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※残酷な描写が含まれます。苦手な方はご注意ください
「俺、様子を見てくるよ。」
そういうとジルは片手に剣を持ち正門の方へ歩き出す。
その背中を見ると一人で行かせるには不安になって・・・。
「ーーー僕も、行く。」
咄嗟にそんな言葉が口をついて出てきた。
彼を一人で行かせるわけにはいかない。
自分の恐怖を飲み込んで震える足を抑えながら彼についていこうとする。
すると僕ら二人は姉さんに腕を掴まれた。
「待って、子供二人が行ってどうするの。なにが起こるかも分かんないのに行かせるわけないでしょ。」
「この中で一番強いのは俺らだ。魔術も少しは使えるし、いざとなったら一番早く逃げられる。
だから俺らに任せてくれ。」
「でも、そんな事・・・」
真剣な顔で話す姉さんの手を振り払い僕らは走り出す。
後ろから何か声が聞こえてきた気がするが聞こえないふりをした。
少し走り、あともう少しで正門に着きそうだというのにやはりなにも聞こえない。人の声も何もかも。
それを不審に思いはしても足は止めなかった。
そして正門が見えてきた瞬間僕は足が止まってしまっていた。
そこはこの世の終わりの様な景色だった。
なんの音も聞こえないのも納得だ。
そこには倒されたのであろう怪物ともう動かない村人たちが倒れていた。
紅色の液体が僕の足元までやってくる。
僕は妙な生暖かさを感じながら立ち尽くすしかなかった。
「なんだ、これ。なにが・・・」
ジルの声で我に帰る。
倒れている人を見ると怪物につけられたとは思えない傷が無数についていた。
まだ何かいるのかもしれない。
この状況を早く伝えなければ。
「ジル、早くみんなに伝えに行こう。」
放心状態にあったジルを引っ張りここから立ち去ろうとする。
こんな光景を長い間見たくないとそう思いながら。
だがその時、ある声が聞こえてきた。
「ジル、ジルなのか?そこにいるのか?」
「兄さん!?」
服を真っ赤に染めたジルの兄さんが家の壁に背をつきながら話していた。
その声はいつもとは比べ物にならないくらいとても弱々しく聞こえた。
「俺はもうだめだ、目も見えないし体も動かない。だからお前が代わりに動いてくれ。」
「そんな事より早く怪我を」
「いいから聞くんだ、ジル。ここにはまだ、魔族がいる。俺らを蹂躙してまだ生き残りを探している様だった。すぐに生き残りを連れてに、げ・・・」
そこで声が途切れる。見ると彼は力なく下を向き動かなくなっていた。
自然と涙があふれてくる。昨日までは静かに暮らしていたのにどうしてこんなことになったのだろう。
知っている人がこんなにも簡単に死ぬなんて今まで考えてもこなかった。
きっと明日も楽しく暮らせるとそう思っていた。それなのに、急にこんな日が来るなんて。
「急ごう、早くここから逃げるんだ。」
「おう、わかってる。わかってるが、すまねぇ。少しでいいから待ってくれ。」
「・・・わかった。」
静かに泣くジルを待ちつつ周りを警戒する。
魔族がいつ襲ってくるかわからない。
警戒を怠らないよう周囲に気を配っていると大きな悲鳴が耳をつんざく。
この悲鳴はおばさんたちのものだ。
僕たちは悲しい気持ちも抑え込み、すぐに元居た場所に戻り始めた。
姉さんたちの元に戻ると赤い肌の体長二メートルはあるかという大男が立っていた。
おそらくあれが魔族なのだろう。その魔族の周りには赤い水たまりができている。
そこにはさっきまで話していたおばさんも沈んでいた。
その魔族に姉さんが挑んでいた。
剣は半分折れており体は血にまみれている。
左腕がもう上がらないのか右手だけでロングソードを振っているようだ。
「うりゃああああああ!!」
雄たけびを上げながらロングソードを振り上げ突っ込んでいく。
大きく隙をさらしているはずだが魔族の男は動かない。
そのまま男の首に切り裂こうとするが、男の首にかすり傷もできなかった。
驚き一瞬体を硬直してしまう姉さんの頭を、魔族の男は強くつかみ刀を突きさす。
一瞬びくりと体を震わせると姉さんは動かなくなった。
「・・は?あいつ姉さんに何を・・・」
「ふざけるなよ、おまえー!!」
僕が唖然としているうちにジルが魔術を展開する。
炎の槍、土の弾丸、風の刃を放ちながら男に近づき剣戟をふるう。
だが男は意にも介さない。
ジルは男から腹を蹴り飛ばされた。
そしてジルは地に伏せ動けなくなってしまう。
それを見て僕も動けなくなる。怖くて体が動かない。
「お前は来ないのか、小さき人間。つまらんな。」
そういうとジルに向けて歩き出す。
このまま行かせてはジルが死んでしまう。
みんなと同じように動かなくなってしまう。
早く動かなくては。早く早く。ジルを助けなきゃ。ジルと逃げなきゃ。
そう思うのに体は動かない。
男はジルに近づきながら刀を振り上げる。
ジルも姉さんと同じように殺される。
そう思ったとき自分の中で何かが弾けた。
「うわああああ!!!」
全身の魔力が全て右手に集中する。
右手の感覚がなくなったように感じるが関係ない。
ただまっすぐに進み続け男を殴りつける。
そして右手が男に触れた瞬間大きな音とともに僕の視界は真っ白に染まり意識が薄れていった。