第一話 始まりと八星竜
俺はある集落に生まれた一匹の竜である。しかし、俺は一人集落の外で暮らしている。ここの集落の竜達は皆、雷属性で、体のどこかに黄色く雷の様な模様がある。それに比べて俺は模様などなく全身真っ黒だ。いや、純黒と言った方がいいか。
そんな訳で俺は忌み子として扱われている。もちろん色だけが理由なのでは無い。俺には属性がなく、鱗も異常に硬い。そして最大の理由が俺の体格が人間みたいだと言う事だ。俺以外の竜は四足歩行に特化した骨格だが、俺の場合は二足歩行だ。
だが、こうした状況でも生きていけるのには理由がもちろんある。生活面では、狩りを行う場合、身体能力が高く苦もなく食料は確保できる。精神面では幼馴染である雌竜が毎日ここに来てくれる。正直これだけで余裕で生きていける。周りの反応も今じゃ慣れっこだ。
コンコン
「どうぞ」
「やっほー!どう?元気してる?」
「あぁ、お陰様でな」
「そっか、じゃあさお互いに名前を付けようよ」
「な、名前?」
「うん!」
「でも、それは一生を共にする相手とする事で…」
「むぅ〜…そんな事わかってるよ!」
「なんで俺と?」
「何だっていいでしょ!早く考えて!」
「え、あ、あぁ」
「う〜ん…そうね…貴方の名前はルイン、ルイン・ブーゲンビリアね!」
「ルインか…ありがとう。君の名前はフェアリ・スターチスだ」
「フェアリね!ありがとう!気に入ったわ!」
ここまでは良かった。しかし、名前を付け合ったのがいけなかった。フェアリの父で集落の長でもあるライズが激怒し、俺を集落から追放した。今度こそ俺の居場所はなくなった。フェアリは泣いて謝ってくれ、ライズにも俺の追放を取り消すようにお願いしてくれたが、ライズが引き下がる事はなかった。
俺は特に持って行く物も無いので手ぶらで歩いて行く。ふと、後ろを振り返るとフェアリが泣きながら手を振っている。
「絶対迎えに行くからな!」
「待ってるわよ!」
そう最後に約束して5年が過ぎた。俺の体は成長が早くもう既に成体と呼べるくらいには大きくなっていた。今は集落から遠く離れた火山で生活している。火山と言っても休火山だ。なので草木もそこそこ生えている。そして最近困っている事がある。
「ドラゴンさんよ〜、今日こそ鱗の一つや二つもらって行くぜ」
このように冒険者と呼ばれる者達が腕試しに来るようななったのだ。最初は邪魔で追い返していたのだが、誰も殺していないためかいつの間にかこうなってしまって困っているのだ。ただ追い払うだけじゃこうして何度も挑みに来るので俺は覚悟を決める。
自分の魔力を高め、魔法の準備をする。すると、天候が悪くなり、雷雨となる。
「え…いや、ちょっと待ってくれ!怒らすつもりは無かったんだ!だから、許し……」
ズドーンと雷を落とす。人間は跡形もなく消えた。俺は成体になると同時に模様が発現した。一応あの集落の生まれなので大分遅かったが雷属性を使えるようになった。だが、普通の雷じゃない。普通は黄色や青、ごく稀に紫色がいるぐらいだが、俺の色は黒だった。威力も桁違いに高い。黄色、青、紫の順に威力が高くなるのだが、比べるまでもなく強い。
訓練を続けていたら天候すら操れるようになった。そして次の日から俺は俺に挑みに来る人間ほぼ全て殺した。近くの町では俺の事が噂になり誰も近寄らなくなった。そしていつの日か俺は天災級モンスターに指定された。
これで一件落着と思ったのだが、次は何と魔族が訪ねてきた。どうも魔王が俺を配下にしたいらしい。勿論俺は断った。その時はそれで帰ってくれたが次に来た奴は魔王軍幹部だった。
「どうして我らが魔王様のお誘いを断ったのですか?」
「どうしてって言われても…俺にはメリットがないからな。それに果たさないといけない約束もあるからな」
「そうですか…なら丁度いい機会だし、調子に乗ってるガキを懲らしめるか」
―解放―
そう呟くと人の姿から竜の姿に変わった。全身紫で所々緑色があった。流石幹部なだけあって内包している魔力がとてつもない。
「へぇ〜もしかしてこれが八星竜と言うやつか」
「ほう、我らを知っているか。この我が司るのは毒、毒星竜ヴェノムである」
そう言うとヴェノムは殴りかかって来る。俺はそれを体を捻って避けカウンターの要領で殴り返す。しかし、当たるはずもなく避けられる。しばらく攻撃しては避けをお互い繰り返していた。
「小手調べはここら辺にするか」
俺は体中の魔力を口内に集める。ヴェノムも同じく魔力を集めている。そして、己の最大の魔力をお互い吐き出す。
「破滅の息吹」
「猛毒の息吹」
互いのブレスがぶつかり合い均衡状態となる。さらに魔力を高めていくが均衡状態が解けることなく爆発した。
「ほう、この我と同等か。それにお前の魔力は面白い。我のブレスが相殺ではなく消滅させられておったな。フンッ、お前のことは惜しいが今回はこれで去るとしよう。次に会う時が楽しみだ」
ヴェノムは人型に戻り、どこかへ消えて行った。ここで俺はふと思った。もしかして俺も人になれるのでは?と。気がついてしまったからには試してみるのが俺と言うものだ。
それから5時間後―――
「出来た」
そこには身長180センチ、黒髪、碧眼の美青年だった。
「おぉ〜これが人間の目線か。ちっこいな。よし、近くに人間の街があったはずだから行ってみようか」