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薬師マリィさんの小さな旅路  作者: 鬼容章
第2章 痩のおくすり~四大自由都市同盟~
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第8話 痩のおくすり~四大自由都市同盟~(2)

 お仕事の内容に入る気持ちの余裕が私になかった。

 アゼルさんは何かを思いついたらしく、馬車を呼んだ。

 私たちは車に乗り込む。どこかへ向けてしばらく、石だたみの道を走る。


 そういえば、この国、道の整備がしっかりしている気がする。

 それこそ、王都パレスくらいだ。

 あの陸ドラゴンが自由都市に近づくと、道が整備されていた。だから、私の乗り物酔いも大分マシになった。

 それで覚えていた。


「街の道がキレイですね。つい上ばかり見ていましたが、そもそも足下がしっかりしていました」

「ベールは四大自由都市同盟の1つ。それは知っているかい」

「えぇ、もちろん。都市間で早く移動する必要があるということですか?」

「俺たち、竜騎士はどの国にも従わなかった。だから戦いが起きたら、4つの都市で早く情報交換して、守りを固める必要があったんだ」


 私の頭の中に、地図が広がる。

 その地図上の街を、騒ぎ立てる小人の兵士さんたちが行ったり来たり。

 中央のベールの他に、自由都市は4つある。東のトリク、西のゼルブ、北のバレア。

 フランシス王国、聖教会アンジェリ、神聖騎士団ハイネスの3大国家と、自由都市同盟は隣同士でにらみ合うわけだ。

 それぞれの都市が戦いに巻き込まれたとき、どの大国にも肩入れせず中立を保つことが竜騎士の誓いだった。

 自由都市の竜騎士は、屈強な兵士で有名である。


 私の国の言い伝え。

 真の勇者のみ、真の戦場へ向かえ。

 フランシス国の中途半端な兵士を自由都市方面に送らない。すぐに倒されてしまうからだ。


 複雑な気持ち。渋い顔に、私はなる。

 戦ってばかりの世界が、美しい平和になったということなのだ。


「この街の美しさは、戦いのなごりですか」

「そうだ。今は、平和な時代になった。ただの国々への通り道だ。竜騎士も勇ましく大砲を撃つのは最近じゃないねぇ」


 なるほど、と私はうなずくのが精いっぱいだ。

 ちょっと馬車に酔って来たかな。

 私は無言で、馬車の窓の外に広がる、緑の野原を見ていた。


 半日の移動になった。

 ようやく私は、東のトリク自由都市に降り立った。

 緑色の湖から川が流れだし、その左右に茶色い石壁の街並みができていた。


 私は疲れた顔で、橋から川と湖を見ていた。

 平和な街の景色は、刺激が少ない。

 こみ上げる気持ちの悪さを静めないといけないので、ちょうどいい感じ。乗り物酔いは、いつか慣れよう。

 アゼルさんは大人の竜騎士なので、まったく疲れた様子はない。


「マリィ、疲れたかい?」

「正直、疲れました。もしかして……。私がお仕事の話を聞かないので、先に目的地へ移動しましたか?」

「がっはっは! バレちまったかぁ!」

「はぁ……。そうですか。つまり、この街がお仕事の場所なんですねぇ……」


 なんてパワフルな竜騎士さんだろうか。

 私はあきれて言葉が出ない。


 青い顔でいるのがもったいないと、心は思う。

 今すぐにでも寝てしまいたいと、身体は叫ぶ。

 この小さい身体で移動ばかりだと、気持ちと身体がバラバラになっている。

 今後の参考になるけどさ。


 アゼルさんはどうして移動を重ねたか教えてくれた。

 私に向けた、竜騎士のスパルタな愛情だ。


「本来なら、ベールで事情を話して、1日休んでもらって、移動だったんだけどね。マリィは緊張しすぎていた。だから、そのまま硬い気持ちが続くとどうなるか、身をもって知ってもらったわけだ」

「これが旅を急ぐと失敗する状態なんですねぇ……」

「実はトリク、観光スポットが少ない!」

「そんな気がしましたよぉ!」


 トリク自由都市。

 確かにキレイな街ではある。

 私が通って来た街、西のゼルブと中央のベールに比べて、質素に見える。

 良く言えば、伝統にとらわれない、新しい街並み。

 山登りに向かうお客さんや、他の方面の観光スポットへ向かうお客さん。

 そんな人たちが通る、旅のはじまりの場所だ。


 がっかりしても仕方ないと私は思う。

 でも、旅の楽しみには、観光と宿泊があるよね。ついつい、本音がポロリ。


「やっぱり、ベールに泊まればよかったと思っています」

「あっはっは! 古い街にある我が家、こじんまりし過ぎか!」


 竜騎士は、住むお家にこだわりがないようだ。

 パレスの貴族屋敷と違った建物だ。

 庭もない。玄関フロアもない。こじんまり空間の部屋。

 旅をしている感じがしない。


 でも、小さいことを気にしても仕方ない。

 今日の私は、お疲れモード。もう寝るだけだ。

 それにちょうどいい部屋の広さ。お師匠との隠れ家を思い出して、安心して眠りにつける。

 初めての旅でこれは幸いなことだ。


 お仕事の内容も聞かずに、寝台で私は横になる。

 全部全部、明日にする。

 この投げやりな感じは、旅にとても大事。

 30分も経たずに、他人の家の寝台で私は寝息を立てていた。

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