13
問いかけを受けて僕はメルン様を守るため前に出ようとする。
しかしメルン様は片手で僕を制止し、一歩前に出ると恭しくお辞儀をする。
森の中を走った後だというのにその姿は美しく見えた。
「挨拶が遅れました。私はジフィールド家の長女、メルン=ジフィールドと申します。」
彼女のあいさつを受けて少しは警戒が解けたのだろうか。
先ほどまでの威圧感が薄れる。
これならば穏便に話ができそうだ。
「あなたはジフィールド家の者だったのですね。では後ろの少年も?」
「はい、私の従者です。」
メルン様の言葉に続いて頭を下げる。
そうすると緑色の少女の目じりが下がったように見えた。
透けているせいで表情が読み取りにくいが。
「確か私のいる町へ訪問される予定でしたね?」
「その予定です。」
「それは良かった。一つ頼み事があるのですが構わないでしょうか?」
私のいる町と言っているがこの方は何者なのだろうか。
人ではなさそうだが普通に話ができており、こちらに好意的。
しかも最初の雰囲気からするに尋常ではない力を持っている。
となればこの方は・・。
僕が考察している間に頼み事が告げられる。
「私の後ろにいる少女を町まで送り届けてほしいのです。」
「了解しました。責任をもってお送りしましょう。」
即答だった。
僕が首を突っ込む間もなく受けてしまった。
護衛の人やサノスさんに確認を取ったほうがよいのでは。
そんな言葉が喉まで上がってきていたが何とか飲み込む。
受けるとメルン様が言ったのだ。ならばきっとこれでいいのだろう。
「ではお任せします。」
そう言い残すと元々透けていた体がさらに透けて最後にはいなくなってしまった。
残されたのは僕たち三人だけ。
メルン様は魔物の近くにいる少女へと近づく。
少女は怖すぎてしまったのか、それとも泣いて疲れてしまったのか寝てしまっていた。
メルン様はしゃがみ込みその少女の体を軽く見まわすと小さく息をついた。
「この子大きなけがはしてないようだわ。よかった。」
「メルン様、とりあえずこの子もつれてみんなのもとへ戻りましょう。事情も話さないといけません。」
僕も少女に近づき、魔術を使って少女を持ち上げ運び始める。
そこでふと少女の手から独特の甘い匂いがしているのに気付く。
これは薬草だろうか。屋敷にいた時に塗られていた薬と同じ匂いがした。
「そうね、みんなに迷惑かけてしまったでしょうし早く戻りましょう。それとルド、来てくれてありがとね」
微笑みながら言うメルン様。
僕はなんだか気恥ずかしくて顔をそらしてしまった。
元の場所に戻った僕らを待っていたのは怖い顔したサノスさん達だった。
僕らは正座させられてきついお説教を受ける。
”なんで勝手に動いたのか”だったり、”なぜ早めに止めなかったのか”だったりと色々問い詰められた。
迷惑をかけて申し訳ないなぁと思いつつ、先ほど起こった事情を話す。
なんとか納得してくれたようだ。特にみな緑色の少女の話のあたりで顔の険しさが和らいでいた。
やっぱり今から行く町の関係者なのだろう。
僕らの話が終わり、代わりに始まったのは今眠っている少女をどうするのかという話。
メルン様が連れていくと言った時点で連れていくのは確定だが、どうやって連れていくのかが懸念点だ。
今回の馬車の個数は少なく人が乗れそうなところはもうほとんどない。
かといって傷だらけの少女を荷台に積んでいくというのも気が引ける。
どうしたものかと悩んでいる中をメルン様のよく通る声がした。
「私の馬車に乗せたらいいじゃない。」
何気ない顔で言い放つメルン様。
さすがに公爵令嬢と同じ馬車に誰かわからない人を乗せるのはどうなのだろうか。
安全面的にもよくないだろうし。
そんな僕の考えは次の一言でかき消される。
「ルドも私の馬車に乗るんだし一人も二人も変わらないわ。」
「え?」
思わず声が出てしまった。
僕がメルン様の馬車に乗る?なんで?
不思議に思う表情が顔に出てしまっただろうか。
少しふくれっ面のメルン様が話を続ける。
「ルドが馬車で酔っていて見てられないのよ。私の馬車に乗ればそんな心配不要だわ。それにこの子が起きた時、同じくらいの子がいた方が安心するでしょ?」
「それはそうかもしれませんが・・。」
ちらっと護衛の方たちの方を見る。
僕の視線に気づいたのだろう。ものすごくいい笑顔で了承してくれた。
いいんだろうか、こんな感じで。もう少し何かあるんじゃなかろうか。
ただ反論する人も特におらず、僕はメルン様の馬車に乗せてもらえることになった。
結果から言えばメルン様の馬車は最高だった。
まず揺れない。外の音もあまり大きく聞こえない。
外から見たら中はあまり見えなかったのに、中からは外がよく見えている。
なにより今座っている椅子は柔らかくて体に負担がない。
荷台とは比べようもないくらい快適だった。
しかし問題が一つ。
それは対面に座っているメルン様の顔が見れないこと。
馬車に乗ってからずっと目を背けてしまう。
今まで話すときはこんなに近くで話すことがなかったからだろうか。
何か話したくても言葉が出てこなかった。
聞こえるのは少女の寝息だけ。
「この子はなんで森に入ったのかしらね。」
少女の頭をなでながらそうつぶやくメルン様。
確かに何故だろうか。
あの森までは町から距離があるため迷ってたどり着いたとは思えない。
しかも魔物に襲われる可能性もあるのにだ。
「もしかするとその薬草が目的かもしれません。」
「薬草?この草は薬草なの?」
「恐らくですが。屋敷でかいだ塗り薬の匂いと同じ匂いがしましたから。」
「なるほどね。」
「あくまで予想です。正確な理由はその子が起きてから聞いてみましょう。」
きっと少女ももう少しすれば起きるだろう。
その時にまた理由を聞けばいい。
そう思っているうちに外の景色が変わり始める。
先ほどまでの自然あふれる景色から、人の手が入った石造りの道へと。
僕らは風霊の町に着いたのだ。




