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偉大な師にお別れを

ちょい長めです


 冒涜者とラナンの戦闘が激化する。ラナンの殴打が骨を砕き、臓物を吹き飛ばす。

 

 向こうも負けてはいない。むしろ有利だ。何度、どれほどの損傷を負っても即座に再生し、反撃する。

 時には長い腕による鞭のような攻撃。火の魔術。風らしき魔術。そして、体から骨や腸などを放ったりもする。


 「良いっ!綺麗な肌に、整った顔ォ!体つきも素晴らしいぃぃ!!とっても、とってもォォ!!……壊したい」


 「私が先に、お前を殺す…!」


 援護したい。するべきだ。だけど、出来ない。割り込んでも邪魔になるだけ。なら今僕がするべき事は、少しでも負傷を回復させる事。

 さっきアンスリには治ったなんて言ったけど、本当はめっちゃ痛い。確かに皮膚は繋がったけど、中身が結構酷いのか、動くと冷や汗が出るくらい痛い。


 「もうっ!速すぎて魔法が挟めない!トキも手伝ってよ!」


 「…あぁ。今ちょっと考えてる」


 嘘だ。何も考えてねぇ。どうすれば良いのか分からない。本当に、残念な脳みそだ。


 思えば、今まで僕が頭を使って戦った事なんてあっただろうか。


 ――ない


 そう。僕は考えず、突っ込んで殺してきただけ。近づいて、攻撃を避けて、斬り殺す。それの繰り返し。確かに、レベルは上がった。身体能力も上がったし、剣もそれなりに使えるようになった。

 

 何も悪い事じゃない。むしろ正解だろう。僕にはそれが合っている。


 重要なのは……今、()()()かどうか。


 僕は今、楽しんでるか?楽しめてるか?


 命懸けで殺し合った時の感動を、覚えているか?


 狂気に身を委ねる快楽。血に染まる心地良さ。



 「ありがとう、お嬢さん。楽しかったですよ。次は貴女の悲鳴で、私を楽しませて下さいね…」

 

 遂にラナンが冒涜者の腕に捕らえられた。二本の腕で拘束し、残りの腕で首を絞める。長くは耐えられないだろう。


 「ラナンッ」


 それを見てアンスリが叫び、駆け寄る。

 僕も剣を担ぎ駆け出した。一瞬でアンスリを追い抜き、冒涜者に接近する。


 「『地裂』」


 剣に流れた魔力がチェンソーのように高速回転し、薄く刃を形成する。


 跳躍と同時に両手で剣を振り上げ、ラナンの体を拘束する腕を斬った。が、あと少し。ラナンの首を絞める方の腕まで届かない。


 刃が届かないのなら。造ればいい。


 「『空斬』」


 剣からから伸びた赤い魔力の刃。僕はそれを空中で振り下ろす。冒涜者の血色の悪い腕は落下する。断面は美しく感じるほどに綺麗だ。


 大した力は込められなかったのにも関わらず斬れたのは、地裂の効果が乗ったからなのだろう。


 「嗚呼……残念。悲鳴は聞けませんでした」

 

 自由落下の途中、冒涜者と目が合った。まぁ正確に言えば、目の位置にある虚を覗き込む。


 笑っていた。


 それを見て、僕は…。


 「ゲホッ…ゥ、ゲホッ」


 ラナンは咳き込みながらもすぐに立ち上がり、距離を取った。それを見て、彼女は戦い慣れしていると感じた。


 「貴方、今。笑っていましたねぇ?楽しんでますよねぇぇ…!?」


 冒涜者が楽しそうに問う。自分の同類を見つけたような、そんな嬉しさが混じっているように感じた。


 コイツは、他人を傷つけて愉しむロクデナシ。

 僕は、他人との殺し合いを愉しむロクデナシ。


 実際、同類なんだろう。向こうは嬉しそうだけど、僕は殺したいとしか思わない。同族嫌悪ってヤツだ。


 「いやぁ、本当に。今日は何て素晴らしい日なんだ!蘇って。使命を得て。冒涜を続けられて!ほンッとうに。最高だぁ…」


 「お前は、楽しそうだな」


 ポロリと、言葉が溢れた。別に会話なんてするつもりは無かったのに。何故か、声になって出てしまった。


 「ふむ……?貴方は楽しくないのですか?先程は笑っているようでしたが」


 「笑ってたか?」


 「ええ、確実に」


 「そっか」

 

