血塗れの僕は進み、殺戮する
疲労と頭痛、その他諸々の体調不良が僕を襲う。いや、もう本当にダルい…。気持ち悪い…。
「ッハァ〜」
服は血が乾いてカピカピだし、全身刺されたせいで穴だらけ。
傷は全部治ってるけど、血が足りない。あと魔力も足りないのか?違和感があンなぁ。絶不調っすよホント。
「おっエ…」
あ、ちょっとゲロ出た。喉ピリつく。
どうすっかなァー。この体調で進みたくないぞ。せめて魔力が回復するまで休憩しよう。つーか寝よう。多分大丈夫だろ。
…………
…………
『起きなよ。こんな所で寝るものじゃないよ、英雄?』
飛び起きて剣を握る。自分でも驚くほど速く、反射的に行動した。それだけ命に危険を感じた。
「…案内人」
『やぁ!早い再会だね。私は嬉しいよ』
死を匂わせる存在が、しゃがんでこちらを覗き込んでいた。
顔はフードの闇で隠れて見えなかった。闇。黒の絵の具で塗りつぶしたような黒。それを一瞬、視界の端で捉えた。
冷や汗が頬を伝う。心臓がバクバクと五月蝿く鼓動する。最悪の悪夢を見た時だって、ここまで酷くないだろう。
『まぁ、そこまで警戒しなくてもいい。ただ声を掛けにきただけだからさ』
「…なんか用っすか」
『いや本当に声を掛けにきただけなのさ。流石に寝過ぎだよってね。君、もう3時間は寝てるよ?』
3時間?そっか。いやァ〜でもお陰ですっかり元気だ!頭痛も吐き気も何にもない。サイコー!!
「あー…じゃ、もう行きますんで。さーせんした」
何か気まずい。なんて言うか、ゲームのシリアスな場面でパンイチとかふざけた格好してる?みたい感じ……。
『あ、そうそう』
案内人は仲の良い友達に世間話でもするように、軽く、話し始める。
『君と一緒にいた明?と中村?だっけ。あの2人、魔物に喰われて死んだよ!いやー女の子の方は酷かった。男の方はすぐ喰われただけマシだったね』
コイツは腐ってる。性格が最悪。そして、人とはかけ離れた精神構造をしている。
だからこんなにも殺したいと、排除したいと思うのだろう。
平和を奪った侵略者。日常の破壊者。世界にとっての異物。
いずれ殺す。
「……それだけか?」
『うん。それだけ』
剣を担ぎ、あの怪物が残した黒い魔石を拾って進む。槍は置いてく。使わないし、持ってけない。
『おーい、槍忘れてるよ?』
「……お前は黙って20階で待ってろ」
いつの間にやら出現した階段を登って、次の階に進む。振り返ると、案内人が手を振っていた。気色悪い。
扉を開き、11階に入り扉を閉める。そしてすぐに扉は壁に溶け込むように消えた。
「間違ってたか…僕は」
見捨てるくらいなら、最初から助けなければ良かったのか?
僕はただあの2人の死を先延ばしにして、希望を抱かせただけだったのか?
分からない。あの2人が最期に何を思って死んだのか。僕を恨んだか?それとも自分の無力を恨んだか?
分からない。考えるだけ無駄なことだ。死人のことを気にしてられるほど、生者の僕には余裕がない。
今はただ。進め。
…………
…………
左右にでかゴブが3体ずつ。木人形も左右に3。正面にオーク1体。
問題ない。全て、一撃で殺す。
「『剣術:空斬』」
魔力を込め、剣を横に薙ぐ。それだけで、視界全ての生命体が両断される。
血と臓物を撒き散らし、数秒後には塵となって消えていく。
『空斬』は魔力によって攻撃を拡張する技。簡単に言えば魔力で造った刃を伸ばして敵を斬る。
魔力の刃はほとんど重さを感じさせないが、切れ味は凄まじい。つまり超強い。
まぁその分消耗が大きいが少なくとも2、3発程度は問題はない。
これで14階の攻略が完了。
良いペースだ。10階から約1時間半しか経ってない。やっぱソロだな!!
ただ罠がダルい。直感で避けられるけど限度もある。今までに数回引っ掛かり、その度に傷を負う。1分も経てば治るような傷だけど。
あの怪物―ムーンビーストと言うらしい―を殺してから、明らかに調子が良い。
それは、アビリティが増えたからだろう。
―――――――――――――――――――――――――
水柳 朱鷺 職業ジョブ:狂戦士 レベル:23(↑3)
身体状態:普通
精神状態:普通
生命力:310(↑30)
持久力:270(↑40)
魔力:135 (↑15)
筋力:120(↑15)
技量:71(↑9)
敏捷:71(↑9)
耐久力:120(↑15)
精神力:71(↑9)
知力:71(↑9)
――――――――――スキル―――――――――――
狂戦精神 バーサーク 生命力強化 身体能力強化
敏捷強化 耐久力強化 持久力強化 英雄 斧術
剣術 槍術 格闘術 魔力感知 魔力操作 柔軟
直感
――――――――――アビリティ―――――――――
闘争本能 狂身狂霊 月の獣new
―――――――――――――――――――――――――
アビリティ、月の獣。
サイトの質問機能で調べた所、能力はまず魔力、精神力、知力の3つに補正。
そしてメインの特殊能力は、『自身の装備している武器を視界内の空間に出現させ、攻撃する』能力。
アイツが使ってきた技だ。気付いたら背後から槍が現れて脇腹を削がれたアレ。それが使えるようになってない。
能力に補正はかかっているようだけど、特殊能力は使えない。僕にはまだ使えないのか、使わせて貰えないのか。
分からないが、まぁ別に喉から手が出るほど欲しい技でもないので構わない。むしろ補正の方がありがたいね。
ちなみに、僕の闘争本能と狂身狂霊の時にあったテキストは無かった。ただ能力の紹介が載っていただけ。逆に不気味だ。
「お。これ美味いっ」
自分への労りと栄養補給を兼ねて買った、ゼリー状のエネルギーチャージ系のヤツ。
ショップはなんでも揃ってて便利。マジで誰が商品を入荷してんのかね。
……さて、休憩も十分。
服は変わらず血塗れでボロボロだけど、どうせ汚れるならこのままで良いやの精神で行く。剣も(テキトーだけど)手入れしたし。
魔石は重くなりすぎないよう適度に使い、リュックの中身も万全。
次は15階。
何がいるか、起きるか。少し楽しみだ。
…………
…………
歩き初めて約5分。初見の魔物と遭遇。
見た目は、二足歩行する不細工な犬。大きさはゴブリンくらいで小型。
確か…コボルト?が2体。
「「ギャウッ!」」
突っ込んできたヤツから順に蹴飛ばす。コボルトは回避もできずそのまま吹っ飛ぶ。
弱い。ゴブリンよりは速いが、それでも今の僕には遅いし非力。
それからは、罠にかかって飛んできた矢が肩を掠めた事以外は特に何も無く、遭遇した魔物全てを斬り、殴り、蹴って殺した。
階段前の中ボス部屋もオークが2体とでかいコボルトが1体で、苦戦することもなく勝った。
次なるは16階。そこで僕は彼女たちと再会する。
前回使った祝福昇華は、闘争本能と狂身狂霊を同時に発動すると、今の水柳朱鷺の魔力なら30秒くらいしか発動出来ないです。その分強い。
ちなみに空斬は10発撃てるくらいです。
【次回】 腹ペコの淫魔姉妹