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薬師マリィさんの小さな旅路  作者: 鬼容章(きもりあきら)
第2章 痩のおくすり~四大自由都市同盟~
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第11話 痩のおくすり~四大自由都市同盟~(5)

 この説明を真剣な目で聞いてくれた。

 ドラゴンは子供でもかしこい。

 一方、私はずるがしこいって、よく言われる。

 お師匠のような、たくらんだ笑みで、アルトに近づく。


「よーし、良い子ねー。それ、首輪を付けちゃえ!」

「きゅーっ!」


 ドラゴンは散歩できない。じゃあ、ドラゴンじゃないことにしよう。

 我ながらひどい言い訳だ。

 まだ空を飛ぶには、羽の力は弱い。そうならば、陸を歩く。

 私は至って真剣だ。


 アゼルさんは、「あー、なるほどー」と白けた目で私たちを見た。

 冗談だろうと思われた。

 これから毎日数回の運動をするわけだ。

 続けていけば、彼が私たちを見る目が変わるだろう。


 朝の清々しい空気。

 茶色い街並みを追いながら、私たちの散歩が始まる。

 湖まで歩いて、教会を過ぎて、そこからお家に戻った。


 散歩に来ているトリク市民たちの目が冷やかだ。

 それはベビードラゴンが一生懸命に、石だたみの道を歩いているのだ。

 そして、傍でヒモを引いて歩く少女は、ドラゴンの子供を必死に励ましている。


 街の治安を守るために、兵士さんが私たちに尋ねる。


「えっと、お嬢さん……ドラゴンの散歩かい?」

「飼い犬です」

「それは無理があるよねぇ。犬ならワンと鳴くよ?」

「おい、アルト……ワンと鳴け」


 私の鋭い目におびえて、アルトは従った。

 き……きゃん。

 犬の真似をするドラゴンの子供。

 苦笑いの兵士さんは、「はは、犬でいいか」と許可をくれた。

 アルトはすごく嫌そうな顔ですねた。


「不満なら痩せなさいよ」

「きゃん」


 怒りつつもちゃんと散歩をする。

 えらいぞ、アルト。


 私は家に帰るとすぐ、アルトの身体を蒸しタオルで拭いてあげた。

 汗はちゃんと拭かないと、病気になるとお師匠がよく私に注意するからだ。

 目を細めるアルトは、うれしそうな顔である。


 ただアルトは食べるのをあまりガマンできない。

 すぐお腹を空かす。

 バタバタと手足を動かして、こらえているようだ。

 これは見ている私も忍びない。


 アルトの空腹が私にも刃を向いた。

 口がさみしいのか、私は腕や足をよくかみつかれる。

 傷が日に日に増えていく。

 アゼルさんは、私の傷を消毒して包帯をまく。

 痛そうな顔をすると負けだと思い、私はふつうを装っていた。


「なぁ、ガマンさせすぎじゃないか?」

「そうですかねぇ」

「それとマリィも、ガマンしすぎだ」

「私はガマン強くないです。でも、ここで私が弱気になったら、アルトのがんばりが無駄になります」


 私は歯を食いしばっていた。

 アゼルさんは、この理想的なダイエットに無理があると、もう分かっていた。

 耐える訓練じゃない。

このままじゃ近いうちに、私もアルトも限界で暴れてしまう。


 腕組みして、竜騎士さんは魔獣の飼育を思い起こしていた。

 ややあって、口を開く。


「なぁ、1日の食べる量は同じでもやりかたあるぜ。食った気になれば、アルトも噛みつき癖がなくなると思わないか? 」

「食べ物の量じゃないとすれば、質ですか? 例えば、お肉でなく野菜を多くしたり……とか」


 私の考えを口に出す。

 どうしても100%の量で、中身を変えることしか、私は思い浮かばない。

 それも一理あると、アゼルさんは言う。


「食事が朝昼晩3回と決めつけない方がいい。量をもっと少なくして、回数を増やす。そして、別の食べ物でカサを増すんだ」

「カサを増す? 量は多くなるような……。あ、別の食べ物ってのが鍵ですか! お肉がつきにくくする食べ物で見た目を増やすんですね」


 120%食べてもいいのだ。

 ただし回数を多く、お肉になりにくい食材のカサ増しである。

 これで満腹感は得られる。


 こうして、アルトの食事は1日5回になった。

 カサ増ししているご飯は大盛り。

 味気ないと、勘の良いドラゴンは気づく。

 だから、香辛料で鼻をごまかす。


 それでも空腹になるときは、口を動かすといい。

 ただし、私の腕や足を噛む代わりになるものを与えた。

 自由都市の木材は丈夫だ。アゼルさんに、この木を削ってもらい、噛み用の木のおもちゃを作った。

 アルトは噛むのに夢中になり、私たちが気づいたら、疲れて寝ていた。


 冬に入るころには、アルトは順調に痩せて来た。

 鏡に映るベビードラゴンは、骨格と筋肉の線がしっかりして、イケメンの子になった。


「アルト、やったね。これで春を迎えられるよ!」

「きゅっきゅっ!」


 そう、ただ上手く行きすぎていた。

 この結果が、私たちに最後の事件を招いたのだ。

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