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試練 【冒涜者】


途中に視点変更があります。


 暗闇に包まれた広い空間に光が差し込む。扉が開かれたのだ。そして扉が開くと同時に、松明に火が灯り空間は明るくなった。

 その光によって、()は目覚める。それと同時に自身のすべき事も理解した。


 排除。殺害。拷問。解体。


 この部屋に入ってきた者を殺せばいい。否、殺さなければならない。そのために、命を与えられたのだから。そのことを彼は受け入れ、大いに喜んだ。


 扉を開き、先に進まんとする者は3人。


 大剣を担いだ、軽装の若い男。纏う魔力は荒々しく、幼い顔立ちに反して凶暴そうである。

 麗しく、露出の多い女が2人。背には羽、腰には尻尾。


 彼――()()()は、自分に命を与えた存在に改めて、心の底から感謝した。

 

 「嗚呼、感謝します……!なんと、なんと素晴らしい!こうしてまた、生を穢せる事を!生を踏み躙る事を!生を……()()できる事を!!」


 冒涜者は、神に祈らを捧げるように、四本の手を組んだ。

 宙に浮く、五つ眼球から黒い血液()を流した。

 興奮のあまり腹が裂け、臓物が零れ落ちる。


 「私は……私は冒涜者!!全てを穢すもの!壊すもの!繋がるもの!そして……冒涜するもの!!」


 「どうか……!どうかどうかどうか!!」


 「楽しんで頂けますように……愉しませて貰えますように……」



 ◆◆◆◆◆


 冒涜者と名乗ったソイツは、まさに異形という言葉が当てはまる姿をしている。


 3メートルほどの巨体。細く、長い腕が四本。脚は白骨化し、腹の縫い目から腸のような器官が零れている。

 肥大した頭部。眼球はなく、目の位置には虚が広がっている。長い舌が口から垂れ、鼻は削がれている。


 首には血管のような紐状の物で、脳味噌が3つほど掛かられている。ネックレスのつもりだろうか?


 「『狂戦精神』、『バーサーク』、『闘争本能』、狂身狂霊』…」


 会話をするつもりはない。ただ、この悪趣味の権化を殺したい。それだけだ。

 そして僕はその殺意に身を任せるように、剣を握る。


 英雄特権は必要ない。必要なのは、剣と魔力と殺意だけ。


 「お姉ちゃん、援護頼むよッ」


 1番に動き始めたのは僕だ。駆け出す。続くようにラナンも。

 

 肩に担いでいた剣を両手で握り、魔力を練り上げていく。

 冒涜者との距離は10メートルほど。刃の長さは3メートルでいいだろう。


 「『空斬』ィイッ!!」


 肩と腕の力を全力で。大きく踏み込み、腰を捻り勢いをつけて、振り下ろすッ!

 冒涜者の背中から生えている2メートルはありそうな異常に長い腕を斬り、そのまま身体もぶった斬りたいが…。


 そう甘くない。


 「発想は良い。だが」


 振り下ろした刃の前に、魔力によって描かれた陣が浮かぶ。恐らく魔術だ。

 そしてその陣に魔力の刃が触れた瞬間に、刃は霧散した。


 その結果に軽く驚きと悔しさを感じたが、別に問題ない。今のは様子見だ。


 僕が剣を振り終わると、今度はラナンが跳び出した。彼女の拳と脚は高密度な魔力で覆われている。


 「ッ!」


 鋭く息を吐き、跳躍。冒涜者に蹴りを放った。めちゃくちゃ速い。前に戦った時は本気じゃなかったのだろう。


 ラナンの蹴りを冒涜者は二本の腕で受けた。そしてその腕は粉砕されたような音を立て、折れたのがよく分かった。

 それで終わらず、羽をはためかせ空中で体勢を整え、もう一度、今度は反対の脚で蹴りを放つ。冒涜者は無事な二本の腕で防御する。そして折れる。


 ラナンは着地し、腰を落とした。そして拳を低く構える。


 「素晴らs」


 冒涜者の言葉は、ラナンの突き上げる殴打―アッパーカット―によって中断される。


 羽を使い飛翔し、高い位置にある頭部まで拳を届かせていた。とにかく速くて鋭い。


 「素晴らしい(すびゃあひぃ)…!美しく(うつくひぃく)しかも強いとは(ひぃきゃもつよひとば)


