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『ロックミュージック研究会』  作者: たうゆの
アンコール
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1.アンコール

「四年前の続きをやろう」


俺がそう言うと、みんな分かってましたとばかりに一斉にうなずいた。俺の真意がすぐに伝わる。それがなんとも言えない感慨を呼んだ。


「つまり、アンコールに応えるってことだね?」


「そういうこと。さすがナナカ。分かってるじゃん」


四年前と変わらない長い黒髪をなびかせる。汗がキラリと光った。その姿は四年前よりも、ずっと自信に満ち溢れている。俺たちロックミュージック研究会の精神的支柱。


「でもさ、アンコールって何やるの? わたしたち四人でできる曲はもう全部やっちゃったよね。なんでもできそうだけど、どうせやるならちゃんと思い入れのある曲がいいよね」


四年前と変わらない小さな体。けれどその目は、前だけをしっかり見ている。その姿は「後ろはわたしが支える。安心して前に向かえ」そう言っている。こちらは音楽的な支柱だ。


「なんだよ、エリ。もうやる曲は決まってるみたいな言い方だな」


四年前と変わらない口調。その髪は四年前よりもいくらか落ち着いた色をしていた。ケイガも大人になったなと勝手に親心を感じる。俺たちロックミュージック研究会のムードメーカー。


「決まってる。このタイミングでやる曲はアレだけ」


四年前と変わらない無表情。でも、あの頃は見えなかったその内側にある気持ちが、今はなんとなく読み取れる。俺たちの最高のマネージャー。


「「「「「Four Years Later!!!!」」」」」


全員が声を揃えて、叫んだ。


「やっぱそうだよな。俺たち四人の唯一のオリジナルだもんな」


「うん。まぁ、ケイがいない間に三人のオリジナルはたくさんできたけどねぇ」


ナナカが挑戦的な表情で言う。きっと四年前のバンド内オーディションで俺の曲に負けた悔しさが、今も残っているのだろう。負けず嫌いのナナカらしい。


「うん、うん。どれもすっごくいい曲だよ」


「たしかに。どれもいい曲」


四人が思い思いのことを口にする。再会の喜びに浸るとか、思い出話に花をさかせるとか、そういう湿っぽいものを一切想像させない。四年の歳月なんてあっという間に飛び越える。そのほうがロミ研っぽい。

俺たちはどんな困難にぶつかっても、いつも前を向いてきた。多少落ち込んだりはしたけれど、その姿勢は変わらない。四年経ってもあの頃のままだ。


「なんだよ。俺がいない間に曲作ってたの? それじゃあ、あとでそれ聞かせてよ。俺も一緒にやりたいし」


「当然だな。あまりの出来にビビるなよ」


相当な自信だ。はったりでも自信過剰でもない。きっと本当にいい曲なんだろう。このメンバーが作る曲が駄作になるわけがない。

俺がいない間にできたというオリジナル曲。聴くのが楽しみだ。一緒に演奏してみたい。もちろんみんなが許してくれるなら。

だけど、それよりも今はこのあとすぐにやるアンコールだ。意識的に気持ちを切り替える。


「植村くん。ちゃんと演奏できる? できれば植村くんに歌ってもらいたいんだけどな。四年前みたいに」


「もちろん大丈夫だよ。今日のためにちゃんと練習してきたから。みんなと合わせるのは四年ぶりだけど……とりあえず、最初はエリに合わせればいいよね?」


「うん。それでいいよ。わたしはみんなのバランス見ながら叩くから、植村くんは自分のやりたいようにやっていいよ」


なんとも頼もしい言葉。


「なんか接待みてぇだな。まぁ、しゃーねーけどよ。とりあえず、お前の腕がなまってなきゃなんとかなるだろ」


ケイガは、その言葉とは裏腹に嬉しそうだ。久々に四人でやるライブにワクワクしているのだろう。それは俺も同じだ。


「あたしは何も心配してないよ。ケイが中途半端な状態でここに来るわけないもん。大丈夫。いつもどおりやろう」


ご期待には答えなければなるまい。俺だって、何も考えずにここに来たわけではない。これは四年前の続きなのだ。中途半端な気持ちではステージに上がれない。

会場のボルテージが上がっていくのが、楽屋にいても分かる。もうかれこれ五分ほど「アンコール」の大合唱を続けてくれている。


「俺たち大人気じゃん」


俺がそう言うと、みんな自信満々に笑った。


「どうだよ。俺たちが守って来たロックミュージック研究会は。トレウラにもリサさんにも負けてねぇだろ?」


「内田くん。それは言い過ぎ。トレウラやリサさんにはまだまだ程遠いよ」


エリがやんわり訂正する。


「でも、結構ファンの人がついてくれたりしたし、結構いい感じだよ」


それは会場の盛り上がりでなんとなく理解できた。トレウラにもリサさんにも負けていないとケイガは言った。エリの言うとおり言い過ぎなのかもしれない。けれど、俺にとってロックミュージック研究会は最高のバンドだ。どんなバンドにだって負けてない。


会場の大合唱がいよいよ昂ぶって来た時、楽屋のドアが開いた。


「ちょっと、キミたち!! アンコールどうすんの!?」


リサさんだった。リサさんは俺に向かって「よっ!!」と片手を挙げただけで、なにも特別なことなどないかのようにそのまま続けた。自分で自分の登場が特別なことだと思うのも恥ずかしい。


「アンコールやるならそろそろ出ないとまずいよ。やらないならそうアナウンスするけど、どうする?」


「やります!! やります!!」


ナナカが慌てて手をあげる。


「曲は?」


「Four Years Laterでいきます」


「オッケー!! 早くしてね」


リサさんはナナカと短くやりとりするとまた楽屋の外に出て行ってしまった。


「もう時間ないね。じゃあ、そろそろ行こうか」


その言葉を合図にみんな、それぞれ動き出す。

ステージに上がる前に俺はどうしてもやりたいことがあってそれを止めた。


「ちょっと、待って」


全員が一斉に振り返る。


「あれ、やろうよ。久しぶりに四人揃ったんだからさ」


「あれってなんだよ」


怪訝な顔をするケイガやキョトンとするエリを無視して、手の甲をまっすぐに差し出す。そうするとみんな理解したようで全員が俺の手の上にそれぞれの手を重ねた。


「じゃあ、いくよ」


そう言って全員の顔を確認する。全員と目配せをする。


「ロックミュージック研究会行くぞ!!」


掛け声に合わせて天井に手を突き上げる。四年前と全く同じ光景。一気に時間が巻き戻る。

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