世界に響く声
その日、場所も時間も人種も言語も関係なく、同時に、人類は声を聞いた。その声は女性のような声でもあり男性のようでもあり、少女、少年、老人の声のようにも感じられる、不思議な声だった。
《おはようございます。こんにちは。こんばんは。人類の皆さん。今日は突然ですが、えぇ。本当に突然ではありますが、お伝えしなければいけないことがあるのです》
その声は落ち着いた声音で人類に語りかけた。本当に突然に、何の前触れもなく。
人の中には驚いた者もいるだろう、いや、驚かない者などいなかった。
どこかの国の会社員は空耳かと思い周りを見渡すと、同じく周りを見渡す同僚たちと目が合い。
どこかで車を運転していたドライバーは、驚いて事故を起こしそうになり。
ある学生は何か聞こえないかと授業の途中ではあるものの尋ねると、他の学生も、教師さえも聞こえると言うのだから。
それでも、そんな人の事情など知ったことではないとばかりに、その声は話を続けた。
《悲しいお話をしなければならないのです。えぇ、本当に悲しくて、哀しくて、残念な話なのです。それは、皆さま人類の守護者が、遂に、亡くなってしまったのです》
守護者とはなんだろう。と、人々は考えた。その守護者という人物が亡くなって、どうしたのだろう。と、人々は考えた。
周りの人と相談したり、メモを取ったり、人のとった行動は様々だが、それでも共通することがある。それは皆、どこか不安を抱き始めたのだ。まだ話は読めない。けれど、本能的に感じていた。何か不味いことが起きていると。
《えぇ、そうなのです。守護者が、人類が誕生したその時から、何度も何度も人類の絶滅だけは防いでいたあの方が遂に、そう、やっと!死んだのです!ふふ、惨めで哀れな最後でした……本当に、思わず笑ってしまうほどの》
この声の主は守護者が死んだことが余程嬉しいらしい。声のトーンが上がり、自然と笑い声が溢れる。
人が何かを考える前に声は話を続けた。
《ふふ、ふふ、理解出来ていますか?人類の皆さん?出来ていませんよね。つまり、簡単に言うとです。今日から皆さんは、絶滅への道を早足で、いや、皆さまに合わせれると、ジェット機で、ですかね。》
その声は何でもないかのように人類に告げる。お前たちはこれから絶滅するのだと。
《でもでも、それじゃつまらないですよね。だから、よわよわな皆さんにプレゼントを用意しました!ステータスとスキルです!詳しくはステータスと口に出せば分かるでしょう。分からなければ、使いこなせなければ死ぬだけです。それでは、皆さん頑張って生き延びてくださいねー》
《おっと。私としたことが。お決まりのセリフ言うのを忘れていました。では、いきます》
《刻が来た。魔で満ちた。星辰は揃った。
人類の守護者は死に絶え、神々が永き眠りより目覚めた。
穢れた竜の傷も癒え、迷宮の支配者が誕生する。
空も海も大地も既に人類の領地ではない。
小さく、脆く、弱く、醜いだけの人類が生き残れる世界ではなくなった。
抗うための力は与えよう。
生き残るか、絶滅するか。
君たちの迎える結末を楽しみに待っている》
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《「空」の支配権が「天使」に奪われました》
《「海」の支配権が「人魚」に奪われました》
《「大地」が異世界の魔物に侵略されています》
《「神々」が永き眠りより目覚めました》
《「竜」の傷が癒え、再び動き出します》
《「迷宮の支配者」が誕生し、「ダンジョン」が発生します》
《「ステータス」「職業」「スキル」「アビリティ」が利用可能になりました》
《終末世界生存攻略サイトが開設されました。レベル5から使用可能です》
《「日本」の英雄は17騎です》
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