。

「へぇ!?いやいや!?悪いのは僕だって!焦がしたのだって僕の提案が原因だしで、だから」

 触れるかギリギリのところで、なんとか押し止めた。

「でも、倒れた時、ピクリともしなかったよ?死んじゃったかもって……」

 うるうると潤んだ瞳の無垢なリナに、邪な想いを振り払う少年は必死で応える。

「気絶はそういうもんさ。メゼスも楽しかった!リナの食べっぷりで元気出たし!だからさ、そんな悲しい顔をしないでよ。ね?」

 昏い気持ちで心配りをするリナに、ようやく光が灯った。

「うん……少年くんも、優しいね。それで、どうする?もうちょこっと眠る?」

 言われた少年は、全身に意識を向けて、どこにも異常が無いことを感じ取った。

「ん〜、どこにも異常を感じないから、そろそろ起きるよ。これは本当!」

「うんわかった」

 聞き分けの良い彼女は、少年の背中をそっと支えて、ゆっくりと身体を起こしてくれた。

「ありがとう、もう心丈夫さ」

 少年が上体を起こしても平気な様子を見て一安心したのか、リナはスッと立ち上がると、湯呑みをひとつ持ってきてくれた。

「マフアの蜜茶。これ飲むとすごく安らぐんだ。熱いからちょこっと冷ましてからね、フ~フ~、はい。お口を開けて?」

 再び少年は固まった。リナが心配のし過ぎで暴走している。

「いや、いいって。自分で飲むよ」

「ダメ!わたしがするの!はい、あ~んして!」

 向かってくるスプーンをこれほど恐ろしい凶器に見えたのは初めてだと、少年は戦慄した。

 自宅のリナの強引さには、なんとなく敵わない。対処法も考えてみたが、可能性が全く無い事に絶望した。

「ぁ……あー」

 重く硬い動きで渋々開けた口内に、染み渡る深いコクと味わいが、恥ずかしさを添えて広がりを見せた。

「ぅ、うん……おいしい」

「良かったぁ。あ、ちょこっと動かないで」

 口から垂れた一滴を、リナは指で拭うだけに飽き足らず、舌でペロリと舐め取った。

「〜〜っ……そ……そういえば、水って貴重では、なかったっけ?」

 猛烈な気恥ずかしさに襲われつつも、何とか少年は言葉を切り出せた。

「だから今使うんだよ。少年くん、困っているなら、素直に頼ればいいんだよ」

 リナの言葉は、少年の心によく響く。

「そう……だね……また助けられちゃったね」

「少年くんの役に立てたなら、わたしは嬉しいよ」

 夜の静けさの中、二人の間に穏やかな時が流れている時、突如、湯呑みが倒れる音が邪魔をした。

「え?触れてないのにいきなり倒れた?これも魔法?」

「ちが、そんなわけな……え?なッ!?」

 直後、ズンッと下から突き上げるような強い揺れが起きた。

「地震だとッ!?なんでェッ!?」

 少年の叫び声をかき消す騒音とともに、段々と強く振動が波打ち、至る所から軋みが聞こえ、膨大なエネルギーが轟音を響かせる。

「揺れてる!?ありえない、なぜ!?何がどうしっ――きゃ!?」

 焦りからバランスを崩し倒れそうになるリナを引き寄せて、少年はリナを強く抱きしめた。

「リナ!!揺れは収まる!じっとして!」

 腕の中でリナは恐怖で小刻みに震えていた。服を引っ張り、額を擦るようにして耐え忍ぶリナの背を、今度は少年が支えていた。

「怖いっ、嫌ぁっ!?」

 立っていられず座り込むリナは、じっと息を呑む少年を痛いほど強く掴む。

「ん~、これは……けっこう……大きいな」

 下から突き上げる激しい揺れはなお止まらず、嵐の中にいるかのような破壊の波動が永遠に収まらない

かと、気持ちが絶え間なく掻き乱され、怖れがを抱き始めた。

 だが、地響きが鳴り始めておよそ二分が経ち、ようやく周りは静けさを取り戻した。

「地震はね、数分後には必ず収まるんだ。……まぁ、ここでの僕の常識なんて役立たずだけどね~。……あの~……リナさん。もう揺れてないし、離しても……いいんじゃないかな~?」

 とうに広げた少年の腕の中で、なおも離れずに小刻みに揺れるリナ。

「……え?あっ!?」

 言葉にならない声を漏らすと、我に返って勢いよく離れるリナの顔は、先ほどの少年よりも赤かった。

 一息つく暇もなく、家に備え付けられた鳥時計から赤い鳥が甲高い声をあげて飛び出した。

「あっ!?大変!?少年君!今すぐ私は社へ行かなくちゃいけない!」

「え?でも夜は外出禁止じゃ……」

「緊急事態に限り、宿木内なら緩和されるの!少年君は倒れたばかりだし、ここでっ……」

「行く!僕は君の監視対象だ!それに地震の事も伝えなくちゃ!」

 

