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ダンジョン&ゾンビーズ〜崩壊した世界で、職業ゾンビが世界最強〜  作者: 楽太郎
第2部/第1章 ダンジョン&キョンシーズ
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第73話 道士

 道士。その名を口にする時、人々は深い敬意と、底知れぬ畏れをその響きに込める。


 彼らは生と死の狭間に立ち、陽の当たることわりの世界と、陰に蠢くことわりの外の世界、その両方に通ずる者たちだ。街の喧騒から離れた場所にひっそりと佇む『義荘』。そこが彼らの住まいであり、仕事場でもある。線香の香りが絶えず、故郷へ帰る日を待つ棺が静かに並ぶその場所で、彼らは死者の魂を慰め、安らかなる眠りへと導く。風水に基づき吉地を選んで埋葬し、時には過去の過ちを正すため、凶地に眠る墓を掘り起こし改葬することさえ厭わない。


 普段は風水を読み、天の理を説き、人の行く末を占う町の相談屋でもある。しかし、彼らの真価が問われるのは、夜の帳が下りた時。誤った埋葬、満たされぬ怨念が、硬直した屍を蘇らせ、人の生気を求めて彷徨わせる——すなわち『殭屍キョンシー』が現れた時である。


 彼らの手は、朱と墨で描かれし霊符一枚で、跳ねる屍の動きを封じ、清められし銭を束ねた剣は、あらゆる邪を断ち切る。桃の木を削り出した剣は闇を払い、磨き上げられた八卦鏡は妖光を跳ね返す。それは、気の流れを読み、宇宙の法則を体現するための、永い修行の果てに得た力。精神を研ぎ澄ます道教の教えと、骨を砕くほどのカンフーの鍛錬。その両輪なくして、道士を名乗ることは許されない。


 人々が平穏な日常を謳歌できるのは、夜の闇の中で、人知れず繰り広げられる彼らの戦いがあるからに他ならない。道士とは、すなわち、この世の秩序を守る、最後の砦なのである。


 その役割は、都市がきらびやかに発展し、夜の闇が遠のいた現代においても変わることはない。陰陽は表裏一体。人が生きる所に人の死がある限り、理の外より来る脅威もまた、決して滅びはしないのだ。


 辟邪派ぴーしぇぱい——まさにその伝統を現代に受け継ぐ、由緒正しき道士一派である。そして、その頂点に立つのが、陳 清和チェン・チンホーその人であった。


 *


 闇に沈んだ香港の街路で、三人の道士は背中合わせに陣を組む。その周囲を、無数のキョンシーが硬直した足取りで、じりじりと取り囲んでいた。


 静寂を破ったのは、陳老師の気合一閃だった。


「喝ッ!」


 言霊が宿ったかのような鋭い声とともに陳老師の姿が消える。常人離れした踏み込みでキョンシーの群れに肉薄すると、まるで柳のようにしなやかでありながら、芯には鋼を宿した動きで、一体の腹部へと掌打を叩き込んだ。


 鈍い破裂音と共に、キョンシーは背後の数体を巻き込みながら吹き飛ばされる。さらに左右から迫るキョンシーの鉤爪を、老師は手にした拂塵はたきで軽々と受け流し、淀みない蹴りで次々と蹴り飛ばしていく。


「ワシに抱きついてよいのはお嬢ちゃんのみよ」


 最初に吹き飛ばされたキョンシーが、起き上がろうと身じろぎする。だが、その動きはすぐに止まった。掌打を受けた腹部には、いつの間にか黄色い呪符が貼り付けられており、そこを起点に青白い浄化の炎が燃え上がったのだ。蹴りを受けた他のキョンシーも同様だった。老師の一挙手一投足は、ただの体術ではない。触れると同時に呪符を貼り付け、霊力を込めて遠隔で発火させる、まさに神業。呪符を貼られたキョンシーたちは、周囲の仲間を巻き込みながら、なすすべなく焼き払われていった。


 その神業に、宇軒ユシュエンも負けてはいない。彼は師とは対照的に、舞うようにキョンシーの群れへと飛び込むと、手にした桃剣を次々と打ち付けていく。その剣は、悪鬼を祓う力を持つとされる桃の木の中でも、仙桃と呼ばれる伝説の木から削り出された至宝「天元仙桃剣てんげんせんとうけん」。


 剣先が硬直した屍の額に触れる、ただそれだけで、キョンシーは聖なる光に包まれ、塵となって崩れ落ちていく。一切の無駄がなく、流麗でありながら、その一撃一撃は必殺の理を宿している。道士になってたった五年で次代を担う天才と言わしめた所以が、その剣さばきにはあった。歴史上、彼以上の桃剣の使い手はいないのではないか。そう思わせるほどの、完璧な剣技だった。


(すごい……)


 心玥シンユエは、師と兄弟子が作る嵐の合間から漏れてくる数体のキョンシーと対峙しながら、二人の圧倒的な実力に驚愕していた。一体を銭剣でいなし、護符で滅する。今の自分でもできるようになった動き。だが、彼らのそれは次元が違う。


 道士としての力を得て、気の流れを肌で感じられるようになった今だからこそ、二人の戦いがどれほど規格外のものであるかを、彼女は痛いほど理解できた。


 絶え間なく湧き出るキョンシーを、三人の道士は的確に、そして冷静に討ち祓っていく。だが、その数は減る気配を見せない。終わりなき戦いの最中、陳老師が背後の二人に檄を飛ばした。


宇軒ユシュエン小心シャオシンと共に侯王古廟ハウウォンコミュウへと向かえ! あそこには龍脈とつながる結界があるはずじゃが、この状況となった今、機能していない可能性が高い。状況を確認し、場合によっては再起動するのじゃ」


 その声に応じ、宇軒ユシュエンは迫りくるキョンシーの額を桃剣で軽やかに打ち据える。聖なる一撃で塵と化す様を見届け、汗一つ浮かべぬ涼やかな顔で師に問うた。


「わかりました! 老師は?」


「ワシは文武廟マンモウミュウ黄大仙祠ウォンタイシンへと市民を避難させつつ、この騒動を起こしたこんを断つために動く。そなたらは侯王古廟ハウウォンコミュウで結界の確認の後、一人でも多くの民を救え。ワシも、夜が明ける頃には一度そちらへ戻ろう」


 その言葉に、宇軒ユシュエン心玥シンユエは力強く頷いた。師の圧倒的な実力を誰よりも知る二人に、心配という感情はない。ただ、己のなすべきことを成すのみ。二人は視線を交わすと、すぐさま新たな行動へと移っていった。

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