楽しみ
今月は更新頻度低くてごめんなさい。来月は(多分)頑張ります
49階、ボス部屋に突入。
中央で待ち構える魔物へ一直線に駆け、肩に担いだツヴァイヘンダーを振り下ろす。
ソイツは僕の攻撃をステップで回避し、反撃に蹴りを放った。僕もまたそれを避け、互いに相手の出方を見る。
攻める。
ツヴァイを手放し、腰に掛けたトマホークを右手に装備して魔物に向かっての投擲を準備する。
「グルゥギィぃぃ!」
吠えて威嚇する魔物は、人型で、身長は僕と同じくらい。だが僕とは比べ物にならない程の筋肉。まるでボディビルダーのようである。
特徴的なのは、赤色の肌と額に生えた角。
仮称、鬼人だ。
鬼人が瞬きをした瞬間に全速力でトマホークを投擲する。鬼人は反応できず動かない。
が、トマホークは掠ることもなく通り過ぎた。…外しちゃったぁ。
「グルッグゥ?」
鬼人は挑発するように口角を上げた。…それなりに知能はあるんだろう。
まあ別に様子見なのでぇ?えぇ。こんなぽっちの攻防で調子に乗られてもねェー!?
「絶対ェ殺すっ」
「急に短気すぎない…?」
ちょっとした冗談のつもりだったが、アンスリの声で確かに熱くなりかけていた思考を冷ます。
せっかくの人型ボスだし、それに50階前だからねぇ。最後のウォーミングアップだ、気合入れてこうか。
「じゃァ、約束通り手は出さないで下さいねー」
「りょーかい。でもヤバそうだったら助けるからね〜」
ヤバくなるから楽しいンすけどね。まぁ試練前、傷を負いすぎてヘトヘトってのも駄目だ、楽しく真剣に殺し合おう。
僕は小声で呟き、スキルを発動する。アビリティは良いや。使うと面白くなさそう。
「グルゥ…グギッガ」
僕は視線だけは敵に向けながらも、隙だらけな雰囲気を出しながら手放したツヴァイを拾う。なんかもういーやーみたいな感じを演出。
ジリジリと、鬼人は距離を詰める。流石に騙されてくれた訳じゃあないだろうが…。
適度に脱力して構える。目と目が合った。始まるのは恋じゃなくて殺し合いだ。
「グルゥ…ガアアッ!」
先手を取られる。鋭い爪による引っ掻きの連撃、その全てを見切って避けた…ら良かったけど、やっぱ剣が重いし避けきれずに少し負傷。
だが今度はこっちの番。連撃の合間に腹へ蹴りを入れ、体勢を崩す。筋肉に阻まれそこまでのダメージじゃないが充分だ。
蹴りを放つと同時に剣に魔力を流す。イメージするのは斬撃の渦。発動するのは剣術『海割』。
「ォ…ラァッ」
浮いた足で踏み込み、袈裟斬り。鬼人は蹴りでのけぞりながらも腕で防御するが、この攻撃はただの斬撃じゃない。
剣に込められた魔力が斬撃となって切り口から拡がり、鬼人の腕を斬り刻んだ。
「グゥウァアッ!?」
傷の深さはそこまででもないが、血はかなり流れている。あと数発当てれば出血死させられるかもしれないが、そんなのつまんない。
「来いよ」
今度は僕が挑発する。長い言葉も、くどい煽りも要らない。要るのは殺意と闘志の眼差しだけだ。
「グゥ…」
「良い子だね」
意思が通じたのか、偶然か。鬼人は数歩下がって息を整える。一気に決めるつもりだろう。
僕はツヴァイを下段に構え、魔力を全身に満遍なく流す。
鬼人と僕は同時に駆け出した。
「グゥァアッッ!!」
僅かに鬼人が速く攻撃を放つ。大振りの殴打。速く、威力も相当だろう。当たればひとたまりもない。
けれどそれを、あえて額で受ける。頭が衝撃で真っ白になった。だが意識が飛ぶ一歩手前で踏み止まる。
僕の勝ちだ。
「…ッラァァ!!」
心臓にツヴァイヘンダーを突き刺す。そして飛び跳ねるように斬り上げ、心臓から頭まで二つに切り裂いた。
鬼人の血でシャワーを浴びる前に、その血と肉は魔石と塵になって消える。
「あぁ……気持ちえぇ…」
「あ、もう終わった?じゃあさっさと次の階行っちゃお〜!進め進め〜」
アンスリちゃんは爪ばっかり弄って僕の戦い全く見てなかったらしい。酷いね。
逆にラナンはめっちゃ見てたらしく、ダメ出しをたくさん頂いた。あそこの投擲を外すのはあり得ないとか、何で避けずに額で受けるのかとか。
「…次にですね、あの隙だらけの剣拾い。アレわざとなんでしょうけど、流石に魔物も引っかかりませんよ。なのでもし(ry」
「次ィ!進みましょっかァ!」
僕たちは50階に進んだ。
するとやはり、案内人が立っていた。何度会っても、コイツの雰囲気には慣れない。と言うか慣れちゃ駄目だろう。
『はい久しぶり。案内人だよ。元気そうで良かった、良かった。早速だけど試練を受けるかい?それとも雑談?出来れば試練を受けて欲しいけど…』
「急いでんのか?」
『私は別に急いでないけど、君…いや君たち人間は急いだ方が賢明だろうね。あまり時間がない』
「時間が……?つまり、ヤバいってこと?」
『そう、ヤバい!だからさっさと試練を受けてくれ。でも焦ってはダメだよ?時間がないと言っても、一分一秒って訳でもないからね』
僕はアンスリとラナンと相談し、このまま試練を受けることにした。
そこまで焦らなくても良いようだが、時間がないことは事実なんだろう。なら急いで進むとも。僕も彼女たちも、この薄暗い塔から少しでも早く抜け出したいのだ。人類の危機なら尚更に。
「じゃ、試練受けまーす」
そう言うと案内人は満足そうにうんうんと頷き、こちらに近づいてくる。正直怖いし気持ち悪いので勘弁して欲しいんですが…。
『まあまあそんなに嫌がらないでよ、試練についてちょっと話したいだけだからさ』
「はあ…なんすか」
案内人が僕の肩に腕を組もうとしてきたので、手を払い除けて距離を取る。腕が触れた瞬間に全身に鳥肌が立ち、冷や汗が噴き出す。
『ちぇっ…もういいや。で、話したいことなんだけど、今回の試練は覚悟しておいてね。今までとは格が違う。なんたって、相手は上位存在だから』
案内人の上位存在という言葉にアンスリとラナンが反応を示す。2人は見つめ合い、悩ましそうだ。怯えも混ざっているかもしれない。
確か上位存在とは神とかそういうレベルの存在のことだったな。つまり、ヤバいってこと?
「上位存在かぁ……楽しみだな!よし、じゃぁ行こっか!」
アンスリもラナンも、案内人さえも呆気に取られたように停止する。そして、笑った。
『ぁは、ハハハァ!流石、狂戦の英雄様だぁ!素晴らしいよ!やっぱり大好きだ!人間って良いなぁ…!面白いなぁ…!』
――試練の扉は開かれた
――立ちはだかるは上位存在、竜
――その、生まれ損ない
次回、試練 【胎竜】