 この戦いに命を懸けてるのは僕とコイツだけじゃない。アンスリとラナン。巻き込んだのは僕だ。

 

 確かに最後に判断を下したのは彼女たちだ。気に負う必要はないのは分かる。だけど僕は、責任を感じてしまう。他人の命が懸かった戦いで楽しんでも良いのか、そんな風に悩んでしまう。


 ほんの一瞬。たったの数秒思考の渦に呑まれていると、冒涜者は僕に何を感じたのか、声高らかに、血が溢れ出る四本の腕を天にかざすように伸ばして語る。


 「何を悩む必要がありましょうか!?()()()()()()()()()その命!この瞬間!この殺し合いを!」

 

 両手を広げ、まるで励ますように明るい声で語り続ける。宙に浮く眼球が血の涙を流す。白骨化した脚が震え、カタカタ音を立てる。


 「貴方は昔の私にそっくりだぁ…。私も悩みました。人を殺したい、(なぶ)りたい、壊したい、冒涜したい……。だがそれを。神の教えが、倫理が、教団が、正義が妨げる…」

 

 「なので私は、()()()()()()()()()。だって、そうでしょう…?拒むのだから、妨げるのだから!」


 「『貫きの小枝』」


 冒涜者に木の槍が次々に刺さっていく。アンスリの仕業だろう。刺さる、刺さる。それでも冒涜者は語りを止めようとしなかった。何故、ここまで僕に構うのか。


 「ハハッ、痛い痛い!これでは話どころではないですねぇ……。では、『異端炙り』」


 宙に浮く冒涜者の4つの眼球の前に魔法陣が出現し、そこから黒い火球が現れ、アンスリに向かって飛んでいく。錯覚かも知れないが、その火には嘆く人の顔が浮かんで見えた。


 「また面倒な…!」


 アンスリは苛立った表情をしながら、飛来する火球を駆け回って避ける。が、火球はアンスリを追うように軌道を変える。ホーミング?というものだろうか。


 冒涜者がアンスリから視線を外し、こちらに向き直る。顔に眼はついてないが、きっと真剣で、曇りひとつない瞳をしているだろう。


 

 「さて。私が貴方に言える事は一つだけです。()()()()()()!例え、その先に訪れるのが破滅だとしても!()()()()()()()()()()()()!」



 ラナンの荒い呼吸が聴こえた。アンスリが痛みに悶える声が聴こえた。心臓が脈打つのを感じた。空気に満ちる魔力を感じた。


 自分の中の、大事な何かが変わった(決まった)


 「『英雄特権:祝福昇華』」


 剣を握る。冒涜者の顔を見上げれば目が合う。冒涜者は小さく頷いた。それが正しいと。


 「『闘争本能(Vorvados)』『狂身狂霊(berserk)』……ありがとう。お礼に、殺す」

 

 血が巡る。魔力が溢れる。頭の中で火花が散る。身体から煙が上がる。殺意で満ちる。


 確信がある。コイツを殺せると。


 「どういたしまして。ですが、まだ楽しみ足りないですから…『異端を裁き、処する。正義に加護を。邪悪は火炙りに』」


 天井に魔法陣が広がる。広がって、天井が魔法陣で埋めつくされた。


 「裁きの炎が降りますよ。芳ばしい匂いを期待しますね?」


 脚に力を込めると、石畳みの床が割れる。僕は弾け飛ぶように前に出る。一歩、二歩、加速は止まらない。五歩で、冒涜者が間合いに入る。


 「シィぁアッ!!」


 白骨化した脚を横から刈るように蹴る。片脚を折っても勢いは止まらず、結果として両脚を破壊した。骨の破片が散る。


 「ハハァッ!良い速さですn」


 軽く跳び、全体重を乗せるように肘で冒涜者の腹を殴ると、臓器がぐちゃりと潰れる音と共に冒涜者は吹き飛ぶ。


 臓器を潰した感覚がとても、気持ちいい!壊れてはいけないモノを壊したこの感じ!命を奪う感触!


