12
今日は風霊の町へ訪問に行く日。
屋敷の前で見送られることになっているため、お供する僕を含めた従者たちは整列していた。
雲一つない快晴。無事に出発できそうだ。
こんな特別な日だからかメルン様の衣装も普段にもまして可憐になっている。
だというのに本人は未だ眠そうな顔である。
「メルン、おまえは我がジフィールド家の代表として訪問するのだ。もっとしゃんとしないか。」
「わかっているわお父様。間違っても他人の前でこんな態度はしないわ。」
胸を張り少し自信ありげに言って見せるメルン様。
きっと大丈夫なのだろうが、こうも不安がぬぐえないのはなぜだろう。
アミール様もそう思っているのか疑わし気な目をし、溜息までついている。
だが信じることにしたのだろう、途端にさっきまでのような緩さがなくなり引き締まった雰囲気になる。
「風霊の町は今までよき仲であり続けた街だ。今後もそうでありたいと心から思う。君たちにはこの願いが叶えられるよう誠心誠意尽くしてほしい。」
先ほどメルン様に見せたものとは別物、この領地の統治者としての威厳。
そして統治者としての気迫を感じた。
それに応えるようにメルン様が言葉を紡ぐ。
「我らジフィールド家に連なるものとして、相応の働きを示しましょう。」
メルン様が会釈してみせる。
それに続くように僕らも頭を下げる。
「では行ってくるがいい。期待していよう。」
アミール様が屋敷へ戻っていく。
それを合図に僕らは出発の準備を始めた。
「じゃあな、ルド。また後で。」
ジルは最初馬に乗って周りの警戒をすることになっている。
魔術が無詠唱で使えるため緊急時には適任だとか。
「では手筈通り、ルドはこの馬車の荷物番として乗っておくれ。」
サノスさんに促され馬車の荷台に乗り込む。
僕は右腕が使えないせいで馬にうまく乗ることができない。そのための配慮なのだと思う。
ちなみに御者はサノスさんだ。サノスさんは馬に乗るのが嫌らしい。
サノスさんが馬車に乗るため、僕らの馬車が一番前だ。
前に出てくる魔物は魔術で蹴散らしていく方針である。
「では、出発じゃー!!」
号令をかけ馬車が出発していく。
僕は新しい街に行くことにすこしワクワクしていた。
この後に迫るあの苦しみを知らなかったから。
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馬車が出発してジフィールドの町が見えなくなったころ。
少しずつ僕にある苦しさが襲ってきていた。
目が回って吐き気もすごい。頭がぼんやりしてくる。
そう俗に言うあれだ。馬車酔いというやつだ。
初めての馬車。どんなことが起こるか知りもしなかった。
揺れるし魔術の音がうるさいし全然落ち着けない。
こんなことなら無理を言ってでもジルの後ろに乗せてもらえばよかった。
だが僕が酔っているからと言って馬車は止まらない。
休憩に入るまでの間、僕は必死に吐き気と戦っていた。
そうこうしている間に馬車が止まったのに気づく。
「ルド、一旦馬の休憩の為に止まることになったぞ。次に動くまでに少し外の空気を吸っておいで。」
サノスさんの言葉がどれだけ嬉しかったことか。
僕はそれを聞くなりすぐに飛び出した。
周りを見渡せば緑一色、森に囲まれていた。木漏れ日が優しく降り注いで気持ちがいい。
新鮮な空気を吸うと気分がかなり楽になった。
「ルド、そんなに苦しかったの?」
馬車から降りてきたのだろうか。
伸びをしながらメルン様がこちらへ歩いてきていた。
「ええ、まあ。あんなにも馬車が揺れるものだとは思っていなくて。」
「それは荷台に乗っているからじゃないかしら。」
心配そうな表情でこちらを見るメルン様。
たしかにメルン様は全く酔っていない。
メルン様の乗っている馬車を見るに様々な魔術がかけられていて揺れが小さくなっているようだ。
とても羨ましい。
「そうだわ。ルド、あなた・・」
「きゃあああ!!」
メルン様が何かを言いかけたところで絶叫が響く。
自然と声がした方向へ目を向けると木々が大きく揺れている。
この森の奥で何かが起こっていることは分かった。
こうなるとまずメルン様を逃がさなければ。流れ弾が飛んでくるかもしれない。
そう思いメルン様の方を向くとすでに彼女は声のした方へ走り出していた。
「ちょっと、メルン様!?何するつもりですか!!」
「なにって助けに行くに決まってるわ!!」
彼女はそう言い残すと止める間もなく森の中へ走って行ってしまう。
僕も追いかけるが思った以上に早く追いつけない。
声のした方からは大きな風が吹き出している。
もしかするともう交戦を始めてしまったのだろうか。
草木をかき分けて彼女がいる場所へたどり着く。
「メルン様!!」
たどり着いた僕の視界に入ってきたのはメルン様と二人の少女。
その二人の近くには倒れ伏している魔物たちの姿がある。
魔物の近くにいる少女は服の汚れや擦り傷が目立っており、何より泣いている。おそらくこの子が襲われていたのだろう。
だがそれよりも僕はメルン様と対峙している少女の方に目を奪われていた。
体は淡い緑色をしており、少し透けている。人型をしているがどう見ても人ではない。
その少女は圧倒的な存在感を放ちながらこちらを強い視線で見ている。
「あなたたちはいったい何者ですか?」
その少女は背筋が凍るような声で僕らに問いかけてきたのだった。




