8
翌日ベッドから動けない僕を気遣ってジルが朝食を持ってきてくれた。
朝食は村にいた時よりも豪華でとてもおいしかった。
食事を続けながらジルと話をする。
「なあ、ルド。おまえ背中のけがは大丈夫なのか。起き上がれないぐらい痛いのって相当だと思うんだが。」
「大丈夫ではないけど、今日の昼頃に神官の方が来てくれるんだって。それまでは我慢かな。」
回復魔法を使える人はかなり少ないらしい。
というのも回復魔法は魔法とは言うものの魔力より神への祈りが重要らしく、一部の神官にしか使えないんだとか。
「そうか、なら仕方ないな。にしたってここすげぇよな。さっき見たけど廊下も広いし部屋もでかい。しかも飯までうまいとくればいうことなしだ。町ってのはこんなすげぇ場所ばっかなのかな。」
「いや、そういうわけではないぞ。」
二人でそんな話をしているとドアの開く音がした。
黒いローブに身を包み大きな杖を持ったサノスさんが部屋に入ってきた。
「おはよう、ルド、ジル。今日もいい天気じゃのう。」
「おはようございます。」
「おはよう、サノスさん。町がここみたいな場所ばかりじゃねぇならここはどこなんだ?」
「それを説明するにはのう・・、これじゃ。」
懐に入れていた紙を取り出しこちらに差しだしてくるサノスさん。
そこには僕とジルがこの辺り一帯を治める貴族、ジフィールド公爵家に仕えるように書いてあった。
「あの、サノスさんこれって?」
「儂はここの公爵の世話になっておってな。」
「ってことはここは貴族様の家ってことか!?それに仕えるってどういうことだ!?」
「儂だけでなく弟子たちも世話になっておるのじゃが、せっかくならおまえたちもと思ってのう。ただ何もせんのは良くないじゃろうし、お前たちには儂の弟子としてあいつに仕えてもらおうとな。」
「そんなことありえるのかよ!俺たち、ただの村人だぜ!?」
「ありえるんじゃよ。そのために偏屈公爵もやり込めておいたのじゃ。胸を張って堂々としておればよい。もちろんお前たちが望むならじゃがな。」
サノスさんがいつもと変わらないような穏やかさで言う。
一瞬言葉の意味が分からなかった。
普通こんな夢みたいな条件あり得ない。
でももし本当にそうなるなら拒む理由はどこにもない。
「・・僕はその提案を受けたいです。」
「おい、ルド!?」
「だってこんな事もうないかもしれないよ?それともジルは嫌なの?」
「いや、嫌ってわけじゃないが・・。本当にいいのかなって。」
ジルは困ったような顔を見せる。
そんな彼に寄り添うようにサノスさんが話し始める。
「いいんじゃよ。なにもおまえたちに同情してこんなことを言っておるわけではない。おまえたちに見込みがあるから提案しておるだけじゃ。」
「・・なら、俺もこの提案を受けたい。いや、受けさせてくれ!」
「それはよかった。聞いたかのう、アミール。」
ガチャリと扉が開く。
そこから出てきたのは恰幅のいい初老の男。
高級そうな洋服をまとい、品がありながらどこか厳格さも感じさせられる。
「聞いていたとも。ただなサノス、こんなことはもうこれっきりにしてくれよ。」
「ははは、もちろんそうするとも。」
「どうだかな。そういって弟子を増やすのは今回で八回目だ。」
「皆、精いっぱい頑張っておるのじゃから文句を言うでない。まだ一度も損をさせておらぬじゃろう。」
わははと笑うサノスさんとあきれてしまうアミール公爵。
これだけでもこの二人の仲の良さがうかがえた。
少しすると吹っ切れたのだろうか、アミール公爵がこちらをまっすぐに見据える。
「私の名はアミール=ジフィールド。このジフィールド公爵家の主であり、君たちの主にもなるものだ。これからよろしく頼むよ。」
瞬間僕らは頭を下げてしまっていた。
この人は今まで会ってきたどの大人とも違う存在感がある。
この人は貴族なのだと自然と思わされた。
「では明日から動いてもらいたいが・・・。サノス、この二人はどのくらいできる?」
「ルドは魔術の詠唱短縮、ジルは無詠唱ができるのう。維持はもう少しといったところか。剣術もかじっておったようじゃからそこはそっちで確認してくれ。ただ全体的に教養が足らん。もう少ししてから教えるつもりじゃったが明日からでも始めようと思う。」
「そうか、なら君たちには明日から教育を受けてもらう。剣術や魔術はもちろん、歴史や作法、仕えるのに必要なものはすべてね。先生はいつも暇してるそこの魔術師にしてもらうとしよう。」
「おい、儂は剣術はわからんぞ。それに魔術はおぬしの子もみなければならんじゃろう。」
「剣術はこちらで何とかしよう。魔術はみな一緒で受けさせてくれればいい。魔術の訓練で競う相手ができるのはあの子たちにとっていい刺激だ。サノス、君なら全員見るくらいたやすいだろう?」
「それなら・・・・・・・。」
二人の話が進むにつれ僕たちの明日がだんだんと埋まってゆく。
そのことに不安はありつつも恐れはなかった。
それはジルも同じようで彼の眼には熱意が宿っていた。