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腹ペコ淫魔姉妹


 16階の攻略を始めて大体10分は経つ。だが未だに魔物との遭遇はゼロ。明らかに魔物が少ない。

 この階の特性なのか、それとも、誰かが既に魔物を殺した後なのか。


 お。


 魔物の鳴き声が微かに聞こえた。恐らく誰かが戦っているのだろう。僕は駆け足でその方向に向かう。


 そういえばこの血塗れの姿だと色々誤解を招きそうだけど…まぁいっか。


 3分も走ると、次の階への階段があるボス部屋が見える。そしてそこで戦う者の姿も。


 

 「こっち全部魅了(チャーム)したよ」

 

 派手な赤色の長い髪。背中に生えた蝙蝠のような羽。尻尾。そして大きい胸、露出の多い水着のような格好。

――淫魔(サキュバス)、アンスリ。


 「こっちも終わった〜。じゃあ後は適当に殺し合いさせておこっかぁ〜」


 自然な桃色の髪。女性にしては大きい身長。こちらも羽と尻尾が生え、際どい水着のような服装。

――淫魔、ラナン


 そしてオークが2匹とでかゴブ、でかコボルトが3匹ずつ。

 まぁコイツら既に彼女達の支配下にあり、もはや操り人形として殺し合う運命のようだ。


 ラナンの殺し合わせるという言葉通り、魔物たちは互いに殴り、噛みつきあい、最後には死にかけのオークが1匹残るという結果になった。

 そのオークもすぐに出血多量で生き絶えたが。


 「はぁ…もうダメ。ほんっとにお腹空いたぁ!ラナン〜!ご飯〜!」


 「私だってお腹ぺこぺこですぅ〜。もう1日は何も摂ってないし〜」

 

 そう言って2人は当たり前のように横になって休み出したが、僕は驚いた。

 

 魔物の死体と血がいつまで経っても消えない。魔石を残し、塵になって消える筈なのに。そしてこの状況を2人は受け入れている。


 …殺した魔物の死体が消えるのは、人間特有の現象という事か?どういう理屈で?どの差なんだ?


 いや。それよりもだ。


 まだ僕は見つかっていない。しかも彼女たちは空腹で弱っているようだ。


 殺るか?


 「…誰!?」


 ラナンが叫んだ。


 バレたようだ。殺気が漏れたのかな。てか殺気って感じ取れるもんなの?分かんね。


 「どうも。お久しぶりですね」

 

 とりあえず友好的に行こう。今から殺すよりは少しでも油断した状態が良いだろう。


 「あの時の上位個体……!最悪っ。お姉ちゃん、逃げよう!」


 「ぁ……」


 「そっか呪詛還り……!」


 すごい嫌われてるね、僕。今まで僕から襲った事なくない?正当防衛、被害者っすよ。


 アンスリちゃんは硬直している。それにこの前もチラッと聞いた『呪詛還り』。その呪詛還りってのが硬直の原因なんだろうか?


 「まぁちょっと落ち着いて話でもしません?敵意はないですよ。今までも僕から襲ったことないし」


 「……分かりました」


 数秒悩んだ末に、すごく眉を顰めながら僕の提案に頷いた。僕はすごい心が痛いです…。


 「あーまず。なんでこの塔に?」


 「…この塔に来れば、姉さんの呪詛還りが解呪出来ると思った、いえ。思い込まされたからです」


 呪詛還り云々は置いといて。思い込まされた、か。僕も同じだな。ここに来れば全ての謎が解けるような気がした。つまり、この塔にはそういう仕掛けがあるんだろう。

 てかアンスリちゃんの方がお姉さんなのか。妹の方が大人びて見えるけど。背も高いし。


 「呪詛還りって何なんです?」


 「呪詛還りを知らない?上位個体なのに?」


 「その上位個体とか言うのも知らないっすよ」


 そう言ったら、ラナンは俯いて考え込み出す。その間、僕は若干の気まずさを感じながら待っていた。

 ラナンは1分後くらいに面を上げて、話を始めた。


 「あの、提案なんですけd」


 その途中、小さく、でもはっきりと聞き取れるくらいの大きさでお腹がぐぅ〜と鳴った。鳴らしたのは僕ではない。

 つまりお腹が鳴ったのは、目の前の赤面する彼女で間違いない。可愛いな。


 そう言えばもう1日は何も食べてないって言ってな可愛いな。うん、可愛い。


 「あー…何か食べます?果物とか」


 「……は、はい」


 あ゛あ゛〜可愛い!いっぱい食わせたるわ!!


