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『ロックミュージック研究会』  作者: たうゆの
5曲目 given up
41/87

Break 3

『Ain't it fun』はあたしが人前で真剣に歌った初めての曲だ。

 カラオケで友達の前で歌ったことはある。だけど、カラオケで歌うのとバンドで歌うのとは全然違う。

 ライブではカラオケのようにガイドメロディがないし、テンポだって一定じゃない。あたしにみんなの視線が集まることもない。それになによりバンドではベースを弾きながら歌わなければならない。油断するとどちらか片方に気をとられて、もう片方が疎かになる。


 思い起こせば、あたしはリサさんの歌う『Ain't it fun』に勇気をもらって、人前で歌うことを決意した。

 あの時のリサさんの歌は衝撃的だった。初めてリサさんのライブを観たあの時から、あたしはリサさんみたいに歌えるようになりたいとずっと思い続けている。今もリサさんに追いつくことはできていない。


 リサさんはあの頃からずっとあたしの憧れだった。それはあいつも同じだ。あたしたちは、みんなリサさんに憧れていた。


 一年生の時の文化祭ライブを思い出す。


 急遽、オリジナル曲を作らなければならなくなった。あの時みんなで作った曲は、今ではあたしたちを代表する曲となった。あれから何曲も作って、何度もオリジナル曲でライブを重ねてきたけど、あの曲を超える曲を作ることができないでいる。

 それはあいつがいないことと無関係ではない。

 あたしたちは四人揃って、一つのバンドなのだ。今のあたしたちは、体の一部をもがれたも同然だ。それもきっと一番重要なパーツを。


 四人で演奏すれば誰にも負けないと思っていたあの頃。だけど、一度全てを諦めかけた時があった。

 自分たちではどうにもできないことがある。世の中には理不尽で救いのない、抗えないことがあると打ちのめされ、全てを諦めようとしたことがあった。だけど、結局それも自分自身の問題だと分かった。


 あの時、苦悩したことは決して無駄ではなかったと思う。

 あたしたちは今こうしてバラバラになることなくもう一度、前を向いて進むことができているのだから。あいつだって。

 ここにはいないけれど、心はあたしたちと繋がっていると信じたい。信じている。


 あの時、諦めずに信じ続けたから今があるように、あたしはあいつが今日ここに来ることを諦めない。


 あぁ……。


 セットリストでは、曲間はチューニングの時間だけですぐに次の曲に入ることになっている。サッと次の曲に合わせたドロップDにチューニングする。


 目で準備完了の合図をすると、エリは手拍子でカウントをする。遅れてあたしたちもエリに合わせて手拍子をする。

 お客さんにまで手拍子が広がったところで、グリスダウンして曲に入る。


 苦悩していたあの頃のあたしたちにぴったりの曲。


 Linkin Parkのカバー。


『given up』

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