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『ロックミュージック研究会』  作者: たうゆの
3曲目  Minority
22/87

3.部活紹介

 クイズ同好会の次がいよいよ軽音部の紹介だった。紹介と言っても各部活とも部長が一言二言挨拶をして、簡単な活動内容を紹介したあと、詳しく知りたい者はそれぞれの部活が各自詳細な紹介を行う指定の場所に来るように案内するだけの簡単なものだった。


 軽音部の部長はいかにもロックバンドをやっていますという風貌ではなく、いたって普通の真面目そうな黒縁メガネの男子生徒だった。その部長がぞろぞろと数人の部員を引き連れてステージ中央に立つ。

 全員がそれぞれ思い思いに違うバンドのTシャツを着ていた。


「こんにちは!軽音部部長の長谷川です。僕たち軽音部はその名のとおり軽音楽、つまりクラシック以外の様々な音楽をバンドを組んで演奏したり、歌ったりしています。興味がある人はこの後公会堂でライブをやるので是非見に来て下さい。入場は自由です。多くの入部希望者をお待ちしてます」


 軽音部部長は簡単に挨拶をすると早々に舞台袖に引っ込んだ。周りを見てみると軽音部を目当てにしている奴が少なからずいるようだった。


「公会堂でライブかぁ。文化祭でのライブは結構良かったし、楽しみだな」


 ケイガは誰にともなくそう言った。

 軽音部の部活紹介が終わるとケイガはもう目的は達したとばかりに目を瞑りあっという間に眠ってしまった。仲良くなればいいやつだって分かるけど、こういうところは本当に不良だなと思う。


 俺はその後の部活紹介も一応、真面目に見ていた。しかし、これと言って興味を引くものはなかった。

 途中、女子サッカー部が入部希望の一年生同士で試合をすると言っていた。ミズキは女子サッカー部のはずだが、試合に出るのだろうか?

 軽音部を見学した後で時間があったら覗てみようと思った。


 次々と部活動が登場しては紹介をし、去っていく。そうこうしているうちに部活動紹介は最後の部活を迎えていた。


 ようやく終わりかと大きく伸びをしたとき、大きな音、いや音楽が体育館を包んだ。比較的テンポの速い、どこかで聞いたことのある曲だった。

 眠っていたケイガもその音楽で目を覚ましたようだった。


「ん?なんだ?終わったのか?」


 半分寝ぼけた目をこすりながらキョロキョロとあたりを見回している。

 ステージ上では一人の女子生徒が中央に向かってゆっくりと歩いているところだった。背の低い長い黒髪を腰のあたりまで伸ばした姿は失礼だが幽霊のようだ。女子生徒がノロノロと中央にたどり着き、手で合図をすると唐突に音楽がやんだ。

 一年生の視線が小さな女子生徒に一斉に集まる。


「ロックミュージック研究会。略してロミ研の会長、佐々木です。ロックが好きな人、バンドをやりたい人は旧校舎3階の空き教室に来てください。絶対に損はさせません」


 ロミ研の会長はそれだけ言うとそそくさと袖にはけてしまった。今度は曲はならなかった。


「なんだあれ?ニ年で会長なのか?」


 ケイガが俺の方を向いて言った。

 佐々木と名乗るロックミュージック研究会、通称ロミ研の会長は青いネクタイをしていた。不動院高校の制服は、男子女子ともにブレザー型で学年に応じて色分けされたネクタイをしていた。俺たち一年は赤、ニ年は青、三年は緑だ。

 ちなみに、生徒会長や軽音部の部長は緑色のネクタイをしていたから三年だ。


「わかんない。けど、バンドをやりたいなら来いって言ってなかった?」


「言ってたな。けどよ、あんな陰気な女が一人でロックだ、バンドだって。あれ、大丈夫なんか?とりあえず俺らには関係ないだろ。俺らは軽音部のライブを見に行こうぜ」


 ケイガの意見に俺も賛成だ。ロミ研の会長は、どこか暗く陰気な印象でいうなればパッとしない。ロックとは結びつかないのだ。


「はぁ~い、それでは駆け足でしたが、部活動紹介はこれで終了でぇ~す。この後は各自自分の興味のある部活の個別紹介に足を運んでもらって、自分が入る部活を決めてもらいまぁ〜す。あ、もちろん帰宅部でもいいんですよ。帰宅部も立派な部活ですからね」


