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『ロックミュージック研究会』  作者: たうゆの
4曲目 Ain't it fun
39/87

10.オリジナル曲

「自由曲がオリジナル曲限定に変更になった」


 俺たちがユリハ会長からそれを聞いたのは、文化祭ライブ出演の申し込みをした週の金曜日。ロミ研の部室でのことだった。当然オリジナル曲などない俺たちは愕然とし、そして困惑した。

 俺たちはエリとナナカの知り合いに課題曲と自由曲の譜面起こしを頼んでいた。その人の自宅はスタジオになっていてレコーディングもできるらしい。その日俺たちは譜面を受け取るついでにレコーディングのお願いまでしようと企んでいた。


 自由曲の仕様変更は俺たちに少なくないショックを与えていた。とはいえ、いずれにしても課題曲は変わらないのだからひとまずは課題曲の譜面を受け取り、みんなでレコーディングのお願いをしようという当初の予定を変更せずに、その人の元へ行くことになった。


 エリとナナカの知り合いという人は秋光伶花あきみつれいかといいトレウラのドラムを務めていたらしい。ユリハ会長はレイカさんが名乗る前から飛び上がるほど驚いて目を丸くしていたが、正直俺たちはそれどころではなかった。

 挨拶や自己紹介もそこそこにケイガが本題に入る。


「作るしかないだろ。オリジナル」


 ケイガは強気だった。やりたくないと言っていたウェルフェスをやらなくて済むことになったことが関係しているのかもしれない。解決策はケイガの言う通り、オリジナル曲を作るしかない。


「簡単に言うけど、ケイガは曲なんか作ったことあるの?」


 ナナカが問い詰めるように尋ねる。


「ない。けど、それしか方法がないならもうやるしかないだろ。あと一ヶ月あるんだし、なんとかなるだろ」


「そんなに甘くないと思うよ」


 エリがすかさず言う。ナナカに比べると遠慮がちな口調だ。


「もちろん、歌詞とメロディがあって、それなりに楽器が鳴ってたら良いっていうなら作れるかもしれないけど、それじゃあ誰もわたし達を選んでくれないと思う」


 それには俺も同感だった。適当なものが通用するほど甘くはないだろう。それはカバーだろうがオリジナルだろうが関係ない。文化祭ライブに出ようと思ったらそれなりのものが必要だ。


「あたしもそう思う。あたしたちの目標としていつかオリジナルを作るっていうなら全然構わない。だけど、たった一ヶ月しかないんだよ。それでちゃんとしたものが作れるとは思えないよ。少なくともあたしは自信がない」


 ユリハ会長とレイカさんは黙って俺たちのやり取りを聞いているだけだった。


「そんなこと言ったってオリジナルじゃないと自由曲として認めてもらえないんだろ?参加辞退するよりはマシだろ」


「それはそうだけど……」


 ナナカはそれ以上言葉が続かないようだった。


「あの……。レイカさんはプロのミュージシャンなんですよね?やっぱり曲を作るのって難しいんですか?当たり前のことを訊いてるのは分かってますけど」


 俺は思い切ってレイカさんに尋ねてみた。


「う〜ん、アカネが言ったように適当なものを作るならすぐできると思うよ。それこそピンキリなんだから。極論言えばコード一つで音程も『ドーーーー』って言ってるだけでも曲だからね。だけど、人から選ばれようと思ったらそんなに簡単にはいかないんじゃないかな?」


 正論だ。曲に限らない。スポーツでも芸術でもなんだって、適当にやったことに感動する人なんかいるはずがない。


「それじゃあどうしろってんだよ!!」


 ケイガは苛立ちを隠せなくなってきていた。いつも強気に見えるケイガだって、同じようにショックなのだ。


「適当になんかやらなければ良いんじゃない?一ヶ月しかないけど、一ヶ月で俺たちができる全部を出して曲を作ってみようよ。これは俺が勝手に思ってたことだけど、誰かの曲をカバーとかコピーするだけのバンドじゃつまらない。いい機会だよ。短い曲にしたら一ヶ月でもなんとかなるかもしれない。幸い曲の長さに制約はないだろ?まぁ、課題曲の練習もしながらだから相当きついのは確かだけど。どう?やってみない?」


