第7話 スキル・イズ・パワー︰新スキルとステータス
丈一郎は、倒れたゴブリンのそばにしゃがみ込んだ。
「さて……いただきますか」
心の中で《捕食》を選ぶ。瞬間、死体がふわりと光に包まれ、蒸気のようにほどけていく。
《新たな職業が解放されました》
《職業:盗賊 が追加されました》
《スキル:気配察知 Lv1 を獲得しました》
「……と、盗賊!? ついに人間ぽい職業きた!」
思わず声が出た。だがすぐに、肩をすくめて苦笑する。
「……いや、犯罪者じゃん。まっとうな仕事じゃないな。ま、いっか」
ステータスを開いて確認する。
【ステータス】
職業:捕食者/掃除人/盗賊
「3ジョブ目……やっぱりAPも増えてる」
追加されたスキルもチェックする。
《気配察知:周囲にいる敵性存在の“気配”を感知する(精度・範囲はレベルとINT依存)》
「感知系か……これはソロだと助かるな」
実際、森の奥にいる何かの存在を、意識を向けただけで“感じる”ことができるようになっていた。風の中に混じる違和感、草むらの先の“いるかもしれない”重み。はっきり見えはしないが、“そこに何かがいる”という直感が得られる。
「こりゃあ……罠がバレる前に位置を変えたりできるな。使える」
それから、丈一郎はしばらく同じような方法でゴブリンを狩った。木陰から見張り、罠で落とし、動揺した個体を体当たりや鉄パイプで仕留める。完璧なルーティンワークだった。
三体、四体と倒して捕食していく中で、追加のスキルアナウンスが鳴った。
《スキル:棍棒術 Lv1 を獲得しました》
《スキル:弓術 Lv1 を獲得しました》
「おお、武器系きた。これは嬉しい」
鉄パイプを軽く振ってみると、わずかだが重心の取り方に変化が出ていた。
「なるほど、技術が補正される感じか……命中率も上がってるな」
弓術はまだ弓が手元にないため試せないが、いずれ活用できるだろう。丈一郎は満足げに頷きながら、気配察知で次の敵を探そうと森の奥へ踏み込む。……その途中。
ふと足元に、赤く熟した実をつけた低木が目に入った。
「……ん?」
慎重に近づき、ひとつもぎ取る。大きさは小粒のトマト程度。毒々しさはない。一瞬ためらうが、思いきって歯を立てる。
「……あまっ!」
予想外に、甘くてジューシーだった。舌に嫌な刺激もなく、喉越しも自然。
「……これ、食えるぞ……」
丈一郎の脳内で、一つの線がつながる。
「ってことは……この森、“食料”があるのか……?」
第二層までは“ゾンビかスライムしかいない空間”だった。だがこの層は違う。植物がある。実がなる。空がある。
「ここ……自給、できるんじゃね?」
その瞬間から、探索のモードが切り替わった。
「……よし、採るか」
丈一郎は《収納》スキルを発動。意識で木の実を指定するだけで、手を伸ばさずとも実が消えるように吸い込まれていく。
「あーこれ便利……背伸びもしゃがみもいらねぇ……」
3メートル圏内なら、その場でくるくる視線を巡らすだけで、目についた実をどんどん回収できた。さらに、地面に目を向けると――
「……あ、キノコ」
灰色と茶の混じった傘をつけたキノコが、木の根元にいくつも生えている。怪しいやつは避けつつ、小さくてぷっくりしたものだけ選んで《収納》。
「見分けはつかんけど、焼いて試すって手もあるしな」
口元に笑みが浮かぶ。
敵は強すぎず多すぎることもない。食料を見つけて補給もできる。まるでこの森は、“探索のチュートリアル”として設計されているかのようだった。
「……ダンジョンって、案外優しいのか? 2層、3層のバランス考えるとますますゾンビの位置ミスってると思えてくる」
丈一郎は、ひとまずの収穫に満足しながら、森の中をゆっくり歩きはじめた。その日は、いつもより早めにダンジョン探索を切り上げていた。
