告白するお
告白を決意する虹男。
しかし、優柔不断が災いして、虹男は衝撃を受ける。
日曜日。今日は天気がよく絶好の外出日和であるが、本日の予定…虹男と会う約束になっていた。
僕は約束の時間通りに待ち合わせ場所へ行った。
虹男はすでに到着していた。
僕は目を疑った。本当に虹男なんだろうか?
黒いテーラードジャケットを羽織り、水色のストライプの入ったシャツを着ていた。
パンツは細身の白っぽいジーンズで、靴は黒い革のスニーカーだった。
いつもの虹男じゃない。
これまでは身だしなみに対して関心がなく、靴も常にマジックテープの物をはいていた。
本人曰く、「紐はほどけると面倒じゃん、別に履ければなんでもいいよ。」
そんな感性の持ち主が今日はおしゃれをしているではないか。
僕は虹男に近づいて顔を確認した。
虹男に違いない。だが、今日は髭がきちんと処理してある!
本当にどうしたんだろうか、病気か?
そう思いながら、声をかけた。
「待たせたかな?今日はどうしたんだよ、いつもと雰囲気が違うけど。」
なんとなくではあるが、今日は爽やかさがUPしている。
虹男が振り向いて、
「ちょっと早く着いたんだ。雰囲気が違うって言うけど、いつもと同じだよ。」
平然と言い放つ。
そして僕たちは歩きだした。
いつものようにゲームセンターで遊んだり、本屋に寄ったり、アニメグッズ店を見て回った。
ここでもまた虹男の様子が変だった。
「ほら、虹男の好きな犬千代ちゃんのフィギュアが出てるよ。買わないの?」
新商品に虹男が<嫁>とまで言っていた美少女のフィギュアが置いてあった。これまでも虹男はDVDを買いそろえたり、漫画本もコンプリートしていた。それほど好きなキャラなのだ。
だが、予想に反して、
「いらないよ。もう興味ない。以前の俺がどうかしてたんだよ。」
二次元への愛を捨てて、三次元へと移行したとですか、さいですか。僕は思わず心でつぶやきながら遠い目で虹男を見ていた。
そんな僕に追い打ちをかけるかのように虹男が口走った。
「もう、俺の部屋にはアニメグッズとか無いよ。全部捨てたから、いらないし。なんで今まで買ったりしてたんだろうね、勿体ない。馬鹿だな俺。」
完全に虹男は以前の嗜好と変わってしまった。
僕たちはその後、近くのファーストフードで軽い食事とすることにした。
メニューを注文して、禁煙ルームの奥の席に落ち着いた。
僕はコーヒーを飲みながら、虹男はオレンジジュースを飲みながら互いに雑談を交わしていた。
そして、虹男が言いにくそうに僕に相談を持ちかけた。
「今度、あの子に告白しようと思うんだけど。どうしたらいいと思う?」
「どうもうこうもない。したけりゃ、すればいいじゃん。」
あっさりと、冷たく返した。
僕にもさっぱりわからないのである。相談する人間を間違えている虹男。
「彼氏とかいないってことは聞いてたんだけど、ほら、今まで誰とも付き合ったことないからさ。」
そう言ってオレンジジュースを飲みほした。
「あのさ、そういうのは経験者に聞くべきじゃないかな?達雄とかならわかるんじゃない?」
達雄と言うのは共通の友人で、何気にもてるのである。
虹男は少し困った顔で、
「付き合ったら、多分言うけど。今のところ片思いだし、達雄は告白される側だろ?俺の立場はきっとなったことないよ。」
そう言われればそうかも…。
「だったら、駄目でもともと、当たって砕けろで告白すれば。でなきゃ始まるものも始まらないよ。虹男は優柔不断だな。」
適当に僕はアドバイスしたが、虹男は真剣に聞いていた。ちょっと悪かったかな?
それから数日後、予想しなかったことが起こった。
日曜日。僕は大好きな昼寝を貪っていた。携帯がなるまでは。
虹男からの着信。
「はいはい、どうしたの?」
寝ぼけていたので気の抜けた返事をした。
「俺、告白しようとしたんだよね。そしたら…。」
あっ、例のギャル子ちゃんに遂に告白しようとしたのか。そうかそうか。
「で、どうなったの?振られたか?」
歯に衣着せぬ物言いだが、虹男は深刻そうにつぶやいた。
「話があるって、向こうから言ってきたんだ。嬉しかった、もしかしてと思ったんだ。でも違ったんだ。俺相談されちゃった。」
かいつまんで言えばギャル子ちゃんが職場の男の子と出来てしまい、新しい命を宿してしまった。それをどうすればいいのと虹男に相談したのである。
虹男は鼻声だった。泣いたのかそれとも鼻炎なのか?
僕はただ一言虹男に言った。
「お疲れ様。」
虹男の初恋はひとまずここで終わり。
この後、虹男は別の女の子に新たな恋をした。
すっかり二次元に興味を無くしてしまったのがちょっと残念。