斧が好きです
鍔迫り合い……剣と剣が衝突し、火花を散らす。僕は一歩踏み込んで強引に押し出す。力勝負は僕の方が優勢だ。
「ラァッ!!」
「…ッ!」
騎士は自分から後ろへ跳んで着地した。そこをアンスリの魔法が追撃。小規模な爆発が発生し、騎士が大きく仰け反る。良いダメージだ。
「ァ…ァア!!」
鉄製の、装飾の少ない無骨な鎧を纏った骨人は吠える。発声器官があるようには見えないが、気迫のある咆哮だ。
だが、やはり戦闘とは。殺し合いと甘くない。少なくとも、気迫だけでは勝たせてもらえない。
騎士が跳んだ背後には、ラナンが待ち構えている。高速で回り込み、トドメを持って行く…彼女の得意な戦法。
「ヤァッ!」
比較的防御の薄い両膝の裏側を蹴りによって一撃で破壊し、相手から機動力を奪った。
そして骨人の弱点であるらしい、兜に守られた頭部を手刀によって叩き割ろうとした時。
骨人の首がバキりと音を立てて折れ、床に転がる。恐らく、自分で外したのだ。
そして頭を失った体が暴れ出す。その隙に頭蓋はどんどん離れていく。
「む…。私は体を抑え込むので、トドメお願いします」
「じゃあ私が捕まえるね〜」
アンスリの腕から蔦が伸び、転がる頭蓋を捕らえる。そしてこちらに引き寄せられる。
「じゃあトキくん、トドメよろしく〜」
僕は剣に魔力を込めて全力で振り下ろす。兜を割り、骨を砕き、殺した。剣は勢い余って地面に刺さった。
そして僕が殺した事によって、骨人は塵になって消え、後には身に付けていた鉄の鎧と魔石が残った。鎧は要らないので置いて行く。
「お疲れ様。じゃあ1時間休憩で」
いやぁ〜疲れた。ここまで休憩あんまり無かったのと、能力強化系のスキルとアビリティは使わずに、魔力の強化だけで戦ってるからね。
理由は鍛錬。基礎能力を上げていかんとね。
ま、無理は禁物だし、休みは大切。それにレベルも上がってるから色々と確認しておきたい。
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水柳 朱鷺 職業ジョブ:狂戦士 レベル:28(↑5)
身体状態:普通
精神状態:普通
生命力:360(↑50)
持久力:320(↑50)
魔力:160(↑25)
筋力:145(↑25)
技量:86(↑15)
敏捷:86(↑15)
耐久力:145(↑25)
精神力:86(↑15)
知力:86(↑15)
――――――――――スキル―――――――――――
生命力強化 持久力強化 身体能力強化 敏捷強化
耐久力強化 英雄 狂戦精神 バーサーク 斧術
剣術 槍術 格闘術 魔力感知 魔力操作 柔軟
直感 治癒速度上昇new [ ]
――――――――――アビリティ―――――――――
闘争本能 狂身狂霊 月の獣
――――――――――――――――――――――――
GOOD!良いね。ここまで来るのに100近くの魔物殺したもんね。お陰で魔石もたっぷりだ。
さて、習得したスキルは治癒速度上昇。まぁ怪我の治りが早くなるって事だろう。生命力強化とはまた別なんだね。
そんで、レベルが25を超えたから一つスキルが覚えられるね。
候補は…そうだね。魔力強化、筋力強化、五感強化で強化系スキルが三つ。
後は二刀流、気配感知、気配操作、咆哮等の補助系スキル。
迷った時は消去法で選ぼう。補助系のスキルはどれも優先度が低いかな?
だから結局強化系スキルになるね。筋力は必要だけど、鍛えれば問題ないだろう。つまり魔力か五感。
うーん…最近は魔力の消費も多いし、魔力強化で決定!
「トキくん、大丈夫…?何にもないところ眺めて…偶にそうなるけど、もしかして持病?」
アンスリにガチで心配された。流石にステータスに夢中になりすぎた。今までは会話しながら適度に操作してたんだけど、気が緩んでる。
コイツらは味方だけど、それは敵の敵は味方みたいな理由で協力してるだけ。ギブアンドテイク的な。
それはそれとして。
「ねぇラナンさん。この大剣以外の武器使うとしたら何がいいと思います?」
「んー…今からメインの武器を変えるのは、あまりお勧めしませんね。せめて予備の武器として短剣や短槍を持っておく、くらいに留めるのが良いと思いますよ」
「なるほど……」
「いえいえ、参考程度に。絶対じゃありませんから」
ほえ〜。期待以上の回答ありがとうございます。大剣は隙もでかいし、動きも遅くなりやすいから軽めの武器も持っておきたい。サブウェポンってやつだ。
……短剣、短槍。いや、斧でも良いんじゃね?実はかなり斧好きなんだよね。骨を断った感触がダイレクトに伝わってさ。
「斧ってどうだと思います?片手で持てるくらいの」
「アリだと思います」
よし、斧に決めーた。
僕は前と同じ様に、英雄のトークルームで斧の作製を頼み、トレード機能で呼び寄せた。
作って貰った斧は片手斧。刃から柄まで全て金属で出来ていて、握りはゴムっぽく滑りにくい。全長は4〜50センチで少し小さめ。刃渡りは約8センチ。重さは1キロくらい。
それが二振りで魔石4個だ。
「へぇ…この世界の斧は小ぶりですね?投擲にも使えそう」
「トマホークって斧らしいです。作った人は投げても良いって言ってましたね」
トマホークはついでに買っておいた、武器を掛けれるベルトに掛けておく。
「うわ、重そ。あ、荷物は持ってあげないからね?」
「別に頼まねぇし。ほいこれ、回復薬渡しとくから」
「ありがとね〜」
準備は大体おっけーだな。じゃあ残りの30分はゆっくり休むとしよう。
「ねぇトキくん、ずっと聞きたかったんだけどさぁ〜」
「なんすか」
「私たちの魅了が効かないのは何でなの?別に性欲がないワケでも、男色でもないでしょ?結構身体見てくるし」
バレてんのかよ…!
いやまあそうだよな。バレるよな。でも貴女達の体つきが魅力的で以下略。多感な時期なんですよぅ…。
「あー……僕もよく分かってないんすけど、魅了とかの精神異常にならないらしいんですよね」
そう言うと、アンスリとラナンの顔には驚き半分屈辱?怒り?よく分からないが、少なくとも好意的ではない感情が表れていた。
「なにそれズッる!!相性最悪じゃん!毎日どうやって傀儡にしてやろうか考えてた私が馬鹿みたいじゃん!死ねっ」
急に性悪全開ですね。つーかそんな事考えてたの!?やっぱ敵じゃないか……羽でも切り落としておくか?敵対の意思を削ぎ落とさんとね〜。
「嘘でーす。トキくんだいしゅき♡」
顔に出てたかな?急に媚びてくるじゃん。しかも雑だし。
「はぁ…元気そうだし、進みましょっか。そろそろ太陽が恋しい頃ですし」
と、言うわけで休憩を切り上げ、塔を進んだ。
――僕は試練で何かを得る。だが同時に、人としての何かを失う。
――それを、第三の試練で改めて知った。