 大急ぎで最上層へと向かった二人だが、すでに極彩社には、たくさんの人だかりができていた。

「避難はしません!各自、安全確保の上、被害拡大の阻止に尽力してください!」

 外からでも族長アルフレッドが声だかに叫ぶ声が聞こえる最中、急を要する二人は割り込んで前に進み出た。

「族長!お耳に入れたい情報があります!」

「お二人共!?ご無事で何よりです!それで!?」

 この状況でも礼儀正しさは相変わらずのアルフレッドだが、額の冷や汗からも焦りの色が窺える。

「今のは地震です!樹面または糖面のはるか下にある大地を支える地盤の深層がずれ動く現象を地震というんです!」

「ジシン?とは……なんでしょう?聞いたこともありませんが、どうしてそんなことを知って……」

 この時、少年は軽率な判断をしたと後悔した。もし疑いの目を向けられたら、誰もが納得するような反論はできそうに無いと。

「あ……いやその、なんか知ってました」

 少年の額からも嫌な汗が滲む。地震を常識の内と無意識に考えた少年と、当たり前ではない彼らとの乖離した認識の差は、埋めようのない隔絶された別種のものだ。

「コルトさんはなんと言ってましたか!?」

「聖賢竜殿はお話し可能な時が限られておりまして、現在応答できません。できればその、ジシン?に関して詳しく話をお聞かせ願ってもよろしいでしょうか?」

「はい!そのために来ました!」

「こちらへ」

 族長に連れられて緊急会議に参加することになった少年は、部屋に通されて壇上に立って地震の説明を伝えた。

「樹面が揺れる!?何を馬鹿な!?」

「現に全ての調査区域で揺れを観測した!そんなこと、最上位魔法だって簡単にはいかない。それが可能であるとすれば、あるいは呪法(じゅほう)なら……しかし……」

 ()()という単語に反応した少年は意識を持って行かれたが、その場にいた一人が前に進み出た。

「その、揺れるというのは、どうして起こるの?」

「えっと……世界が存在しつづけていると、大きな歪みが生まれて、それが一気に解放されたのが今の揺れって……感じかな」

 球状の星の表面にあるプレートが自然に動いて沈んでいるだなんて伝えても、地震の概念が無いカラフルの人達には正確に伝わらず、少年は語るに落ちているような気がしてきた。

 案の定、何を言っているのか分からず、彼に対して懐疑的な人が大半だった。

 議論は混迷を極め、話が行き詰まるその時――ドンと重たい音が響いた。

「つまりはこの騒動、お前が原因かえ?」

 杖をつく音が群衆の中から浮いて聞こえると、高圧的な瞳をぎらつかせ、老婆のムトーが会議室に現れた。 

 一気に緊張感が高まる少年は、思わず生唾を飲み込んだ。

 これは昨日の自分が恐れていた窮地に自ら疑いを濃くしてしまった失態、思いもよらない事態に油断した少年の軽率さが招いた重大な危機であった。

「前代未聞のこの怪異。空から落ちてきた謎の男と関連が無いとは……ちと思えぬのう」

 予想通りの責めの追及に、顔を顰めた少年は、何の対抗措置をしていなかった。

 早過ぎた。まだ少年は情報収集の段階で、なんら弁明を支える論理を展開するビジョンも描けていない。

 このままでは、少年の待遇はムトーの言いなりになってしまうだろう。

「少年君はずっと私と一緒にいました!彼は違います!」  

 しかし、彼の真後ろから力強い少女の声が上がる。

 だが、会議室の後ろから、更に別の声が彼女を咎める。

「口裏合わせは造作もない。現にその男は立ち入り禁止区域に許可なく侵入している!第一、そもそも前例持ちの奴の言葉が、皆に信用されると思うのか?」

 青い髪の女性の姿を見つけたリナは「テトっ……」と呟き、後ろめたい態度をとりながら強気な態度が一転した。


 バァアアアアンッッッッ!