 ぐちゃぐちゃに砕かれた顎よる発声は困難なのだろう。聞き取りづらい。


 「もってょ…!もってょもってぉぉょだぁ!!」


 興奮するように雄叫びを上げると、ボコボコと体が泡出すように膨張し、変形していく。


 「気持ち悪っ!死ね!」


 背後で魔力が高まる気配。声的に判断しても、アンスリが魔法を使用するのだろう。


 「『棘だらけの蔦鎖』『野原焦がす種子』」


 冒涜者の足元に棘だらけの蔦が出現し、巻き付いて締める。そしてそこにアンスリから放たれた小さい、小さい種のような物が冒涜者に触れた瞬間。

 

 冒涜者は火に包まれた。




 「お姉ちゃん〜?私も巻き込まれる所だったよ?」


 「ごめん〜。いやホント!てかトキくん?全然良いとこなしだったゾ♡次は頑張ってねぇ」


 2人はあたかも戦闘終了のような雰囲気だが、それは油断だ。事実、アイツは動き始めた。

 

 「試練が、こんなもんで、終わる訳ねぇ、だろうが!!」


 僕はラナンの腕を引き、抱き着くように覆い被さった。


 「!?」


 ラナンは驚き、固まったが。僕はそんな事を気にしてる余裕がない。

 背中と腹が熱い。視線を自分の腹に向けると、何か鋭い物が、僕の腹を貫いていた。

 見覚えのある白い物…僕の知識では、骨。それに良く似ていた。


 「クソッ!」


 ラナンをアンスリのとこまで投げ飛ばす。僕も立ち上がり、アイツから距離を置こうとしたが、遅かった。僕は何かに引かれ、転倒した。

 

 「本当に、感謝します。嗚呼…涙が止まらない。感動……つまり。私は今、心が動かされています」


 「そこの彼女にも。その彼女を庇った少年。魔法使いの少女も!!素晴らしい!貴方たちは今、生きている!戦っている!こんなにも尊い事がありましょうか!?」


 僕の足に、何が絡みついた。生々しい、ブヨブヨとした太い紐のような物…()だ。腸が僕の足に巻き付いている。

 そして、引き摺られている。


 「顔を…顔を良く見せて下さい」


 拳に魔力を込め、全力で腸を引きちぎる。引きちぎった。

 僕は転がるように距離を取り、体勢を整えた。


 「嗚呼、逃げないで…」


 「気持ち悪過ぎだろコイツっ!!」


 いつの間にやら近づいてきた宙に浮く眼球を叩き落とす。ぶちゅりと音を立てて潰れた。

 すると、冒涜者が叫んだ。


 「気持ち…良ィ!!眼がひとつ!潰されてしまいました!!ありがとうッ!貴方の眼を頂きますね」


 興奮したと思ったら今度は急に落ち着き、怖い事を言い出す。


 

 冒涜者は、まだ燃えている。肉が焦げる臭いが充満する。決して食欲がそそられる臭いではない。


 床が、冒涜者の血で満ちている。その中を腸や、何かの器官が泳ぐように動き回る。


 宙には眼球が四つ浮かぶ。奴の四本の腕はいつの間にか再生し、今では骨でできた槍のような物まで装備し始める始末。


 「トキ!右に跳んで!」


 アンスリが叫ぶように指示してくれたが、その前に僕は反射的に動いていた。


 僕のいた位置には赤黒い、血で出来たらしい先の尖った柱が出現していた。避けなければ、尻から頭まで貫かれていただろう。


 口から血が溢れる。今の回避で腹の傷が悪化した。かなり、マズイ。


 「トキさん交代です!貴方は休んで!」


 「…頼んだ」


 投げ飛ばしたラナンが僕の肩に手を置いて、暗に下がれと伝えた。

 僕は腹に刺さった骨を強引に引き抜き、ポケットから回復薬を取り出して飲んだ。


 「馬鹿ぁ!引き抜いちゃダメっ!傷が悪化するかも知んないし、血もたくさん出ちゃうのっ!…てアレ?治ってる?」


 「ああ、うん。治った」


 「えぇ…キモ」


 アンスリもムカつくが、今は兎に角、冒涜者をどうぶっ殺すか考えていた。

 

 

 

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