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薬師マリィさんの小さな旅路  作者: 鬼容章(きもりあきら)
第5章 土のおくすり~アルビオン連合王国~
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第47話 土のおくすり~アルビオン連合王国~(9)

 私は目線を逸らさなかった。パーシィも退かなかった。

 態度で決着しないならば、私から言わせてもらおう。


「宮殿の庭園の黒い土は優秀ですね。でも、郊外の農地の土は白や赤です」

不味(マズ)いよな」

「味も、農業政策も、どちらも不味マズいです」


 他国の使者として、私は言い過ぎである。

 それは分かっていたが、意識して退けなかった。家族間だからと嘘をついては、今後も曖昧(あいまい)な付き合いになるからだ。


 テーブルの向こう側の態度は想像通りだ。

 リーフさんの目が釣り上がり、不快感を示される。

 一方で、清濁(せいだく)を飲み込める王子、パーシィは少し違った。

 相変わらず鋭い目線だが、ちゃんと問題の焦点を合わせてくる。

 怒りさえ飲み込める度量が、彼にはあった。


「あぁ、確かに両方、不味いと思う。では、私たちはどうしたら良いのだろうね」

「すでに、アルビオン農業改革の歴史書を拝見させて頂きました」


 きっとパーシィは、話を受け止めてくれる。

 では、私は淡々と話すのみだ。机にあげたのは、船の上でリーフさんから借りた本である。


【アルビオン農業史】


 同じ作物を作ると、土だけでなく、農作物が病気になりやすい。

 連作(れんさく)障害という。

 それを避けるために、アルビオンでは昔から、輪作(りんさく)をしてきた。

 複数種の農作物を作るのは、知識も経験もたくさんいることだ。土を休ませるタイミングも考えるとすると、数学(すうがく)のような規則性が生まれる。

 その過程で、優れた大地主(おおじぬし)による農地管理に至った。

 アルビオンの農業は最高期を迎える。


 地主(じぬし)(やと)われた者との上下関係は、時代に合わなくなってきた。

 徐々に自由な農法に改正されて、大地主(おおじぬし)制度は消えた。

 戦時中も農法は変わり続けた。

 軍用地や工業用地、労働者の居住地、などの土地利用を法律で認めたため、農地が減ってしまった。

 今、戦後も法律は変わり続けている。


 それを踏まえて、私は意見をまとめて話す。


「不安定な制度、不安定な農地。現状では、農業に従事ずる者に旨み(メリット)がありませんね」

「うーん。では、大地主(おおじぬし)制度に戻して農業を安定させろ、ということかい」

(おおむ)ね、そうです。適材適所に配置された農業従事者は、結果を出せます。ただ、今の時代に合うように、地主(じぬし)制度の内容は見直す必要があるとは思いますけどね」

史書(ししょ)ではそうだが……」


 厳しい顔でパーシィは、口を横に結んだ。

 今の時代に合うように、現場に合わせて、法改正をどうするべきかの判断が非常に難しいのだ。


 静観していたリーフさんも、気づいたことがあるようだ。


「国で配分した農業従事者を見直すというが……農業に向かない者はどうするんだ? 例えば、バーム宮殿の郊外の書類を山にしている男だ」


 例えがあれば、簡単な話だ。

 私はすぐ返事をした。


「その兄弟に、それぞれ意見を聞きましょう。この場で考えるよりも、現場で考えた方が良くないですか?」

「あぁ、逮捕しようとしていた奴らか」


 過激な意見を口にする、パーシィは少し盲目になっている。

 肥料の販売量を各農家で平等にするのと、国の農業を成功させるのは、今のところズレた話なのだ。

 視野が広いパーシィなら、彼ら兄弟と話せば、そのことを理解できる。

 焦らず、怒らず、出来るだけ笑顔で、私は提案した。


「では、逮捕する前に、私を伴って彼らの話をそれぞれ聞きましょう」

「そこまで言うのであれば、分かった」


 パーシィが折れた。

 こんな切迫した話し合いの中で、いつの間にか食事を終えていた。

 私の従兄(あに)のパーシィは、とても器用であった。


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