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『ロックミュージック研究会』  作者: たうゆの
6曲目 I'd Do Anything
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1.中間祭

 体育祭の後、全校生徒が体育館に集められた。中間祭というものを行うらしい。体育祭の前日、放課後に前夜祭をやった。不動院高校では体育祭と文化祭の間に中間祭をやる。

 そして、文化祭の後には後夜祭までやるらしい。お祭り好きな高校だ。


 中間祭の催し物の一つとして、文化祭ライブに出演するバンドの発表がある。投票は今朝、体育祭の開会前に各教室で行われた。

 わたしのところにも投票用紙が回ってきて、少し驚いた。選挙だって確か自分にも投票できるはずだから、そんなにおかしなことではないのかもしれない。投票用紙は無記名式だった。


 わたしは当然、ロミ研バンドに印を付けて投票した。

 各自、2バンドに投票しなければならなかったので、残りの一つをどうするかかなり迷った。姑息かなとも思ったけど、校内放送で聴いていて、あまり票が集まらなそうなバンドに投票した。

 ナナカに後で訊いてみると、わたしと同じ理由で同じバンドに投票していることが分かって、二人して笑った。この時にはまだ「このバンドが出演権獲得しちゃったらどうしようね」と冗談を言い合う余裕もあった。


 全校生徒が集まると体育館はいっぱいになってしまう。

 さっきまで行われていた体育祭の熱気がまだ残っていた。いつもよりもみんなテンションが高いように見える。学校全体が異様な熱気に包まれていた。


 そんな中、わたしはナナカと一緒に中間祭の開幕を待っていた。もうだいぶ長い間待たされている。周りからも「いつ始まるんだ」という声がチラホラ上がり始めた。そんな声が執行部に聞こえたのか、ザワザワと騒がしい体育館の照明が突然なんの前触れもなく落とされた。

 外はまだ少し明るさが残っていたが、体育館の中はかなり暗くなった。ザワザワとした喧騒がより一層大きくなる。女子の悲鳴に似た嬌声も聞こえた。


 わたしの緊張も一気に高まった。もうあと少しで文化祭ライブの出演バンドが発表される。


「きっと大丈夫だよ」


 わたしの緊張を察してか、ナナカが声をかけてくれた。


「ありがとう。わたしもそう信じてるんだけど、やっぱり緊張するね。受験の時より緊張するかも」


「うん。けど、もうあたしたちにできることはないよ。信じて結果を待とう」


「そうだね。ねぇ、発表ってどのタイミングでやるんだろうね?」


 昨日の前夜祭では、漫才やコント等、有志による出し物が披露された。ニ日続けて同じことをするのか、それとも全く趣の異なったものなのか、わたしには分からなかった。

 こんなことならユリハ会長にしっかり聞いておけばよかった。少し後悔する。

 ふと前方に目をやると、ステージに人影が見えた。人影の後を追うように、スポットライトが動く。


「さぁさぁさぁ、中間祭の時間がやってまいりました!!」


 キーン――というハウリングの音とともに、調子のいい声がスピーカー越しに体育館に響き渡った。ザワザワとした声が一斉に止んだ。


「ゴホンッゴホンッ」


 咳の音に呼応するようにまたスピーカーから不快な音が鳴る。


「ちょっとPA調整ちゃんとやってっ!!」


 今度はマイクを通さずに地声で袖にいるであろう運営スタッフに向かって大声を張り上げた。コントを見ているようだ。

 しばらくは袖の方をソワソワと見ていたが、やがて正面を向き、再びマイクの前に立った。


「みなさん、失礼しました。それでは改めまして、これより中間祭を開催します!!」


 待ってましたとばかりに歓声があがる。

 歓声のメインはニ年生と三年生のようだ。わたし達一年生は上級生の勢いにつられて申し訳程度に歓声を上げているにすぎない。


「それでは……まず、我々誇り高き不動院高校の生徒諸君。心の準備はできているかな?」


 急に改まった口調になる司会の男子生徒に向けて、先ほどまでの歓声に混じってチラホラと野次が飛ぶ。野次とは言っても悪意のあるものではなく、どちらかというと茶化すような、いじりのような野次だ。