理由はひとつ。新たに取得したスキルと職業の検証、そして――ステータスの割り振りをじっくり考えるためだ。
スイートルームに戻った丈一郎は、非常灯をテーブルに置き、ソファに深く腰を沈めた。
「さて……見るか」
頭の中で《ステータス》と念じると、脳裏にあの透明なウィンドウが開かれる。丈一郎は、非常灯の明かりの下でステータス画面を見つめながら、腕を組んだ。
「そろそろ……ある程度、振っていくか」
これまで溜めに溜めたAPは、305ポイント。さすがにここまでくると、振らずに抱えたままなのはもったいない。
「……職業に合わせて振っていくのがセオリー、ってのがゲームの定石だったな」
前衛ならSTR、魔法職ならINT。今もってる盗賊みたいな職ならAGIやLUKだって重要だった。
「けど、俺の職業……盗賊はいいとして…捕食者、掃除人……」
思わず苦笑が漏れる。
「いや、セオリーにねぇんだよなあ。こんなジョブ構成」
どれも独自すぎて、定石なんてあってないようなもの。
「……ってことは、今後さらに何が来るか分かんねぇってことだよな」
魔法職が来るかもしれない。サポート職かもしれない。いや、またモンスター系で《ゴーレム》とか《ドラゴン》とか、とんでもないのが増える可能性もある。
「なら、汎用性と今のスタイルをベースにして、しっかり振っていくしかない」
丈一郎は画面を操作しながら、最初のステータスを選んだ。
「まずは、HP」
これはゲームの世界では無いのだ。死んだら終わり。どんな職でも必要不可欠な基礎体力。ゾンビだろうと魔法使いだろうと、生きてなきゃ意味がない。
「よし、VITに30振る」
【VIT:10 → 40、HP 90 → 180】
「次は……AGIだな」
ソロで動いてる今、攻撃よりもまず回避と行動速度の方が大事。盗賊職とも相性がいい。
「AGIに25振りっと」
【AGI:15 → 40】
「んで、やっぱSTRも外せねぇよな」
ダンジョンのゾンビやゴブリン相手に、鉄パイプで殴ってる限りは火力こそ正義。それに、あのLv.MAX体当たりの威力――あれをさらに活かすならSTRを伸ばすしかない。
「STRに45振り」
【STR:15 → 60】
そして最後に、ふと目が止まったのがLUK(運)の項目。他の項目の初期値は10だった。けど、LUKだけ15あった。
なぜかはわからない。けど――思えばこれが、自分をゾンビ化から救い、ダンジョンに落ちてステータスを得る道を開いてくれた気がしていた。
「……運、か。確かに、あの時の俺には“運”があったんだよな」
ゾンビに噛まれた。でも死なず、感染もせず、ダンジョンに落ちた。そこでスキルを得て、今、生き延びている。
「よし、LUKにも15振っておこう。命中も、あるかわからないけどクリティカル率も上がるだろうし、お守りみたいなもんだな」
【LUK:15 → 30】
操作を終え、改めてステータスを表示する。
【ステータス】
名前:桐畑 丈一郎
職業:捕食者/掃除人/盗賊
レベル:6
経験値:21/60
HP:180/180
MP:45/45
STR:60
VIT:40
AGI:40
INT:10
LUK:30
スキル:捕食、打撃耐性、噛みつき Lv5、腐食耐性 Lv2、麻痺耐性 Lv2、毒耐性 Lv1、暗視、溶解液 Lv5、体当たり LvMAX、収納 Lv2、気配察知 Lv1、棍棒術 Lv1、弓術 Lv1
残AP:190
「……強くなってきたな……」
表示されたステータスを眺めて、丈一郎は静かに呟いた。生き延びるために必死だったが、生き抜ける体へと変わりつつある。
「ま、でも……ここまできたらもう、楽しむしかねぇよな」
軽く肩を回しながら、丈一郎はテーブルに置いた果実をかじり、水をひと口飲んだ。