第47話 土のおくすり~アルビオン連合王国~(9)
私は目線を逸らさなかった。パーシィも退かなかった。
態度で決着しないならば、私から言わせてもらおう。
「宮殿の庭園の黒い土は優秀ですね。でも、郊外の農地の土は白や赤です」
「不味いよな」
「味も、農業政策も、どちらも不味いです」
他国の使者として、私は言い過ぎである。
それは分かっていたが、意識して退けなかった。家族間だからと嘘をついては、今後も曖昧な付き合いになるからだ。
テーブルの向こう側の態度は想像通りだ。
リーフさんの目が釣り上がり、不快感を示される。
一方で、清濁を飲み込める王子、パーシィは少し違った。
相変わらず鋭い目線だが、ちゃんと問題の焦点を合わせてくる。
怒りさえ飲み込める度量が、彼にはあった。
「あぁ、確かに両方、不味いと思う。では、私たちはどうしたら良いのだろうね」
「すでに、アルビオン農業改革の歴史書を拝見させて頂きました」
きっとパーシィは、話を受け止めてくれる。
では、私は淡々と話すのみだ。机にあげたのは、船の上でリーフさんから借りた本である。
【アルビオン農業史】
同じ作物を作ると、土だけでなく、農作物が病気になりやすい。
連作障害という。
それを避けるために、アルビオンでは昔から、輪作をしてきた。
複数種の農作物を作るのは、知識も経験もたくさんいることだ。土を休ませるタイミングも考えるとすると、数学のような規則性が生まれる。
その過程で、優れた大地主による農地管理に至った。
アルビオンの農業は最高期を迎える。
地主と雇われた者との上下関係は、時代に合わなくなってきた。
徐々に自由な農法に改正されて、大地主制度は消えた。
戦時中も農法は変わり続けた。
軍用地や工業用地、労働者の居住地、などの土地利用を法律で認めたため、農地が減ってしまった。
今、戦後も法律は変わり続けている。
それを踏まえて、私は意見をまとめて話す。
「不安定な制度、不安定な農地。現状では、農業に従事ずる者に旨みがありませんね」
「うーん。では、大地主制度に戻して農業を安定させろ、ということかい」
「概ね、そうです。適材適所に配置された農業従事者は、結果を出せます。ただ、今の時代に合うように、地主制度の内容は見直す必要があるとは思いますけどね」
「史書ではそうだが……」
厳しい顔でパーシィは、口を横に結んだ。
今の時代に合うように、現場に合わせて、法改正をどうするべきかの判断が非常に難しいのだ。
静観していたリーフさんも、気づいたことがあるようだ。
「国で配分した農業従事者を見直すというが……農業に向かない者はどうするんだ? 例えば、バーム宮殿の郊外の書類を山にしている男だ」
例えがあれば、簡単な話だ。
私はすぐ返事をした。
「その兄弟に、それぞれ意見を聞きましょう。この場で考えるよりも、現場で考えた方が良くないですか?」
「あぁ、逮捕しようとしていた奴らか」
過激な意見を口にする、パーシィは少し盲目になっている。
肥料の販売量を各農家で平等にするのと、国の農業を成功させるのは、今のところズレた話なのだ。
視野が広いパーシィなら、彼ら兄弟と話せば、そのことを理解できる。
焦らず、怒らず、出来るだけ笑顔で、私は提案した。
「では、逮捕する前に、私を伴って彼らの話をそれぞれ聞きましょう」
「そこまで言うのであれば、分かった」
パーシィが折れた。
こんな切迫した話し合いの中で、いつの間にか食事を終えていた。
私の従兄のパーシィは、とても器用であった。