 「嗚呼……!頭上を注意ィして下さいねぇぇ!?焦げちゃいますからねえぇ!!」


 見上げると、()が降っていた。雲から雫が落ち、大地に降り注ぐように、魔法陣から火球が降ってくる。


 肩に火球が当たる、燃える、焦げる。火が消える。鼻を、肉が焦げる臭いが刺激する。それも、自分が焦げる臭いだ。


 「あ、ハ…ハハァア!いい匂いですねぇ!」


 「■ぁ■■■ッ!」

 

 剣を肩に担ぎ、飛び出す。


 腕に火が当たる。燃え、焦げる。それでも構わず突き進む。


 吹き飛ぶ冒涜者に追いつき、剣を振るった。剣は皮膚を裂き、内臓を切り、太い骨を断って冒涜者の体から血と内臓と共に抜け出す。つまり、両断した。


 だが、これだけでは殺せない。


 「キひィぁハハァ!!」


 冒涜者の肩から生える長い腕が、僕の体を掴んだ。腹を押し付けるよう、狂ったように笑い、叫びながらこちらに接近する。


 「肋骨伸ばしてェ!!次はァ…腸!あ、腸はない!?じゃあ胃袋でドォでしょうかァ!?」


 冒涜者は肋骨を体内から無理矢理に伸ばして僕を拘束した。そして今度は赤黒く、生々しい袋状の器官、胃袋が僕の腹を殴る。


 まさに、狂気!狂人の戦闘!自分の臓器を操り、傷付きながら敵を殺す!気持ち悪りぃ!!


 「死ねェやぁアあッ!!」

 

 冒涜者の顔面を殴る。首の骨が音を立てて折れ、頭部からはピューピューと血が飛び出た。


 腹を胃袋で殴られる。鳩尾に入った。僕は嘔吐する。


 「ハハハハッ!!」


 冒涜者は笑った。


 「■■ッ!■■■ァッ!」


 僕も。笑った。


 楽しい!(いのち)を流し合って、削り合って。ぶつかり合って。殺し合って!


 だけど、僕は。僕たちは。先に進む。


 だから。


 「ラナぁン!殺れぇぇ!!」


 冒涜者の背後には、拳を構えた淫魔が立っている。その淫魔の拳は空間が歪むほどの魔力が込められていた。

 荒い呼吸。羽は所々裂け、きめ細やかな肌には火傷がある。それでも彼女は唱え、拳を振るう。


 「『花園を守護する花が咲く。

   その花は美しい。だが触れてはならない。

   その花には鋭い棘がある。

   その花には命を蝕む毒がある』」


 ラナンの拳にふわりと花が咲く。彼女の髪と同じ桃色の、可愛いらしい花だ。だが同時に、鋭い棘が彼女の肌を切り裂く。

 

 「――嗚呼」


 目の前の冒涜者は、何かを悟ったように、満足そうに瞼を閉じた。


 「『呪法:美華蝕毒(チャーム)光輝の花(Ranunculus)」 


 「蝕み枯らせ。光輝の花」


 そう言うと共に拳も放たれた。僕が瞬きしたその時にはもう冒涜者の頭部は無かった。あるのは、下半身と頭を失った惨い死体だけだ。


 ヤツは死んだ。それも満足そうに。実際、満足したのだろう。アイツは最期にこう言ったのだ。


 「――楽しかった」






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