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第16話 ライジング・デビル:立ち上がる巨悪

 新宿上空、東京・新宿大学病院。


「視認した。屋上に人影多数。子供含む、少なくとも十名以上」


 UH-60Jヘリコプターの操縦士が報告する。第一編隊の先頭機には、陸上自衛隊 特殊作戦群――通称「特戦群」から選抜された五名が乗っていた。


「着陸する。ホバリング限界。速やかに収容、各機交代で投入せよ」


 機内に響くインカムの声に、隊長・大島 おおしま・りょうが頷いた。


「了解。全員、展開準備。初動収容優先、交戦許可は私が出すまで待て」


 ローターの風が舞い上がる中、UH-60Jが屋上へと降下していく。


 屋上では、舞い散る埃の中子供たちが目を細めながらヘリへと駆け寄っていた。


「……来てくれた……ほんとに……!」


 叫ぶように声をあげる女医。看護師、患者たちも次々と立ち上がる。


「急げ、収容開始!」


 特戦群の隊員たちが手際よく子供を抱き上げ、ストレッチャーを用いて患者を運び込む。乗せられたのは――子供4名、老女を含む患者4名。さらに看護師2名が患者につき、合計10名。通常なら定員オーバーのはずだったが、緊急時の例外措置だ。


「次の機が10分以内に到着予定です。残りの方はここで待機を!」


 副隊長・真壁 翔一まかべ・しょういちが女医に声をかける。


「はい……分かりました」


 女医は、舞・恵理・もう二名の若い患者に声をかけると、屋上の隅へと移動し、真壁から支援物資の毛布と水を受け取って座り込んだ。


 真壁が物資を渡しているその頃、特戦群4名は装備を手に迅速に行動を開始していた。


「隊長、階段は2箇所。職員エリアと西棟側です」


「分かれよう。俺と岸本が職員エリア。南雲、坂口は西棟を頼む」


「了解!」


 通信を交わすと同時に、彼らは二手に分かれてそれぞれの目標へと移動を開始した。職員非常階段前へと移動した大島たちは、その手前で足を止めて警戒を強める。


「……ここか」


 大島が手信号を出し、岸本優が頷く。銃を構え、ゆっくりと非常扉を開ける。コンクリの階段。錆びついた手すり。ひんやりと湿った空気が鼻腔をかすめた。


「静かですね……」


 岸本が言いかけた、その瞬間だった。


 ドォンッ!!!


 階下から突き上げるような轟音が、鉄骨を通じて響いてきた。


「……なにかが来るぞ」


 大島が、目を細める。その音は、ただの足音ではなかった。ズン……ズン……と、地響きにも似た足音が鳴り響く。


「……重い」


 大島が、わずかに顔を引きつらせる。質量。圧力。空気を押し返すような圧が、階段の奥からじわじわと迫ってくる。まだ姿は見えない。だが、そこにいる“何か”が、人間ではないことだけは確かだった。


「……非常階段で戦うのは無理そうだ」


 大島は即断した。狭い構造。逃げ道のなさ。接近戦のリスク。すべてが不利だ。


「岸本、後退。LAMの用意をし後方の安全を確保。俺がやる」


 階段内部から這い上がってくるような重低音。建物全体が軋み、床下から振動が伝わってくる。


「来る……後方確保。撃つぞ、タイミングは俺が取る」


「了解。後方、クリア」


 大島 諒は、LAM――110mm個人携帯対戦車弾を肩に構えたまま、屋上出口の正面で陣取る。足音が迫ってくる。一段一段、距離が詰まるのを感じる。


 バギャァアアアンッ!!!


 轟音と共に扉が破壊された。鋼鉄の板が内側へとねじ曲がり、異形の腕が飛び出す。膨張した筋繊維。ぶちまけられた膿と血。次の瞬間――


「――今ッ!!」


 バシュッ――!!!


 大島がLAMを発射。110mmの成形炸薬弾が、火花と噴煙を巻き上げながら扉の内側からまさに今、覗かせた異形の顔へと炸裂。


 ズガァアアアアンッッ!!!


 非常階段の天井や壁面のコンクリートが、吹き飛ばされた異形の巨体とともに崩れ落ちる。残るのは瓦礫の山。


「……閉じたか」


 しばしの沈黙ののち、崩落した煙の向こうをじっと見つめていた大島がそう呟いた。


「撃破確認――通路崩落、完全に封鎖されました」


 岸本が小さく頷く。これで、時間は稼げた。屋上の安全は、一時的にでも保たれたと判断し、撤退する。


 ――だが、終わりではなかった。



*  *  *



 ヘリポート近くの屋上の隅では、待機していた女医と患者たちが、その爆音に怯えながらも、事態の収束を感じていた。


「今の音……爆発?」「戦闘が始まってるってこと?」


 そう言い合う彼らの頭上に、再びヘリの音が響いた。


「……来た……!」


 次のUH-60Jが、ゆっくりと屋上上空へと接近してくる。ローターの風が、毛布と髪を激しく煽る。


「これで、みんな……助かる……!」


 女医の目に涙が滲んでいた。看護師も、舞も恵理も、つかの間の安堵に胸をなでおろす。ヘリがホバリングを維持しつつ、着陸態勢に入るその刹那。


 ――シュッッッッッ!!!


 “瓦礫”が真っ直ぐにヘリへと飛んできた。


 直径50センチのコンクリ塊が回転しながら空を裂き、ヘリの尾部に直撃する。


「ッ……!」


 声にならない悲鳴が上がる。機体がぐらつく。ローターがブレる。警告音が機内に鳴り響く。

 そして――機体は屋上の一角に触れたのち、制御を失いながら――隣接する中層ビルに、激突した。


 ――ドォォンッ!!


 爆音。黒煙。揺れる空。屋上にいた全員が、目を見開いて立ち尽くした。助けが、目の前で――消えた。

 そして、それを起こした“モノ”が――飛んできた瓦礫の山から、ゆっくりと巨大な影が立ち上がる。歪んだ骨格。肥大化した筋肉。半壊した顎からは、よだれ混じりの呻き声が漏れていた。


 ただのゾンビではない。超大型の異形――規格外のゾンビだった。

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