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『ロックミュージック研究会』  作者: たうゆの
9曲目 Four Years Later
78/87

1.共犯者

 文化祭ライブの翌日は、振替休日で学校が休みだった。

 俺は、リサさんにスタジオに来るよう言われていた。


「どうするか決めた?」


 いつもの『D』スタジオに入るなり、リサさんは言った。


「決めました」


 短く答える。


「やっぱりロミ研バンドを完全に捨てるなんてことできません。だけど、母さんのことだって捨てられない」


「うん。それで?」


「リサさんが半分背負ってくれるっていうのなら……四年だけ、四年だけロックミュージック研究会を捨てます」


 俺がそう言うと、リサさんはしたり顔で言った。


「やっぱりね。アタシが言ったこと、信じる気になったってことだね?」


「ロックミュージック研究会の会長には、不思議な力が宿るってやつですか?」


「うん。引退したアタシに今もそれが続いているかは謎だけどね」


「ロックミュージック研究会会長には不思議な力が宿る」以前リサさんはそう言った。初めて聞いた時には、何を言っているのか理解できなかったし、まったく信じることができなかった。今だって理解できないし、本気で信じているわけではない。いわば、リサさん特有のジンクスやおまじないの一種なのだろうと一応納得しているという程度だ。


「う~ん……信じたか、と言われたら正直微妙なところです。でも、信じたい気持ちはあります。母さんが助かるなら、俺はなんだって信じますよ」


「それじゃあ、ちゃんと次期会長になるって宣言してきたんだね?」


 リサさんは、キラキラした目をこちらに向けながら微笑んだ。


「宣言ってわけではないですけど、お願いはしてきました。でも、俺もう来週には親父や母さんと一緒にアメリカに行きます。学校は一応休学ってことにしますけど、そんな状態で会長職なんて大丈夫ですか? すぐクビにされちゃいそうですけど……」


「その辺はアタシがうまくやるから任せておいてよ。ユリハにも協力させるし。それに万が一クビにされても、一瞬でも会長の職に就いたなら大丈夫なはずだから」


 リサさんはドンッと鳴るほど自分の胸を叩くと少しむせていた。どうなんとかするのか想像もつかないが、リサさんなら言葉のとおり何とかしてしまうような気がする。何が「大丈夫」なのか、さっぱり分からなかったけど、あまり気にしないことにする。


「ところでさ、なんで四年後なの? 四年ってなんか中途半端じゃない? キリが良くないっていうかさ。キミって偶数が好きなタイプ?」


「母さんとお酒が飲みたいんですよ」


「ほほぅ、なるほど。二十歳になったらお酒、飲めるもんね。でも、それなら四年後なんて言わずに、三年半とかそれくらいでいいんじゃない? キミの誕生日次第だけど」


 たしかにリサさんの言うとおりだ。出来るだけ早く戻りたいと思えば、極論、俺の二十歳の誕生日に母さんとお酒を酌み交わし、その翌日に戻って来ればいい。


「そうなんですけど、そこはなんて言うか、カッコつけと言いますか……ドラマチックなものを求めてるんです」


「それって、つまり?」


「はい。四年後の文化祭ライブと同じ日に、同じメンバーで、同じセットリストのライブをやる。なんか良くないですか?」


「あはははは。その意味不明な美学は分かるけど、キミは勝手だなぁ。他のメンバーにそう伝えたわけじゃないんでしょ? そんなのキミのエゴだよね。まぁ、いきなり何も言わずにいなくなるってこと自体、他のメンバーからしたら頭にくるエゴ丸出しの行為だろうけど」


 リサさんはいたずらっ子みたいに目を細めて笑う。「アタシはキミのエゴに付き合うよ」という意思が込められていると勝手に受け取る。リサさんは、言ってしまえば俺のエゴの共犯者だ。


 共犯者はもう一人いる。アヤさんだ。

 そもそも母さんの治療費は高額で、親父がすぐにどうにかできる金額ではなかった。

 詳しいことは分からないが、親父の喫茶店アナーキーは敷地も親父の持ち物で、売ればそれなりの金額になるものだったらしい。親父自身も母さんの治療費捻出のために、売却するもやむなしと思っていた。けれど、母さんと二人でコツコツお金を貯めて、やっとの思いで始めた喫茶店。そんな思いが詰まったアナーキーを、母さんの承諾なしに売ってしまっていいかものか、親父は思い悩んでたいた。母さんに話せば、絶対反対するに決まってる。

 そんな親父を見かねたアヤさんが「私が買い取りたい」と申し出てくれたらしい。買い取る時、アヤさんは自分がアナーキーを引き継げば実質は手放さなくて済んだのと同じだと言って笑っていた。いずれ母さんが元気になったら親父に返すとも。


 そんなアヤさんが、なぜ共犯者なのか。


 本当は四年後に学校の公会堂でライブがやりたかった。四年後の同じ日に、同じメンバーで、同じセットリストのライブを、同じ場所でやる。それが俺の理想だ。けれど、いくら卒業生とはいえ、学校は部外者に公会堂を貸してはくれないだろう。

 それに同じ日に、であればきっと文化祭の直前、直後だ。そんな時期ならなおさら貸してはもらえない。


 そこで次に思いついたのが、俺たちに縁のある場所でのライブだった。 

 真っ先に候補に挙がったのが、リサさんのライブを観たライブハウスだ。設備やキャパシティなど申し分ない。

 だけど、俺は何かしっくりこなかった。文化祭ライブのような雰囲気でやりたかったからだ。アットホームは雰囲気とでも言うのだろうか。慣れ親しんだ場所でやるからこそ出る雰囲気というものがある。俺はそれを求めていた。


 そんなときにアヤさんが


「どうせ買い取って経営するなら元々の雰囲気を壊さないまま改装をして、なんとか利益を出したい」


 と言っているのを耳にした。


 元々の雰囲気は完全に壊してしまうだろうが、喫茶店併設のライブハウスにしたら良いんじゃないか、とそれを聞いて真っ先に思った。

 アナーキーならロミ研メンバーは何度も来たことがある。きっと俺が求める文化祭ライブのようなアットホームな雰囲気が出るだろう。それに喫茶店併設のライブハウスなんて、ロックの本場イギリスみたいでかっこいいじゃないか。そう思いつくと、もうそれ以外の方法はあり得ないとさえ思えた。

 それをその場でアヤさんに言わず、別の日にリサさんに雑談混じりに相談した。するとリサさんは思った以上に乗り気で、一緒にアヤさんにお願いすると言ってくれた。リサさんは元々ライブハウスを運営したいと思っていたらしい。それがピンブラを活動休止させてまでやりたいことだと言っていた。


 そこで、俺とリサさんは共謀してアヤさんになんとか首を縦に振ってもらえるよう考えた。色々考えたが、アヤさんには小細工を使うよりもまっすぐに自分の気持ちを伝えた方が得策だろうということになった。

 そんな流れで、俺とリサさんは「喫茶店併設のライブハウスにしてはどうか」とほとんどダメ元で提案、もといお願いをしてみた。


 アヤさんは暫し悩んだのち


「あなたたちがしっかり集客してくれるんでしょうね。それに植村くんにも一応、承諾を取らないとね」


 と快くとは言わないまでも承諾してくれた。俺たちの熱意で半ば強引に押し切った形だ。


 こうしてアヤさんはリサさんとともに俺の共犯者となった。

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