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薬師マリィさんの小さな旅路  作者: 鬼容章(きもりあきら)
第5章 土のおくすり~アルビオン連合王国~
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第41話 土のおくすり~アルビオン連合王国~(3)

 北の島国、アルビオン連合王国。

 数々の英雄王伝説を残している、歴史的な場所。そして、世界で初めての偉業(いぎょう)も数々成してきた。


 英雄王による、多種族との戦いの果ての国土統一。

 王へ対抗する種族や勢力、武装した民衆が反旗(はんき)(ひるがえ)す。

 王権の喪失と、民主政治。

 だが、部族間の抗争や、政治家の上下関係の歪みにより、すぐに失政となる。

 亡き王の孫娘である薔薇(バラ)の女王により、諸種族の自治領土は安堵(あんど)され、名誉欲に歪んだ政治家たちは失脚した。

 多種族の共存。

 そこから、農業政策が成功し、連合王国の人口が爆発的に増えた。その人類たちは、魔法と工業技術の融合で、魔導科学産業革命(さんぎょうかくめい)を起こした。

 さらに、偉大なる我が国(アルビオン)を広めるために、彼らは海へ出て、海外の国々との協力を結んだ。


 その後、国として上手く行かない時代になってくる。すでに偉大なる女王陛下は去り、子孫の王族世代へなっていた。

 結局は身内にあたる、王族同士のいがみ合いだ。

 フランシス国と、ホランズという地方の農地を奪い合いになる。さらに、隣国のハイネス国も農地の権利を主張する。

 ただ農地はさほど重要ではなかった。

 この地の港、ローダムは他の場所へ行く時に休憩(きゅうけい)補給(ほきゅう)が出来る。

 重要な中継(ちゅうけい)拠点(きょてん)になると、どの国の王様たちも思っていたのだ。


 泥沼の大陸戦争が始まった。

 血気盛んな者からどんどん亡くなった。種族が絶滅寸前まで行く場合もあった。優秀な者は、技術や能力を弟子たちや文章に残す間もなく、地上から消えた。

 その頃になると、同じ国家の内でも、王や軍隊への反感が広まっていた。

 中でも、アルビオンは最悪であった。

 海では、他国を圧倒出来ていた。だが、本国の島国では、焼け野原になるくらいに、反乱軍と正規軍が戦った。

 王も、反乱を企てた王族たちも、陸の軍人たちも、皆、大地に消えた。

 それどころが、工場も壊れ、農地は枯れ、川は毒で汚れた。


 やがて、フランシスも、ハイネスも、国力が無くなり、戦争はいったん止めることになった。

 戦地で疲れ切ったアルビオンの海軍兵士たちが、各海から本国に戻ると愕然(がくぜん)とした。

 北の島国の上、その大地はもはや何もなかったのだ。

 不毛の大地。茶色と灰色の世界であった。

 王もいない。政府もない。学者は巻き添えを恐れて隠れている。

 ()えた国民は路上に座り込み、流行(はや)り病を治す医師もいない。

 壊れた建物も配管も直せず、雑草は生い茂り、土も水も腐り果てていた。

 

 それでも、希望の光はまだあった。

 時のフランシス王が極度(きょくど)の女性好きであった。その愛妻の娘がなんと、アルビオンの王族末端の血を引いているそうだ。

 短い羽が生えているが、空は飛べないハーフフェアリーのビビ公主。

 小柄だが、戦を好まず、聡明な彼女を、アルビオンの女王へ迎えることになった。

 彼女は苦難の旅を乗り越えて、アルビオン島へやって来た。

 フランシス国を抜け出し、中立のホランズ国から、アルビオン復興政府が手引きした海賊船で、この北の島国へ入ったのだ。


 そこからは圧倒的な速さであった。

 ビビ新女王は、復興政府と海軍、そして学者たちの有識者を集めた。残存する敵対勢力を、女王命令で駆逐(くちく)した。

 次に、女王の単独政治は廃止し、学者たちを中心とした新政府を樹立した。バラバラだった軍隊も新政府の元で、近衛兵から中央軍、地方軍に再編された。

 知恵ある学者議員が案を出し、女王が裁可し、上から末端の民衆まで協力して、工場や農地、壊れたあらゆるものを全力で復興させた。

 治安と当面の衣食住は、ついに安定したのだ。


 立憲(りっけん)君主国家。民主政府と女王による混合統治だ。

 王と国民、お互いの良さ、悪さがある。この歴史があるからこそ、この統治機構になった。

 この複雑さを受け入れる国、とても度量が深い。

 そもそもアルビオン人が、複雑な感情を飼いならせる特異な人種の集合体だったからだ。


 フランシス人の私たち(海外の人々)は、『天使』と『悪魔』を同時に飼いならしていると、彼らの気質を皮肉っている。

 フランシス(敵国)人を滅ぼそうとしたのに、今はフランシス(元敵国)人の血が半分流れる女王に尽くし、善悪も種族も男女も関係なく、国民総出で国を立て直した。

 本音と建て前を二面相のように扱う、アルビオンの紳士(しんし)たち淑女(しゅくじょ)たちは末恐ろしい。


 復興のきっかけ、海外の国とアルビオンとの外交が再開した。

 元敵国だった、自然との共存復興を選んだフランシスと、工業国へ進んだハイネス。

 いつの間にか、アルビオンが間に入って、仲直りしていた感じだ。

 それどころか、巻き添えを食らった諸国への根回しもアルビオンは早かった。

 西のレオニア、北東のヴァルキリ、南のアンジェリ、南東のオットー、東方のインペルとも、安定な貿易を行っていた。

 結局、戦争の原因になった港ローダムも、このアルビオン連合王国に最も待遇を良くしている。

 戦後の今、大海はアルビオンの支配下だ。


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