 再び生徒会長が、ステージに登場した。


「では、一年生の諸君。順番に解散してくださぁ~い。それぞれの部活の個別紹介場所は、最初に配った資料に書いてあるからねぇ~」


 生徒会長がそう言うと、ざわざわぞろぞろと体育館が騒がしくなる。


「じゃあ、俺らも行くか?もちろん、公会堂」


「うん、だね。公会堂ってどこにあるんだっけ?」


 体育館に入る時に入口で配られていたパンフレットを見る。そこには校内の簡単な地図と各部活がどこで個別紹介を行うかが書かれていた。

 A組から退出するということになったので、俺たちはパンフレットを見ながら自分たちの退出する順番を待った。


 体育館から公会堂はそれほど遠くなかった。体育館と校舎を結ぶ渡り廊下の途中が分岐しており、そこを校舎とは異なる方に向かう。そこには体育館ほどではないが、かなり大きな建物があった。『不動院高校 公会堂』と大きな字で書かれている。

 俺たちが着いたときにはもうすでにたくさんの一年生が公会堂を訪れておりステージ近くの前の方、いわゆるアリーナエリアはぎゅうぎゅうだった。もっとも全校生徒を収容できる規模らしいから仮に一年生全員が訪れてもこの公会堂自体は満員とはならない。


 意外に思ったのが女子の人数も男子に負けず劣らずいることだ。勝手にバンドをやりたがるのは男だと思い込んでいたが、最近はガールズバンドも結構あるなと思い直す。

 俺はどの位置で見るのがいいだろうかと考えていた。それはケイガも同じようだった。


「なぁ、どうする?前の方は人いっぱいだし、俺としては少し後ろのほうで様子見しながら聴いてたほうがいいんじゃねぇかと思うんだけど」


 俺も同感だった。ほとんどライブなんか見たことはないけど、前の方に行くとステージ全体が見えないように思えた。それに、ライブ中の観客を見てみたいと思っていた。


「同感。じゃあこのへんでゆっくり見ようか」


「オーケー」


 俺たちは最前の人だかりから少し後ろの離れた位置で、ライブが始まるまで座って待つことにした。


「ところで、ケイガ。あのギターいつまでうちの店に置いておくの?」


「そうだな。とりあえずさ、部活に入って部室とか使わせてもらえるようになったらそっちに置くわ。それまではわりぃんだけどアナーキーに置かせてくんない?」


「それは全然大丈夫だと思うよ。アヤさんもインテリアとして気に入ってるみたいだし。けど、家で練習とかしたくなんないの?」


「あ~、それなら大丈夫。俺んち他にもギターならいっぱいあるから」


 そういえばケイガはうちの店で一緒に練習する時には決まってギターを持ってきていた。俺の練習のために貸してくれるものだったから気にしていなかったが、確かに何本か種類の違うギターを持ってきていたのを思い出す。


「そうなんだ。じゃあなんであのナビゲーターだけ家に置いておかないんだよ」


「ん~、まぁそれは色々あるんだよ。そんなことよりお前はギター買ったの?金貯めて買うとか言ってなかった?」


「いや、まだ。俺ギターのこととか全然わかんないし、どうせならケイガと買いに行こうと思って。金なら貯まったよ」


 俺はケイガを見て不敵に笑う。


「マジか!?なら近いうちにうちに来いよ」


 なんでケイガの家なのかは分からなかった。尋ねようとしたとき、不意に公会堂の照明が落とされた。いつの間にかカーテンが閉められていて、室内は一気に薄暗くなった。

 しばらくするとステージの上にスポットライトが灯った。中心には部活動紹介で挨拶をしていた部長の長谷川が立っていた。


「いや~、今年もたくさん集まったね。去年と同じくらいか、いやそれ以上かな?とりあえず今年も軽音部による新歓ライブ始めます!!盛り上がってけよ〜〜!!」


 部活動紹介の時とは違い、かなりフランクなバラエティ番組の司会者のようなテンションで場を盛り上げるように煽る。

 おぉぉぉぉ!!と控えめな歓声があがる。


「では、トップバッターからいってもらいましょう!!コールドケース!!……どうぞっ!!」


 そう言って舞台袖にはけるとギターやベースを持った四人組が部長と入れ替わるようにステージに現れた。


「コールドケースです!!始めます!!」


 手ぶらで出てきた男が叫ぶ。コールドケースというのがバンド名らしい。すかさずドラムがカウントを始めた。


 いよいよ、軽音部の新歓ライブが始まる。


 ライブそのものが初めての俺は不思議な高揚感に心臓がバクバクと高鳴っていた。


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