幕間2 ダンジョン第5層の奥、とある場所で
東京ダンジョン第五層。その広大な空間の奥深く、獣は静かに眠りについていた。
眠りにつく獣の中心で、ふと、その存在は目を覚ます。ここはどこだろうか。暗い。ひたすらに暗い。そして、息苦しいほどの重圧が全身を覆っている。
『……我が、守護してきた地は、どうなっているだろうな』
記憶の奥から、かつて駆け抜けた武蔵野の豊かな緑が、一瞬の幻のように蘇る。人々の祈りが、風に乗って耳に届く幻聴。しかし、現実は暗闇だけだ。
体が、自身のものではないようだ。重く、おぞましく、そして何よりも、ひたすら力が吸い取られている感覚が全身を蝕む。意識の核が、まるで砂のように零れ落ちていく。
体内には、自分だけではない“何か”の気配がいくつも蠢いていた。共に眠る――古きの友の気配。彼らもまた、この闇の中で歪められ、力を奪われ続けているのか。
記憶が曖昧だ。神域へ、あの男がやってきて、そこからどうなったのか。全てが混濁し、はっきりと思い出せない。ただ、あの男の、異質な、しかし抗いがたい力だけが、焼き付くように残っている。
――そして再び、意識は深い闇の底へと沈んでいく。抗いようのない重力のような闇が、その存在を包み込んだ。
やがて、闇の中で獣が身を起こす。そして、地上の獣とは明らかに異なる、おぞましい咆哮を放った。
それは、来るべき存在を察知したかのように。
――この先へは、誰一人として通さぬという、決意の声であった。