 司会者はその野次にマイクから顔を逸らして地声で答える。わたしのところにはなんと答えたのかまでは聞こえてこない。


「準備はいいか〜?」


 司会者が会場を煽るとしっかりと会場がそれに答える。しかし、もはやこういう時のお決まりとでもいうべきか、司会者は納得しない。


「声が小さくないかい?不高生!そんなもんか?もう一回、準備はいいか〜?」


 さっきよりも気持ち大きな歓声。このやり取りを三回繰り返した。ライブでもよく見られるこのやり取りがわたしは嫌いだった。


「ではでは〜、会場も温まったようなので呼びましょう!中間祭のゲスト、ストーンクラッキングのおニ人です!!」


 司会者の声に合わせて、今日一番の歓声と共に年末恒例となっている漫才グランプリの出囃子が鳴った。なぜこの曲?と疑問に思ったが、すぐに答えが分かった。曲のスタートに少し遅れて袖から出てきたのは、テレビで見たことのあるお笑い芸人だった。お笑いにあまり興味がないわたしはコンビ名までは知らなかったが、それでも見たことはある。


「どうもどうも〜、ストーンクラッキングです〜。いや、みなさん、元気がいいですね〜」


 一言一言にいちいち歓声があがる。


「はい、はい、不高生静かに!それでは、今年の中間祭はストクラのおニ人をゲストにお招きして、進めていきたいと思いますよ〜」


「いや、ホンマに呼んでもらえてありがたいですよ。僕らみたいなおっさんがこんなお祭りに混ぜてもぉてええの?」


「何言ってるんですか。この盛り上がり見てくださいよ。みんなおニ人を大歓迎です。なぁ〜?」


 司会者の声に会場は歓声で応える。妙にこなれている司会者が少し地持ち悪い。


「それならええんですけどね。それで、我々は何をしたらええの?」


「そうですね、プログラムがいくつか用意してあるんですけど、おニ人には僕と一緒に司会進行をしてもらいます。あ、いやプロのおニ人と一緒にやらせてもらえて本当に光栄です。勉強させてください」


「なんや、急に。えらい畏っとるやないな。まぁ、我々プロの仕事がどういうもんか目ぇに焼き付けたらええわ」


「いや、俺ら司会の仕事なんかほとんどやってへんやん!」


 バシンッと頭を叩く音をマイクが拾う。会場は爆笑に包まれた。あたしにはそこまで面白いと思えなかった。


「え〜、それではまず最初のプログラムですが、明日からニ日間かけて行われる文化祭のメインイベントと言ってもいいでしょう。公会堂で行われるライブに出演するバンドを発表します!!」


 ドキンッと心臓が一拍脈を打つ。


「ほぉ〜、文化祭ライブですか。ええやん。そんなに盛り上がんねや」


「そうなんですよ。うちの文化祭はライブが一番盛り上がります。僕も詳しくは知らないんですが、昔トレ・ウン・ラインというバンドが我が校の文化祭で伝説的なライブをやったらしく、それ以来伝統的に異様な盛り上がりを見せてるんですね〜」


「えっ!?トレウラってここの高校の出身なん?我々の世代は直撃やで!」


「そうなんですか?僕は聴いたことないんですけど。有名なんですね〜。そんな文化祭ライブにはうちの生徒から2バンド毎年出演できることになってます!」


「待て待て!軽く流しとるけど、トレウラはホンマに凄いんやぞ。君、分かっとんのか?」


 わたしは心の中で拍手を送る。この芸人、分かっているじゃないか。


「と言われましても聴いたことがないので……。時間もありませんので、早速発表に移りましょう!」


 それに比べてこの司会者はダメだ。何も分かってない。


「まぁ、知らんならしゃーない。ほんで、そのバンド言うのはどうやって決めるん?」


「そこです。実はこの一週間、文化祭準備期間が設けられていたのですが、その期間に各バンドの楽曲を校内放送で流していました。そして、今朝、その楽曲を聴いた上でどのバンドに出演してほしいかアンケートを取っています」


「ほぉ、なるほど。ある種のオーディションみたいなもんやな。エントリーしとるバンドの子らはエゲツない緊張しとるんちゃいますか?」


「そうですね〜、そしてその結果を書いた紙が今、僕の手元にあります」


 いつのまに持ってきたのか、司会の手には一枚の用紙が握られていた。


「おぉ〜、ほな早速発表といきますか?」


「ですね、では、それぞれのバンドをストクラのおニ人に発表してもらいましょう」


 こちらの心の準備はお構いなしにドンドンと話が進んでいく。


「それでは、お願いします!今年の文化祭ライブ出演バンドは……」


 司会者の声に合わせて今度はドラムロールが鳴る。


 ジャンッ――――


 決めの音に合わせてバンド名が発表された。祈る暇もあたえてもらえない。



「グローリー・ロード……と」



「ケイオス・ノット・エンドです!!!」



 耳を疑う間も無く、わたしたちは出演権を逃したのだと分かった。

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