 いきなりガツンとしたのよりは果物とかの方が胃に優しいよねって言う配慮。つーか魔族と人間って体の構造同じなんかね?


 僕は一瞬でショップ機能を開き、果物を探す。


 「何か好きな果物とかあります?」


 「林檎と葡萄…が好きです」


 異世界でも果物の名前同じなんだ、とか思いつつも手際よく果物を購入し、ラナンに渡す。あと僕と、一応アンスリちゃんの分も買っとく。

 周りは血生臭いけど、目の前の美が打ち消してくれたので美味しく食べることが出来た。


 そして、空腹を満たして警戒が緩んだおかげか、意外とすんなり情報を教えてくれた。


 まず上位個体について。

 上位個体とは、先天的、後天的関係なくその種族(例えば人間)の平均的な能力を大きく上回る個体のことらしい。


 次に呪詛還りについて。

 これは呪術が失敗した時、発動者に起きる現象らしい。まず呪術とは?という疑問は置いておく。


 起きる現象には2パターンあり、1つは標的()発動者(アンスリ)が近づくと発動者は失敗した事で行き場をなくした呪詛に蝕まれ、軽度で失神、重度だと死に至るらしい。今回はこっち。

 もうひとつは、使った呪術の効果が倍になって還ってくるらしい。もしこっちだったらアンスリは僕に魅了されてたらしい。残念。


 「で。解呪ってどうやるの?」


 「きょ、協力してくれるんですか!?」


 んー…メリット皆無だよなぁ。むしろ敵を回復させるだけ。

 恩を売れるのか?でも人外に義理人情?があるのかどうか。悩むね。


 「……」

  

 「タダでとは言いません。もし解呪に協力してもらえたら、その。なんでも言うことを聞きます…!だから、お姉ちゃんを…!」


 「分かった。協力する」


 流石にそんな必死に頭を下げられたらね。それに何でも言うこと聞いてくれるらしいし。


 「ありがとうございます…!」


 「じゃあ早速解呪しましょう。どうやるんです?」


 呪詛還りの解呪は意外と簡単。ただアンスリちゃんの手を握りながら、『解呪』と魔力を込めて唱えるだけで良いようだ。

 呪術の方の解呪はもっと複雑で難しいらしいが。


 「じゃあ『解呪』」


 そう唱えた瞬間。アンスリちゃんから黒い靄のようなものが出てきて、空気に溶けるように消えた。あれが呪詛なんだろうか。


 「ぅ…」


 アンスリちゃんが目を覚ましそうなので、僕は一旦離れ、ラナンさんと交代する。


 「お姉ちゃん!大丈夫?具合は?」

 

 「ぁ〜…私、寝てた?」


 結構元気そうだし、果物も食べれるだろう。良かった良かった。かんどーしました。


 「お姉ちゃん、解呪したんだよ。体の調子はどう?魔力は?」


 「うん、良い感じ!流石私の妹!どうやったの?呪詛還りの解呪って対象が必よ……うわっ!上位個体!?ラナン!?アイツいるじゃん!!」


 何でこんなに嫌われてんの?大体お前の自業自得じゃない?返り討ちにあっただけだろ。僕を敵みたいにすんなよなぁホント。


 「大丈夫だよ〜。解呪してくれたし〜果物もくれたよ。食べる?」


 「え〜…?毒とか入ってない?」


 「入ってないよ〜しかもすっごい甘いの!」


 え。可愛い。そんなに美味しかった?言ってくれたらもっと買うのに。魔石余ってるし。

 それに気を許せる相手だとおっとりした喋りになるのかな?可愛い。


 僕は頭を抱えた。ラナンさんを見てるだけで、溜まったストレスが全て飛んでいく…!

 回し蹴り喰らってゲロ吐きかけた事なんてどうでも良いわ。所詮過去のことだ、水に流そう。


 「うわ美味っ!トキ?だっけ。ありがとー」


 「あぁ。どういたしまして」


 やっぱ"乳"ですよね。


 僕は本能に逆らえなかった。

 

 

  

 


躊躇いなく魔物も殺せるし、人の死も受け入れられる精神の持ち主だけど、やっぱり思春期真っ盛りの男の子なんすよ。


彼の場合は睡眠欲、食欲、性欲、闘争欲の四大欲求


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