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薬師マリィさんの小さな旅路  作者: 鬼容章(きもりあきら)
第5章 土のおくすり~アルビオン連合王国~
49/56

第49話 土のおくすり~アルビオン連合王国~(11)

 以前の大地主(おおじぬし)制度とは、今回の新農業法は若干違う。


 今後、アルビオンにおいて、農家という職業を得るためには、国家(こっか)資格試験(しかくしけん)に合格する必要がある。

 その試験を受けない者たちは、国家による農業退職金(たいしょくきん)を選び、農地を国に返すだろう。

 試験に合格した者は能力値によって、国から農地を追加で配分された上に、資金援助も受けることが出来るようになるはずだ。

 農業従事者は少数(しょうすう)精鋭(せいえい)になり、全国民における労働者の10%程度まで(しぼ)られる予想である。


 アルビオン新農法は、少人数による農業資格者により、機械化かつ大規模な農場を運営する方法に切り替わっていく。

 効率的な集約(しゅうやく)農業(のうぎょう)は、この国の食糧(しょくりょう)自給率(じきゅうりつ)を改善していくことだろう。


✝✝✝✝✝✝✝✝


 バーム宮殿に戻る。

 私の叔母に当たる、ビビ女王との対面は、兄弟から話を聞いた数日後だった。

 パーシィや私の説得で、新しい農業政策に納得し裁可(さいか)をくれた。


「私が負けよ。アルビオン産の麦で美味しいパンを作ってちょうだい」


 ずぶ()れになったパーシィは、女王に礼をして、部屋を去った。

 彼の母である女王を怒らせて、水をかけられたのに、王子は笑顔で法案(ほうあん)作成に向かったのだ。

 

 その時、私も一緒に去ろうとした。ちょっと待ちなさいと、ビビ女王は私を呼び止めた。


「マリィ、貴女にプレゼントがあるの」

「はい?」


 農業に関する新たな法案が議会にかけられる時には、すでに私はアルビオン島を離れていた。

 私が乗る船は、島から大陸に、海峡を南へ向かう。


 あの時、ビビ女王から下賜された『銀のスプーン』は、今でも私の手の内にある。

 王族の紋章(もんしょう)が入っているので、超貴重な1品だろう。とても高いはずだ。

 アルトと一緒に、鏡のように映る2つの顔をずっと見続けた。


 最初は嬉しいだけだったけど、その意味を分かってから、ちょっと今では緊張感もある。

『Born with a silver spoon in your mouth』 (ボーン ウィズ ア シルバースプーン イン ユア マウス)

 恵まれた家柄に生まれた貴女(あなた)、そして恵まれた人生を歩む貴女(あなた)は、世界に対して大いなる責任を持つ。


 類推だが、ビビ女王のメッセージを、私はちゃんと受け取った。

『銀のスプーン』は大事にローブの中へしまった。

 そして、前を見よう。王都パレスに帰るぞ。

 あれから1年が経ったのだ。もうすぐ、この旅は終わる。


 船は、私たちのフランシスの大地に、接岸したようだ。

 私とアルトは、北部の港町に降り立った。

 乗り心地の悪い、陸ドラゴンに揺られて、故郷(ふるさと)を目指した。


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