MC2
三曲続けて演った。目立ったミスもなく、ライブは順調に進んでいると思う。
客席の後ろの方に目をやるとユリハ会長がいる。卒業した後もユリハ会長はユリハ会長だ。ユリハ会長は俺と目が合うと小さく首を振った。あいつはまだ来ていないらしい。
もうライブは半分以上が終わっている。
あいつは本当に来るだろうか。いや、来る。必ず来る。俺はそう信じている。
一瞬覗いた不安を無理やり頭の外に追いやる。
「カバー曲ばっかりのライブなのに気持ち良いくらいノってくれてありがとう!!」
ナナカのMCが始まった。大丈夫。予定通りだ。
「キャーーーーッ」というライブの最初と比べても全く衰えることのない黄色い声援が客席から飛ぶ。ナナカはそれに手を挙げて応えた。
「休憩を兼ねて少し話をさせてください!!」
ナナカは呼吸を整えてから言った。そして間を取るように一口だけ水を口に含む。俺も釣られて水を飲んだ。喉にチリッとした痛みが走る。『given up』を歌うと喉が少し枯れる。
ここからでも分かるくらいに豪快にゴクリと喉を鳴らして水を飲むと、ナナカは続けて言った。
「まずは今日、この場に集まってくれたみんな。本当にありがとう!!」
エリがナナカの言葉に合わせるようにしてドラムを鳴らす。
「それからここで今こうして気持ち良くライブをさせてくれているオーナーさんと音響スタッフさん。どうもありがとう!!」
再びエリがドラムを鳴らす。今度は俺もそれに合わせてギターを鳴らす。
ナナカは一度確認するようにチラリこちらを見てからMCを続けた。その目には決意のようなものが浮かんでいる。俺とエリ、それからユリハ会長にも同じものが浮かんでいるはずだ。
みんなの思いは同じ。あの頃から今日まで同じ思いを共有して来た。
「今日、ここでライブをすることはあたしたちにとってとても特別な、意味のあることです。どういうことかというと、あたしたちにはあと一人仲間がいます。あたしたちは本当は四人組のバンドなんです」
客がざわめく。さっきまでの歓声とは明らかに違う種類のざわめきだ。そのほとんどが「え?どういうこと?」という戸惑う声。無理もない。俺たちが四人でライブをしたのは、あの日が最初で最後なんだから。
「あたしたちは今日、ここでまた四人組に戻れることを信じて、ある人を待っています!!必ず現れると信じて待っています!!」
ナナカの声に反応して「おーーーーっ」という声が上がる。ライブ特有の高揚が観客を盛り立てている。きっと、意味も分からず声を上げている奴がほとんどだろう。
「ありがとう。さぁ、というわけで楽しい時間はあっという間ですね。ラスト三曲になりました」
今度は「えーーーーっ!!」という声が客席から盛大に上がる。どのライブでも大抵起こるお決まりのやり取りだ。
「最後は三曲立て続けにやって終わり!!サムフォーティーワンのスティル・ウェイティングからトレウラのカバー、ウェルカム・トゥ・アワー・フェスティバル。そして最後はあたしたちの初めてのオリジナル曲。続けて三本演ります!!」
「うぉーーーーーーーっ!!」と、もはや様式美となっている歓声が、条件反射のように上がるとナナカのテンションがそれまでよりも一段上がる。
「みんなーーー!!!ついてきてくれるかーーー!!?」
会場が歓声で答えるとナナカはすかさず、エリにオーケーの合図を送った。
待ってましたとばかりにエリのカウントが始まる。
ラスト三曲。駆け抜けてやる。あいつが必ず現れると信じて———。