 俺は順番に三人の顔を見る。ケイガは少し考えた様子の後、親指を立てた。エリは目が合うとすぐにコクコク頷いた。ナナカはケイガやエリよりも長く考えた後、ゆっくりと一度だけ頷いた。


「それじゃあ、早速今日から取り掛からないと間に合わないな。って言っても曲ってどうやって作ったらいいんだろう?」


 俺は言い出しっぺのくせに何も分かっていなかった。


「そうだね。ねぇ、レイカさん。トレウラはどうやって曲作ってたの?」


 エリがレイカさんに助け舟を求める。


「昔のことだからなぁ〜。確かカホとかホマレが曲のアイデアを出してたかな。って言っても本当にちょこっとだけのフレーズとかリフだけの時もあれば、まるまる持ってきたりマチマチだけど。そういうアイデアをスタジオでみんなで形にしてたかなぁ〜。歌詞はカホが書くことが多かったよ」


 聞く限りでは難しいのか簡単なのか分からなかった。


「レイカさんは、アイデアを出さなかったの?」


 エリが少しだけ茶化すように訊いた。


「私はドラムのことだけ考えてたからね。その代わりあの子たちが考えてきたメロディを一番生かせるドラム、バチっとハマるドラムを私は付けてきた自信があるよ。あんたにそれができる?」


 エリはおちょくるつもりが、逆にレイカさんにおちょくられてしまっていた。レイカさんの方が一枚上手のようだ。


「とにかく、今ここでどうこうできるものじゃなさそうね。それなら各自がアイデアを考えてきて、来週また発表し合う感じにする?時間がないから発表は、その一回限りでそこで出たアイデアを残りの三週で詰めよう。それ以外の日は、課題曲の練習。それでいい?あ、レイカさんも毎週金曜日はみんなでここに押しかけるようになっちゃいますけど、良いですか?」


 ナナカがまとめに入る。

 俺は特に異論はない。ケイガもエリもオーケーサインを作る。レイカさんも快く受け入れてくれた。

 その日は課題曲の練習をして、レイカさんのスタジオを後にした。


 その日から俺は一日中、曲を作ることばかり考えていた。何かいいメロディが頭に浮かんだら、すぐにスマホに録音してあとでギターを弾いてみたりしていた。

 だが、なかなか自分で自信が持てる納得のいくものはできなかった。風呂に入っている時。トイレにいる時。夜寝る前。それに授業中。常にそのことばかり考えていた。


 みんなでアイデアを持ち寄ろうと決めたとき、何日かはメンバーと顔を合わせずに曲作りに専念する日を作ろうということになった。


 そんな日は決まって俺はカフェにいた。今日もまさにそんな日だ。アヤさんはどこかに出かけていて、店には俺一人だった。

 この前までケイガのギターがあった場所には、俺のSGが置かれている。幸い店に客は一人もいなかったから少しギターに触る。

 今日、授業中に浮かんだメロディにコードを乗せて録音してみた。その音源を再生してみると、思いついた当初に自分が感じていたよりもずっと単調でありきたりなつまらない曲になっていた。


 ここ一週間はずっとこの調子だ。

 やっぱり、いい曲を作るのはそんなに簡単ではないのだと思い知る。それと同時に世の中に溢れている音楽が生まれて来た経緯に思いを馳せる。


 いつまでも夢想していても仕方がない。気持ちを切り替えて次のアイデアを捻り出そうと適当なフレーズを鳴らしていると、カランカランと店の扉が鳴った。

 入口から見たことのある女の人が店に入ってくる。それはリサさんだった。


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