6
森の近くで夜を明かした僕らは今日も日が昇る前から動き始める。
食事を済ましてから焚火の火を消し荷物をリュックにしまい込む。
目の前の森さえ抜けてしまえば町に着く。そう思うとまた頑張れる気がした。
「ルド、森の中は視界も悪いし魔物も今までより出てくるかもしれねぇ。油断せずに行くぞ。」
「うん、気を付けていこう。」
日が昇り始めたばかりだからか周りはまだ薄暗い。
少し肌寒さを感じながら僕らは歩きだす。
森の中は思っていたよりも暗くはなく道も整備されているため迷うことはなさそうだ。
なんだか木々のざわめきがやけに耳につく。
僕が変に不安がっているからかもしれない。
そうして歩いていると坂の下に大きな城壁が見えた。
「ねえ、ジル。あれって!!」
「ああ!きっとあれが町だろ!」
僕は飛び上がるぐらいうれしかった。
やっと町に着くことができそうだ。
そうやって喜んでいたからか。もしくは町が見えて油断したからか。
僕は後ろから迫ってきている黒い影に気づかなかった。
「ごがぁ!?」
「ルド!?」
急に背中からの強烈な痛みが襲ってきたのと同時に体が浮き上がる。
そして世界が回りだす。体を地面に何度か打ち付けながらゴロゴロと転がり何かにぶつかって止まった。恐らく僕は後ろから強く叩かれたのだろう。
息ができない。立ち上がろうとしても視界がゆがみ、ふらついて立ち上がれない。
「ルド、大丈夫か!?」
そういうジルの声には焦りが感じられる。
今は僕を殴った敵と対峙しているのだろう。
早く僕も加勢しなくては。
近くにあるものを探し、手に触れた木の幹を支えに立ち上がる。
視界が少しづつ元に戻り始めるとそこには昨日僕らが倒した魔物と同じ種類の魔物がいた。
ただ昨日と違うのは魔物が複数で襲ってきていることだ。
ジルも何とか応戦しているようだが、やはり数の差もあり押され続けている。
「くそっ、ルド!このままじゃ俺たち二人とも死んじまう。
ここは俺が抑えとくからお前だけでも逃げろ!!」
「そんなことできないよ!言っただろ、僕ら二人で逃げるんだ!」
そう言っている間にもジルは攻撃を避け続けている。
このままでは本当に僕らは死んでしまうかもしれない。
どうにかして逃げる方法を考えなければ。少しでも時間が稼げる物はないか。何か、何かないのか。
そうして考えていると思いつく。
たしかあの魔物は昨日火に驚いていたはずだ。それなら火をつければ時間が稼げるはずだ。
「ジル、よけて!」
そういいながらの油の入った陶器を投げつける。
黒い魔物たちは油が付き嫌そうな顔をするが、何も害がないことがわかるとゲラゲラとこちらを笑い出す。
「ジル、こっちまで来て!一緒に逃げよう!」
「だ、だいじょうぶなのか?俺たち逃げれるのか?」
「もちろんだよ、いいからはやく!」
そうして町に向かい僕らは走り出す。
魔物たちは笑いながらこちらを追ってきているようだ。
そんな奴らに向けて、僕は魔術を放つ。
「炎よ!」
小さい火の球が魔物に当たると少し大きな炎が上がる。
その炎に驚いたのか魔物たちの足が止まる。
炎が体についてなかなか消えず、こちらを追ってこれないようだ。
「今のうちに早く行こう。」
僕は城壁へ足を進める。
走っていると息が止まりそうで走りにくい。さっきの痛みが全く引いておらず体が悲鳴を上げている。
足がもつれて転びそうだ。
そんな僕を見かねたのかジルが僕の事を抱き上げる。
「ちょ、ちょっとジルなにを・・」
「ルド、おまえは風の魔術で俺たちを押せ。普通に走るよりここを滑り降りた方が早い。」
ジルの足元がぬかるんでいく。きっと足元の地面を泥に変えてこの坂を滑ろうというのだろう。
「あんなでけぇ城壁だ。あそこまで行ければ門番くらいいるはずだろ。それなら俺たちが助かりやしいはずだ。」
「う、うん。そうだね・・・。ーーー風よ、僕らを押し出せ!」
そうして風に押されながら僕らは坂を滑り降りていく。
後ろを見ると魔物たちがさっきとは打って変わっり怒りを宿した表情で僕らを追ってきている。
だが坂を滑り降りている僕らの方があいつらよりも早い。
そうして何とか城壁にたどり着いたのだが‥。
「なんでだ。なんでだれもいやがらねぇ・・。」
見上げるほど大きく立派な城壁だというのに門の前には誰もいない。
それどころか門は固く閉ざされており中に入ることすらかなわなかった。
「誰か、誰かいないのか!!助けてくれー!!!」
「助けてー!!!」
大きな声で叫ぶが何も反応がない。だんだんと魔物たちの足音が近づいてくる。
「だれか、助けてよー!!」
「たすけてくれー!!!」
何度も何度も叫び続ける。叫び続けて声がかれても助けを乞う。
それでも誰も助けに来ることはなかった。
魔物たちがもう追いついてきたようだ。ギラギラとした目をしながら近づいてくる。
そうして僕らを殺そうと棍棒を振り上げた瞬間ーーー光が、魔物を貫いた。
黒のローブをたなびかせ、一人の老人が僕らの前に降り立つ。光の槍を降らせ魔物を蹂躙するその白髪の魔術師は・・。
「もう大丈夫じゃ、二人とも。ーーー儂がおる。」
僕らの魔術の師匠、サノスさんだった。