「議題は何が起きたかだ!誰がやったか、ではないッ!論点をずらすならこの場から退去を厳命するッ!」

 一切の動きもなく机を叩き壊したアルフレッドの一喝で、場が静まり返ると、階段を降りる音が明瞭に聞こえた。

「少年君さんの言葉は正しいですっ!聖賢竜コルトネリウス殿の答えも、同じ地震でした!」

 会議室中に響いた声を聞いて、ムトーは目を閉じて沈黙した。

「そうですか……他には?何か指示などはありませんでしたか?」

 族長の質問に、パトラは首を左右に振った。

 それと解った老婆は再び開眼して声を上げた。

「解は得られた。族長や、次は……危険と思われる要因の対策ではないかのぅ?」

 テトと呼ばれた強気な女性もそれに続く。

「ソレはコルト殿とは何もかも違う!正体不明、虹鳥に襲われ、慰霊碑を破壊、不当侵入に不吉な色で気絶、そして地震とかいう別世界的な知識の保持。ここまで証拠があれば十分だ。カラフル守備隊長として、余所者の宿木からの追放を要求する!」

 ドンッと杖を叩きつけて、ムトーも追撃の言葉を続ける。

「それではちと甘いのう。これ程の影響力を理解する危険性じゃ。逆恨みでもして報復されては敵わん。心苦しいが、処分も――検討すべきじゃのぅ」

 少年を見るムトーの目付きが、より鋭くなった。

「食わず眠らずとは……貴様本当に生き物なのかえ?此度の地震もお前がしでかしたのではないか?過去一度とて起きなかった稀事じゃぞ」

「自作自演。恩を作って懐に入ろうという策謀ではないのか?貴様のずる賢さは、子供相手には通用したのかもしれないがな!」

「先のメゼスでの事故もお前が仕掛けたのではないのかぇ?」

「球状の世界に地震――それらは埒外の知識だ!前任者コルトのように信任を得られると思っての計略か!?我らカラフルも侮られたものだ」

「己の口のみ。記憶喪失の真偽など他者には証明できぬ。年頃の色づいた小娘をたぶらかすのは容易でも、他の目は容易くはいかぬぞ?」

 好き勝手に言われるがままの少年は、俯瞰的に考えても反論する余地も無く、ただ黙る他なかった。

 言い逃れ不可能なほどに周りの空気は一色だった。

 それでも少年は、いますぐに殺される訳ではなさそうな時点で、最悪の場合は回避できていると認め、半ば諦めかけていたその時――。


「少年君はそんな人じゃないッ!」


 となりから、大きな声が部屋中に響き渡った。


「何も知らないのに、悪く言わないでください」

 そして聡明な通る声色で、今までの話の流れを一気に断ち切った。

 

 静まり返る部屋の中で、間近に聞いていた少年は小さく感動していた。

 ――リナが、ぼくの為に本気で怒ってくれている……なぜだ?リナの立場が悪くなるだけなのに、どうしてこんなに嬉しいのだろう?

忌子(いみご)が吠えよるわ……呪鬼(じゅき)復活の前触れかのう」

 自身の待遇の行く末などどこへやら、少年は(忌子?ジュキ?なんそれ?詳しく!)と思い、間違いなく核心に至る単語を脳裏に焼き付けた。

「あれやこれやと言うて結論は出ず、違う意見は対立するばかり、これ以上は無駄話じゃ」

 ムトーは、ターゲットを少年から族長へ変えた。

「意見番として提案じゃ。他の者も言わぬだけで同じ腹、言の葉で疑惑は拭えぬよ。みなが納得する法は一つ――神前志合(しんぜんしあい)で決めようではないか!」

 その言葉に、皆の緊張の糸が張り詰める。

 族長が割って入ろうとするものの、ムトーは声で黙らせる。

「儂は!テトを指名する!さて本来なら少年殿一人きりじゃが、魔法も使えぬとあっては数の内には入らぬ。故に使える者との共闘が然るべきじゃが、はてさて誰が組むのかのう?もし名乗り出る者がおらぬようなら――」

「――その心配はいりません!私が出ます!」

 リナは、ムトーにも負けない気迫で堂々と正面に立った。

「良い。日時は明朝、六時。少年殿が勝てば全て不問とし負ければ追放。抵抗すれば殺処分じゃ。良いな族長?あぁちごうたなぁ、聖賢竜殿にお伺いをたててもらっても良いかの?アルフ坊や?」

 族長のアルフレッドは眉間に皺を寄せながら、挑発的なムトーを睨み付け、上の階へ上がろうとしたが――。

「いいえ結構です。カラフルが巫女姫!リナ・クーフィン・カラフルが厳命――神前志合を行います!」

 凛と通る声で唱えられた巫女姫の厳命に、皆が青ざめるほどのどよめきを見せた。

「族長アルフレッドが厳命します。みな疾く帰宅して体を休めよ。以上――解散するっ!」

 厳かにそう宣言されてから後、集まった一同は思い思いの表情で社の出口へと向かったのだった。

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