さきゅばすといっしょに
「アンスリとラナンさん、魅了よろしく。僕は効かない奴を殺るんで」
頼んだ通り、数体の魔物以外は淫魔たちに見惚れ、動きを止める。その間に僕は魅了の効かなかった魔物を殺し、そしてその後すぐに残りの魔物も魔石に変えた。
「おつかれー♡」
「うっす。アンスリもお疲れ様」
はい、と言うことで。僕は淫魔と共にこの塔を攻略している。
16階でご飯を食べ終わった後に『攻略手伝ってー♡おねがーい』と上目遣いで言われ、僕はその提案を受け、現在に至る。もちろん上目遣いが可愛かったのが、受けた理由ではない。
デメリットよりもメリットの方が多いかなーとおもって受けたんですよ。
デメリットは魔石の消費が増えるのと、殺される可能性があること。メリットは、戦闘のサポート、魔法だとかの異世界の情報を聞ける、あと癒し。そんな薄着で大丈夫なんですか?ってレベル。眼福。
「はいどうぞ。魔石、集め終わりましたよ」
「ありがとうございます、ラナンさんもお疲れ様っす」
ラナンが不快そうな表情をしながらも、魔石を拾い集めて持ってきてくれた。そんな表情の理由はまぁ魔石についてだろう。どうやら、魔石という存在が彼女は気に入らないらしい。
あと、ラナンは戦ったら多分僕よりも強いのだが、魔物は僕が殺さないと魔石にならない。
なので戦闘は基本的にアンスリとラナンが敵を魅了して止め、そして僕が殺す。そこも不満なのかも知れない。
「もうラナンっ。そんな顔しないっ」
「でも〜。やっぱ無理なものは無理だよ〜」
彼女たちは魔石という存在を知っていた。魔石を嫌う…と言うよりは、魔石を発生させる方法に忌避感を覚えるようだ。その魔石を通貨のように扱うことも。
なんでも魔石とは、魂が物質化?したものらしい。本来、魔石が発生するのはごく稀なんだそう。
では何故僕が殺すと100%魔石が発生するのか。
それは、魔法。
魔法が発動している…らしい。つまり、殺した魔物の魂を物質化させる魔法なのだろう。
アンスリは、「こんな気持ち悪い魔法初めて見たー」と言っていた。気持ち悪いのは魔法であって、僕ではない。そこはハッキリしておきたい。
「トキくん〜?さっさと進もぉよ。今日中に30階階突破が目標でしょぉ」
「あ、ごめん。先進もっか」
現在は18階。時刻は午前の10時だ。
次が19だから、もうすぐ『試練』。どんな試練が待ってんのかね。毎回毎回あんな負傷すると大変だし、簡単だと良いなぁ。無理だろうなぁ。
「じゃあ私先頭で行きますね」
「ありがとね、ラナンさん」
なんか冷てェ!アンスリちゃんに話すみたいにさぁ!こう、もっと…下さい!!
「ねぇ。なんでラナンだけさん付けなのぉ?私の方がお姉ちゃんだよ?てかトキくん歳いくつ?20くらい?」
「いや、16だよ」
「え〜!?まだまだ子どもじゃん!!」
「アンスリは?」
「私25〜!敬ってねぇ〜?おこちゃまトキくん♡」
全然見えねぇ。正直同い年くらいだと思ってた。25?うそぉ。OL?じゃん。知らんけど。
「…進みますよ」
睨まれちゃった。怖わわわぁ。
……………
……………
「はい19階攻略かんりょー!お疲れーさまぁ」
「お疲れ様っすぅ」
いやぁ、すごい楽です。こんなに楽して良いの?ってくらい。あれから30分も経ってないぜ。
魅了が強すぎンだよね。ゴブリン、コボルト、オークはほぼ掛かる。それ以外はあんまりだけど、コイツらが動かなければあとは楽だし。
「20階に入る前に休憩しましょう。次が本番なんで」
「試練だっけ?上位個体も大変だねぇ」
強さの代償を強さで払わなきゃなんだよな。試練がないと不公平だとも言ってたし、仕方なく受け入れよう。
「あー…なんか軽く食べときます?」
「賛成!私いちご食べたぁい!」
「私はメロンで」
遠慮のかけらもないね。そう言えば二人は高貴な血筋だとか聞いたし、贅沢に慣れてるのかもしれない。
ま、正当な報酬だろう。むしろ果物で済むくらいなら安いもんだろう。多分。
「はいどーぞ」
僕は緑茶と鮭おにぎりを食べた。これが最後の晩餐にならないよう、全力で試練に挑む。
「じゃあ最後に確認しておきましょう。試練は魔石の事なんて気にせず、全力で戦います。なんで、ラナンさんも前衛でよろしく。アンスリは魔法で支援よろしくな」
「まっかせて!前衛は任せるよぉ。私か弱い女の子だから〜」
か弱いね……さっき素手でゴブリン捻り殺してたのは黙っておこう。つーか、やっぱ人間とは身体の作りが違うんだろうな。基本性能が桁違いだ。
今の所、上位個体らしい人間の僕よりも、通常個体の淫魔の方が強いし。
「私も頑張りますけど…連携は取れませんよ?」
「まぁその辺は臨機応変ってことで」
はぁ、とラナンさんが困ったようにため息をついた。少し申し訳ないが、まぁ仕方ないよね。
「じゃ、行きましょう」
僕たちは20階に登る。
そしてやはりと言うか、僕たちを迎える者がいた。
案内人。
『おお!両手に花じゃないか。君も隅に置けないなぁ』
『さて、はじめましてお嬢さん方。私はこの塔の案内人を務める者だ。どうぞよろしく』
そう言って案内人は軽く礼をした。揶揄いからの切り替えが早い。
ふざけたような態度の案内人に対し、淫魔たちは酷く緊張したようだった。まるで、怪物と遭遇したように。僕も最初はこんな感じだった気がする。
「…何で…こんな所に」
「冗談でしょ……!な、何が案内人よ。あんた神、いや亜神?」
『素晴らしい!正解だよ。そう言う君は第5の魔族の魔族、淫魔だろ。それもただの淫魔じゃないね?ま、どうでもいっか』
アンスリと案内人がよく分からない会話をする。第5ってのは確か…世界?に関係あんだっけ。あと亜神?よう分からん。
「で、案内人。試練は?」
『うんうん。やっぱり君はいいね。凄くいい』
『さて、これから試練を受けてもらう訳だけど…その淫魔たちも連れて行くのかな?』
「まぁ、はい」
そう答えると、案内人は少し悩むように腕を組んだ。そして、「まぁいいや」と呟いてから話し始めた。
『じゃあ準備が出来たら全員で扉の中に入ってね。もう試練の相手は用意できてるからさ』
『それと。次の試練は50階の時にするよ。本当は10階ごとにしたかったんだけどね……結構用意が手こずっちゃってさ。ごめんね』
別にそれは構わないし、むしろありがたいが…用意に手こずる事なんてあるんだ。本当、よう分からないな。
「アンスリ、ラナンさん。準備いっすか」
「いいんだけどぉ…あんなヤツいるなら教えて欲しかったなぁ」
「ホントに…頼みますよトキさん」
僕はとりあえず2人に謝ったが、後ろで案内人が笑っていたのでとても苛立った。マジで案内人に出来る限りの屈辱を与えてやりたい。
『じゃあ頑張ってね英雄。あと、私の冒涜者も』
嫌な予感が、僕を襲った。