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いつも通りの授業をこなした僕とジルは別館にある自室でくつろいでいた。
今日の予定はこれ以降なくあとは眠るだけである。
そんなときの事だった。コンコンとドアがノックされる。
何かあったのかとドアを開けるとそこにはサノスさんが立っていた。
「こんな夜更けにすまんのう。今から儂とアミールから二人に話がある。じゃからついてきとくれ。」
そういうと、こちらの返答も待たず足早に歩き出すサノスさん。
違和感を抱きつつも特に断る必要もないので急いでついていく。
別館では屋敷にあるような明かりがなく頼りは月明りだけのため薄暗い。
転ばないように気を付けながら進むといつも屋敷に向かう道ではない方向にサノスさんが進んでいく。
「サノスさんどこに行くんですか?屋敷はこっちですよ?」
「いいからついてきなさい。」
静かに、しかし有無を言わせぬ様子でこちらを見る。
やっぱりいつもとはなんだか違う。その様子が少し怖く感じた。
そのまま黙ってついていくと屋敷を少し離れたところにある小さな物置小屋についた。
いつも庭掃除をするときはここからほうきなどを持っていく。
ここには掃除用具しかないはずだ。それなのにここで話を?
僕は疑問に思ったがそれを聞く前にサノスさんは中に入っていってしまった。
「なんかおかしくない?」
「ああ、いつものサノスさんじゃねぇ。警戒したほうがいいかもな。」
ジルも同じく変に感じていたようだ。
言われた通りすぐ魔術を展開できるように準備し小屋に入っていく。
扉を抜けるとそこにはさっき見ていた景色とは違い、明るくきれいな部屋が広がっていた。
部屋の中にはアミールさんとサノスさんが待っている。
さっきまでの気を張った表情が少し緩んでいるようだ。
「すまんな、こんなややこしいことをして。ただ出来るだけ今からの話し合いを知られたくなかったのじゃ。」
今話しているサノスさんはいつも話しているサノスさんだ。
そう思うと少し安心できた。用意してきた魔術も解いておこう。
そうこうしているうちにジルも中に入ってくる。
彼もこの場が安全だとわかったのか警戒を解いていた。
僕たちが揃ったことを確認するとアミールさんが話し始める。
「二人に来てもらったのはある頼みごとがあるからなんだ。」
「頼み事ですか?」
「ああ、明日からメルンが風霊の町へ行くことは知っているな?」
風霊の町。そこは風の大精霊が守護と恩恵を与えているとされる町である。
この町はジフィールド家の領地内にあり、年に何度かジフィールド家が訪問することになっている。
今回はメルン様が代表者であり、僕らはそれに随行させてもらうことになっていた。
「はい、明日から出発のはずですよね。」
「そうだ。風霊の町の訪問後の話になるんだが、サノスが王都に行く必要ができた。そのためメルンと別行動になる。帰りにはジルもメルンの護衛に加わってほしい。もちろん護衛は他にもつけるが万が一があるからな。」
「わかっ・・いや了解しましたです、アミール様。」
「うん?まあ、わかったならいい。しっかり頼むぞ。」
未だにジルは敬語がうまくできない。
というよりも丁寧にしようとするといろんな口調が混ざってしまうようだ。
少し顔を赤くしている。きっと恥ずかしかったのだろう。
「それで次はルドだが、おまえはサノスについていってもらう。」
「僕がついていくんですか?」
「サノスの弟子としてな。もちろんこれには理由がある。おまえの右腕に関することだ。」
右腕の話が突然出てきてドキッとする。
今までこの右腕について何か言われることはなかった。
それはきっと気を使っての事なのだと思うが話題に出てくるとなると何かあったのかもしれない。
「右腕の調査を本格的に進めたいと、この魔術師が言い出してな。そうなるとここより王都でした方が効率がいい。だから少しの間ここを離れることになる。そのことを伝えておこうとな。」
「調査次第ではその腕も少しは動くようになるかもしれん。そうなればルドの負担も少しは減るじゃろうと思ってな。」
「本当ですか!?」
びっくりしすぎて思わず大きな声を上げてしまった。
でも仕方ないと思う。もう動かないと思っていた腕が動くかもしれないんだから。
僕は飛び上がりそうになるくらいうれしかった。
「ありがとうございます、サノスさん!!」
僕がお礼を言うとサノスさんは何とも言えない顔をしていた。
遠慮しているんだろうか?それともなにか他に事情があるんだろうか?
僕は不思議に思ったけど、それよりも嬉しさが勝っていて特に気にしなかった。
「それでだな、サノスがルドと共に王都に行くことをメルンには内緒にして、無事に別れられるようにしてほしいのだ。」
「なんでですか?」
ジルが不思議そうに聞く。
確かに今の内容ならこんな部屋まで来なくてもできたはずだ。
「メルンは、というかアイクもだが友達ができたことがうれしいようでな。あの子たちは友達が作りずらいこの環境を良く思ってないのか最近はその話ばかりなんだ。そんな中でその友達がどこかに行くことになれば確実に止めようとする。」
「いや、さすがにそれは・・。」
「するのだよ。前に一度王族の方が訪れた時などすごかった。王族の方と一緒になって部屋に立てこもり大騒動だ。さすがに幼いころだったとはいえ前例がある以上気は抜けん。」
話をしながらため息をつくアミール様。
確かにあれだけ友達を欲している方々だ。容易に想像できてしまった。
「つまり俺はメルン様を護衛しつつ、こっそり二人が行くのを手伝えばいいんですね。」
「そうだ。くれぐれも悟られぬようにな。・・よし、話は以上だ。下がってくれ。」
「「はい。」」
僕たちは入ってきた扉に入る。
そうするとまた小屋の前に出てきていた。
本当に不思議な扉だ。きっと魔術によるものだろう。
僕らは来た道を帰っていく。
「なあ、王都に行くって言ってたけどいつ帰ってくんのかな。」
「わかんないよ。」
「そうだよなぁ、ちょっと寂しくなっちまうぜ。」
そんなジルの顔は本当に寂しそうだ。
僕も寂しい。今までずっと一緒にいたのだ。寂しくないわけない。
「でもきっと帰ってくるだろうし大丈夫だよ。」
ジルに笑ってみせる。
そうだ、別に本当のお別れというわけではないのだ。きっとまたここに帰ってこれる。
そんな話をしながら部屋に戻った僕らは、明日に向けて静かに眠りについた。




