第39話 土のおくすり~アルビオン連合王国~(1)
朝日を映す北海を船で渡った。
ノルドを出て今、農業国で中継地のホランズ国ローダムの港に、私たちはいた。
船着き場で、もめる女性2人を、私とアルトは遠い目で見ていた。なるべく他人のフリをしたい。
半狼の女海賊船長、イグニス。白いコートを羽織る、長身で美しい女性。でも、喧嘩口調が玉に瑕。
そして、緑色の肌で、金色長髪、鋭い目をした筋肉隆々の超高身長な女性。私は見たことがない種族だけど、たぶんオーク種だ。イグニスさんより大柄であった。
それにバサバサとは広がらない濃紺のズボン、襟が付いているが制服だ。
あの格好は、アルビオンの水夫かな。柄のついたブラシで、船の甲板をせっせと磨いていそうだ。
イグニスさんが、半狼らしく唸る。大柄な水兵のオークさんも高圧的に言い返す。
「戦争で没落したアルビオン人さんじゃないですかぁ。どでかい船で鈍そうですねぇ」
「航海法で制限速度が決まっているのだ。貴官こそ、海の上の軍人らしく振舞ったらどうだ?」
「はぁ? 誰が海軍兵士だってぇ? 君の国家の決まりごとを押し付けないでくれるか?」
「我がアルビオンこそ、大海の法治国家であろう! 偉大なる女王様に失礼であろう!」
対立。そして、頬を引っ張り合う海の女戦士たち。
白い狼さんと緑の巨人さんは、ものすごい仲が悪い。どちらも怒りん坊な種族なのだ。
周りから、白い目が投げかけられている。すごい数の視線が密集してきた。
その港の人たちは無言だ。
彼女らに関わらないということは、通報済みだろう。もうすぐ湾岸の警察官たちが飛んでくるはずだ。
あの喧嘩が終わるくらいには、船の補給も終わるだろう。
港で少しだけ待っていても、私たちは苦ではない。たまに、この小さい身体を休ませることも大事だ。
そう良い訳をする私は、青い空を見上げた。
塗りたくったようなスカイブルー。入道雲は空高い。
暑い風にも夏の色が感じられて、全てが濃い。すっかり季節は変わった。
日差しが強く感じるくらい、今日も良い天気だ。
魔法使いの帽子を目深にかぶる。
水っ気がなくなって乾いた薄茶の土に、長いくせっ毛の黒い影が動いている。
そう、私の足下が見える。
すると、相棒のベビードラゴン、アルトがするりと私の前に現れた。
どこから持ってきたか分からない手紙の角で、私の脛をつつく。
私はしゃがみ込み、アルトから手紙を受け取る。そして、彼の頭を優しくなでる。
キュッキュッ、と目を細めて、相棒は喜んでいた。
さて、手紙を開くか。
警官たちがやって来たのだろう、周りの音が消えた。
外野の私は、気にしない。今、手元の手紙を読む方が、大事だ。




