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『ロックミュージック研究会』  作者: たうゆの
8曲目 Welcome To Our Festival
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9.約束

「ロックミュージック研究会行くぞ!!」


 円陣を組んで、お互いを鼓舞する。円の真ん中に五人が手を差し出して、重ねた。掛け声に合わせて、その手を天井に向かって一斉に突き上げる。それぞれがすごくいい顔をしていた。

 俺はこの瞬間のこの光景を一生忘れないだろう。


「それでは登場していただきましょう!! ロックミュージック研究会です。どうぞ!!」


 アナウンスがかかると同時に歓声があがる。実行委員の一人が手のひらでステージ上へ向かえと合図を出した。ステージでは俺のSG、ケイガのナビゲーター、ナナカのスティングレイが俺たちのことを待っている。先頭の俺は、もったいつけてゆっくりとステージに向かった。一度だけ振り返ると、ユリハ会長が拳を握って突き出していた。頑張ってこいという意味だと受け取っておく。


 事前にチューニングを済ませ、セッティングしておいたSGをステージ上で回収する。「ついにお前と一緒にステージに立てるぞ、相棒」と心の中で語りかけた。もちろん返事はない。

 ケイガを真ん中に両サイドを俺とナナカが固め、後ろにエリが座る。左を向くと三人全員が見えた。一番遠くに舞台袖のユリハ会長も見える。

 全員がステージに揃うと、歓声は一際大きくなった。知ってる顔も知らない顔も全部輝いて見える。会場全体が俺たちを歓迎してくれているようだ。


 ナナカが目配せを送る。「始めよう」の合図だ。全員が、一度だけ深くうなずいたのを確認するとナナカはマイクに向かった。


「よろしくお願いします。ロックミュージック研究会、行きます!!」


 ナナカの掛け声と同時にエリのカウントが始まる。

 隣のケイガを見ると、どうも様子がおかしい。ドラムのカウントが耳に入っていないようだ。最初のコードを押さえていない。

 あれだけみんなを焚きつけておきながら、ステージに上がったら一番緊張しているのか。ケイガらしい。

 それならば……と本来ケイガが弾く最初のパートを俺が弾く。ケイガは、すぐに我に返って俺の方を見た。その表情が「わりぃ、助かった」と言っている。俺も表情だけで「大丈夫。落ち着いてやろう」と返す。


 一曲目は『Anarchy in the UK』だ。

 俺とケイガの思い出の曲。中学三年の夏の終わりに、ケイガはうちの喫茶店で『Anarchy in the UK』が大好きだと言った。喫茶店と俺たち自身の名前を使って、ダジャレみたいなことを大真面目に言うもんだから、笑ってしまった。そんな思い出も含めて、今では俺もこの曲が大好きだ。


 二曲目は『God Save The Queen』。

 エリとナナカの思い出の曲。やっぱりダジャレみたいにレイカさんに言われたらしい。「神が女王を救った」って。それを聞いた時、本当にそのとおりだなって思った。だけど、きっとそれだけじゃない。ナナカの方だって、エリに救われたんだ。俺だって、エリやナナカ、それにケイガやユリハ会長に救われている。


 三曲目は『Minority』。

 俺たちがバンドを組んで、初めて一緒に演奏した曲だ。今にして思えば下手くそだったけど、楽しかった。あ、いや、エリだけは今と変わらず抜群に上手かった。

 マイノリティ。この高校では音楽がやりたい生徒は、軽音部か吹奏楽部に入る。俺たちロックミュージック研究会は、マイノリティの集まりだ。この曲は、俺たちにぴったりの曲だと思う。


 四曲目は『Ain't It Fun』だ。

 初めてみんなでリサさんのライブを見に行ったとき、リサさんが急遽セットリストに加えた曲。そして去年の課題曲。

 最初、歌うことを嫌がっていたナナカは、リサさんのライブを見て、歌うことを決めた。今では、自信満々に歌っている。この曲のおかげで俺たちは演れる曲の幅が広がった。


 五曲目は『given up』。

 ナナカたっての希望で演ることになった曲だ。ナナカは一度、音楽を諦めたのだという。「あのときのことか」と俺たちロミ研メンバーならば誰もがぴんと来る。そのときの心情を忘れないためにステージで演りたいということだった。やめておけばいいのに、ケイガのしゃがれたシャウトが響き渡る。


 六曲目は『I'd Do Anything』。

 この曲は、エリの希望でセットリストに入れた曲だ。遠山瑛里華に初めて立ち向かったとき、エリは思ったという。「大切なものを守るためならなんでもしてやる」と。

 エリにとって大切なものとは音楽でありナナカだ。大切なものためならなんでもするという誓いを込めた歌詞に自分を投影しているのかもしれない。


 七曲目は『Still Waiting』だ。

 ケイガのナビゲーターが壊れたあの日。その中から手紙を見つけた。あの時、最後に店内に流れていた曲がこの曲だ。

 ケイガはこの曲を聞いて、お母さんが待ってくれている気がしたと言っていた。だから、お母さんの曲をいつか完成させて聞かせてやるんだと。まだ、完成はしていないようだけどケイガなら必ずやりとげるだろう。


 八曲目は『Welcome To Our Festival』。

 この曲もあの日リサさんが急遽セットリストに加えた曲だ。俺たちにぴったりだと言っていた。俺たちの先輩で、この文化祭ライブに伝説を残したというトレウラの曲。それを今ここでカバーしているということに運命めいたものを感じる。

 舞台袖のユリハ会長に目をやると、今日一番盛り上がっているようだ。


 そして、九曲目。俺が作ったオリジナル曲だ。

『Four Years Later』。まだ、みんなには伝えていない約束の歌。たぶんハッキリとは伝えない。でも、みんななら分かってくれるだろう。そう信じている。俺がみんなを信じているのと同じように、きっとみんなも俺を信じてくれるだろう。



 文化祭ライブは最初のケイガ以外は、目立ったミスもなく、無事最後まで駆け抜けることができた。最後の曲が終わったあとには「アンコール!!」と言う声がしばらく鳴り響いていたが、用意していなかったのできなかった。それ以上に燃え尽きていた。

 申し訳ない気持ちで、アンコールはないことを伝える。ブーイングが起こったが、それが逆に嬉しかった。舞台袖からユリハ会長を呼び寄せて、みんなでステージの真ん中に立ち、一礼する。


「「ありがとうございました」」


 俺たちは声を合わせて大声で挨拶をした。

 エリとナナカは泣いていた。ケイガも泣いてこそいないものの肩を少し震わせている。

 俺はそんなケイガに向かって大きくハイタッチを求めた。ケイガは手がしびれるくらい激しく打ち付けてくる。俺たちのハイタッチに気がついた残りの三人がそれぞれ万歳をする形でハイタッチを求めてきたから、順番に全員と手を打ち合わせた。


 みんな達成感と喪失感が入り混じった、なんとも言えない顔をしていた。


 俺たちの文化祭ライブが終わった。

 ロックミュージック研究会は続いて行くけれど、当面の間そこに俺は加われない。けれど、当面の間だ。

 必ず戻ってくる。

 必ず戻ってまたみんなと一緒にライブをやろう。


 俺はみんなを信じている。


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