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1.悪い予感

『異世界転生トラック乗務員募集中』


1.悪い予感


 季節は半夏生 (はんげしょう) 。夏至から数えて十一日目のことである。なお正しくは、太陽が黄経一〇〇度を通過する日である。


「あのお……電信柱のチラシを見て来たんですが……」


 看板に〈トラック便〉とあるガラスの引き戸をガラガラと開いた。


「眼鏡クン、まあ入り。寒いやろ」


 名札に「主任 家堤」と書かれた大男が、淡い金色の眼鏡をしたスーツ姿の青年の手を引き、中に案内した。#イエティ


「いま夏なんですけれど」#悪い予感



 免許の条件等の項目に「眼鏡等」「中型車は中型車 (8t) に限る」とある。


「ほう中型8トン限定かいな」


 背中を丸くした家堤 (いえてい) 主任が、眼鏡クンに免許証を返した。


「ダメですか?」


「いや重宝する免許やさかいな。ついでに歳バレするしな。眼鏡クン (未成年) やのおうて眼鏡サンやな。――おーいみんな、今度入った眼鏡サンや」


 休憩していた屈強な連中がゾロゾロと集まってきた。体育会系である。


「いやまだ入ると決めた訳では――」


 そのうちの一人が強引に手を引いた。


「眼鏡サンはアタシとペアな」


 頭一つぶん高い美女の豊かな胸が腕にくっついた。白い首飾り (チョーカー) が目の位置にあった。


「えっ?」



 家堤主任から作業着と安全靴を渡された眼鏡サンは、美女に案内された更衣室で真新しいロッカーにスーツと革靴を入れた。


「孫にも衣装やね」


※正しくは「馬子 (まご) にも衣装」である。


「スーツのほうが楽ですけれどね」


「そんなもんかいな」


「――ってかどうして更衣室にいるんですか?」


「靴下替えると気持ちイイねん」


 見事な美脚である。


「そんなことを言っている訳じゃあ……」


「ほな行こか」



 大型中型トラックが一斉に並んでいた。


「デカ……」


「それアタシに言うたん?」


「マサカ」


 美女が顔を覗き込んだ。眼鏡サンは美人が怒った顔が好きということではないらしい。


 キーのボタンを鳴らすと、トラックのランプが反応した。奥の中型車らしい。


「今日はこの子 (カミオン) か」#camion (仏語)


「毎回変わるんですか?」


「いろいろ指示があるさかいな……まずは助手席で観 (み) といて――ハイ」


 紙の資料を束で渡された。


「コレは?」


「指示書」


 美女が革グローブをした。タルミをキツク引く。


「え?」


「行くで」


「はいっ」


 眼鏡サンが舌を噛んだ。



 交差点でボーッとした女子高生を轢 (ひ) いてしまった。


「じっ事故……」


「はーい一丁上がり!」


「あっあの……女子高生の首……とれてますけど……」


「えっ? また間違えた? ――ビビらさんといてーな。合って (おう) てるやん。眼鏡サンも人が悪いな」


 肩をドンドンされ、息ができなくなる。


「いやそんな訳では……でも首……」


「デュラハンやさかいな」


「助けないと……」


「いやもう死んでるし」


「え?」


「え?」



 昼休憩。


 仕出し弁当を食べたあと、チュッパチャプスを口にした美女が「そうそう」と言った。


「挨拶まだやったね。アタシはユーキ。アンタは?」


 名札に「結城」とある。


「谷崎潤一 (たにざきじゅんいち) です」


「ジュンちゃんね。――食欲ないの?」


 谷崎が迷い箸をとめた。


「あんなもの〝み〟たら……」


「仕事やもん」


 食べ終わった骨を、飴の棒で転がした。結城の好物は駅前の唐揚げだ。


「大学時代、アルバイトをしたんですが、こんな仕事はなかったですよ」


「そりゃそうね。〝この世のものではない〟ンだから」


「何ですって?」


「ここは異世界転生する場所やで。アタシらはその導き手」


「異世界転生?」


「そう」


「マンガやアニメで有名な? ラノベの世界の?」


「そう」


「ということは僕は……」


 予想ができる範囲ではある。


「そんな顔せんでもええやん。……まあ、そうなるわな。――とはいえ第一。トラックがそう簡単に人を轢 (ひ) く訳ないやん。今どき安全装置も複数あるし、人体を検知したら載せてあるのが精密機器でも予測ブレーキで強制停車。〝轢 (ひ) こう〟と自分で思わない限りはムリムリムリ」


 午後は心臓を杭 (くい) で打たれた吸血鬼や、死を告知するバンシーに転生するために喉を切った声楽家などを転生させた。


「結城さん」


 終業時、谷崎が結城に質問した。


「サンはイランって」


「はあ……どうして人間のまま転生させないんです?」







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