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目が覚めたのは夜には似つかわしくない光と耳をつんざくような音がしたからだった。
何事かと体を飛び起こすと村の城壁が燃えており、大きな何かが赤い目をぎょろぎょろとさせこちらを見下ろしているのがわかる。
「なに、あれ…」
そう言葉をこぼす姉さんの声は震えていた。
いや姉さんだけではない。僕も体の震えが止まらなかった。
そうしていると大きな声が響き渡る。
「魔族の襲撃だ!戦えるものは正門へ、そうでないものは広場に集まれ!」
その声を合図にすぐ家の周りが騒がしくなる。
村の人たちが移動を始めたのだろう。
窓からは武器を持ち走っていくジルの兄さんの姿も見える。
「ルド、私たちはとりあえず逃げよう。大丈夫、みんな強いし心配いらないよ。だから今は逃げよう。」
そういう姉さんの声はまだ震えていたし怯えているのも分かった。
それでも僕にとっては姉さんが勇気を出して逃げようとしているのが心強く感じ少しだけ僕も勇気を出すことができた。
僕は護身用に少し刃の欠けた短剣を、姉さんは古びたロングソードを持ち広場へ向かう。
広場には僕と同じくらいの子供が数人と大人の女性が5人ほど集まっていた。
もちろんジルの姿も。
しかし他の村人の数を考えると少し少なく見える。
「お前たち、無事かい!?けがは?」
そう話しかけてくれるのは向かいに住んでいるおばさんだった。
彼女も不安そうにしているがこちらを気遣ってくれているようだ。
「大丈夫です。私とこの子は何ともないです。それより今何が起こっているんですか?」
「逃げる途中見張りのやつに聞いたんだが魔族が攻めてきたそうだ。
数は多くないようだけど何分大きいようだし、火を吐くから対処に難しいみたいだね。」
「そうですか。では他の人たちは?まだ人数が少ないようですが。」
「そんなの私も分からないよ。本当ならもう来てもいいころだと思うんだけどね。」
その話を聞くと余計に不安が募っていく。
僕の両親は無事だろうか。ジグの兄さんは。他にも…。
そんなことを考えていた時の事だった。
門の方から今までより大きな爆発音や雄たけびが聞こえてくる。
どうやら戦闘が激しくなってきたようだ。少しの間そんな音が響く。
しかしすぐに静かになった。
それからどのくらいたっただろうか。戦闘音は一切聞こえてこない。
聞こえてくるのはパチパチと木が燃える音だけ。
そのことを不審に思っているとジルがこう言い放った。
「俺、様子を見てくるよ。」