第4話 ゾンビ都市〈新宿〉
新宿駅の地下――かつては何百万人が行き交っていた場所。人通りは完全に途絶え、大きな裂け目があるのみだった。
いや、正確には人通りは以前ほどではないが、それなりにある。全てがゾンビであるという点を除いて。
翌日。丈一郎はホテルで手に入れた非常灯と鉄パイプ、非常食をリュックに詰め込み、再び新宿駅の地下へと向かっていたのだった。
第一層。変わらない構造。だが、“潜る目的”は変わっていた。今回は明確に、“スキルを得る”ための探索。そして、それがいずれ生活手段に繋がることも見越していた。
丈一郎は慎重に歩き、最初のゾンビを発見。これまで通り鉄パイプを叩き込む。ぐしゃっ――という音とともに、ゾンビが崩れ落ちる。
《レベルが2に上がりました》
レベルアップのアナウンスが鳴る。すかさず捕食スキルを発動する。
《スキル『麻痺耐性』を獲得しました》
「よし、順調……」
レベル2。HPとMPがわずかに上がるのを実感する。だがスキルは《麻痺耐性》ひとつだけ。
(同じゾンビばっかじゃ、限界あるか……)
それでも少なくとも経験値は確実に貯まるだろうと丈一郎は手を止めなかった。
さらに、数体のゾンビを倒す。もはや戦いに戸惑いはない。殴る、かわす、押し倒す、叩き潰す。その過程で得たスキルは以下のとおりだった。
・暗視
・毒耐性
・麻痺耐性 Lv2
・腐食耐性 Lv2
・噛みつき Lv5
「……噛みつき、めっちゃ育ってんじゃん」
確認すると、いつの間にかLv5になっていた。流石にゾンビ相手に噛みつきたいとは思えず、まだ試してすらいない。
「……やっぱり、同じスキルを繰り返し覚えたらレベルが上がる……ってことか」
同種のゾンビばかりを倒し続けている。そのせいで、新しいスキルの取得は頭打ちになってきた感がある一方、“すでに持っているスキル”――とくに《噛みつき》だけがやたらと育っていた。つまり、重複取得したスキルは、上書きされる形で強化されていくらしい。
「だったら今後、スキルは“集める”だけじゃなく“育てる”ことも意識したほうがいいってことか……」
丈一郎は、暗がりの中で顎に手を当てた。ふと、思い浮かぶ。《噛みつき Lv5》……
「これもう、牛の皮とかゴムでも美味しく食べられそうだな……俺」
自分で言ってから、バカらしくなって苦笑する。ひとりで冗談を言いながらゾンビを倒していき、気がつけばレベルは4になっていた。
【ステータス】
名前:桐畑 丈一郎
職業:捕食者
レベル:4
経験値:0/40
HP:70/70
MP:35/35
STR:15
VIT:10
AGI:15
INT:10
LUK:15
スキル:捕食、噛みつき Lv5、腐食耐性 Lv2、麻痺耐性 Lv2、毒耐性 Lv1、暗視
残AP:99
「おお、きたきた。次、経験値が40か……結構楽勝だな。APも9増えてる。てことは1レベルごとに3ポイントか」
おそらく最初の100ポイントは初期ボーナスなのだろう。3ポイントずつしか増えないのであれば、無駄な割り振りをすることはできない。
(昔ハマったオンラインゲームでは、職業に合わせて最適解に割り振るものだったけど……俺の仕事ゾンビだしな)
なんにせよ、現状ポイントを振るのは早計だと判断した。そうして奥へ進む。
ゾンビの数は減ってきた。代わりに、空気が変わる。壁の岩質、足元の踏み心地、通路の幅。その先――
「……あった」
通路の終わり、やや広くなったスペースの先に、それは静かに口を開けていた。
石造りの階段。岩盤に囲まれた自然の洞窟には不釣り合いな、なめらかに削られた階段が、下方へと続いている。
誰かが“作った”形跡。それが、この空間の異質さを一層際立たせていた。
「これが……第二層ってやつか」
丈一郎は一歩近づき、階段を見下ろした。暗く暗視スキルでも先が見えない。空気が澱んでいるのを感じる。だが確かに“先”があることがわかる。
(とりあえず今日はここまで、だな)
スキルも手に入れた。レベルも上がった。場所もわかっているし、あわてて突っ込むべきではないだろう。そう判断して、丈一郎は、階段に背を向けた。