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二つ星  作者: 蒼星
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ジフィールド公爵に仕えることが決まって一か月がたった。

あれから公爵の言われた通り僕らはいろんなことを学ばせてもらっている。

地理や歴史、細かいところではテーブルマナーなど様々だ。

その中でも特に面白かったのはやはり魔術だろう。

前まで教えてもらっていた魔術よりも高度な魔術を教えてもらっている。

今も魔術の授業中だ。僕たち四人の前でサノスさんが授業をしている。


「つまりじゃ、魔術とは自分の意思を魔力に込め世界の法則を書き換えることじゃ。じゃがそれでは魔力の扱いがうまいもの、もしくは意志の力が強いもの以外が魔術を使えん。そこで詠唱が必要になるということじゃな。詠唱とはアインシュタッド・カシコスによって開発され・・・」


サノスさんの授業はとても分かりやすい。わかりやすいのだが話が長いのが残念だ。

無詠唱をするための話からかれこれ一時間は経とうとしている。

このままいけば魔術の実践ができなくなってしまう。


「サノス殿、無詠唱のやり方やその有用性など解説していただきありがとうございます。

ですがもうそろそろ魔術の実践訓練の時間では?」


「おお、そうじゃったな。少し話過ぎてしまったようじゃ。すまんのう。ではみないつも通り庭の訓練場へ向かっておくれ。」


ジフィールド家には三人の子供がいる。

今話を区切ってくれたのは次男であるアイク様だ。

そして僕の隣で眠たげにあくびをしているのが長女であるメルン様。

長男の方は王都にある学院の方で勉強しているらしい。


「ねえさま、そう眠そうにしないでよ。」


「わかってるわよ。でもね、私夜型だから眠くって。」


未だ眠そうにふわぁとあくびをしているメルン様。

あきれたように顔を振るアイク様。

魔術と剣術の訓練では、僕たちはこのお二方とともに授業を受けることが多い。

なんでもアミール様がそう手配しているとか。


「メルン様、もう行かないと間に合いませんよ。僕たちが荷物をお持ちしますからがんばりましょう。」


「あら、本当?なら任しちゃおうかしら。それともう一つ。敬語はもういいって言ったでしょ。一緒に授業を受けてるのだから普通に話しましょうよ。」


「そうだよ。ここは公の場ではないし、気にすることはないよ。そのほうが友達みたいでいいしね。」


「そういわれても・・。」


「いいんじゃね?お二人がそうおっしゃってるんだし。」


「ジルまで・・。」


この方々は出会った時からこの調子だ。

僕たちが訳ありであっても何もないように接してくれる。

とてもありがたいことだけど僕にはつらい。また新しく僕の大事な物を増やすのが怖い。

ジルはすぐに友達みたいにふるまっていて少し羨ましかった。


「・・・まあ、難しかったら今じゃなくてもいいわ。それより訓練にいきましょ。」


そういいながらメルン様は訓練場を目指す。

それについていくように僕らも訓練場へ向かった。


訓練場に着くとサノスさんが先に来ていて結界を張っていた。

魔術の訓練をするときはいつも結界を張っているが、いつもの結界より厚く見える。

いつも通りの訓練ではなさそうだ。


「よし、皆来たようじゃな。最近魔術もよく上達しておるし、今日は模擬戦を行おうと思う。もちろんけがはさせぬとも。危なくなれば儂が止めよう。それでは誰から始めるかのう?」


「なら私からしたいわ。相手はルドで。」


「ええ!?僕ですか!?」


僕と戦おうとするのもそうだが、あのメルン様がやる気を出していることが一番驚きだ。

メルン様は自分で夜型と言っていた通り午前中は恐ろしくやる気がない。

朝方に訓練があると部屋まで迎えに行かないと来ないし、でてきても寝巻の状態で行こうとする。

そのだらしなくてやる気のないメルン様が、だ。

今日に限ってやる気を出している。明日は大雨かもしれない。


「ねえ、失礼なこと考えてない?」


「まさか、そんなことないですよ。」


じっとこっちを見ているメルン様を笑ってごまかす。

危ない、心が読まれたのかと思った。


「まあ、いいわ。それでなんだけど、今じゃなくてもいいって言ったの取り消すわ。もし私が勝ったら友達のように接しなさい。負けたら何か言うことを聞いてあげる。」


「えっと、それは・・。」


「なんとなく引け目があるのは分かるわ。でも今のままのあなたでは一生苦しむだけよ。それにね。」


「それに?」


「それに私が嫌なの。せっかく一緒に学んで暮らしているのよ。仲良くならなきゃ損じゃない。私は、いいえ、私たちはあなたと友達になりたいの。」


その言葉がじんわりと染み渡る。

あの日、村を焼かれたあの日に僕の心は取り残されていた。先に進むのが怖かったから。

でもこうして僕の事を必要としてくれるなら。

また先に進むのもいいかもしれない。


「・・わかりました。模擬戦しましょう。でも僕、勝ちに行きますから。」


「ふふ、いい度胸ね。私も負けないわ。」


結界の中へ歩みを進める。

さっきまでの僕とは何かが違うのを感じていた。

今までの憑き物が取れたようなそんな感じがした。


「では、はじめ!!」


合図があった瞬間、風の槍を放つ。

そして着弾するまでの間に次の準備を整える。


「風よ、私の周りを吹き荒れろ!!」


メルン様が風の魔術を発動し風をまとう。

先ほどの風の槍を吹き飛ばしたようだ。

だがこちらの準備はもう済んでいた。


「土の巨人よ!!」


僕の後ろから巨大な土の手が現れ、メルン様を狙う。

まとっていた風が少し邪魔をしたようだが、そんなのは関係ないとばかりにつかみあげた。


「そこまで!!今回の模擬戦はルドの勝ちとする。」


サノスさんの声でメルン様を下へ下ろし、魔術を解除する。

すると何もなかったかのように巨大な腕は消えてしまった。


「今回は私の負けね。残念だわ。」


「はい、僕の勝ちです。なのでお願い事をしてもいいですか?」


「ええ、いいわよ。」


「では、・・・僕と友達になってもらえませんか?」


それを聞くとメルン様は一瞬きょとんとした顔を浮かべるもすぐに満面の笑みになって。


「いいわよ!!」


嬉しそうに受け入れてくれたのだった。

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