表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/58

試練 【月の獣】


 部屋に一歩踏み入ると、松明に火が灯り暗闇が晴れた。松明だけでこの明るさは不自然だが、まぁ良い。

 

 とても大きい部屋だ。広さは学校の体育館くらいはある。天井は10メートルほどの高さ。

 

 そしてその中心に、()()()()()()()()


 ソレは二足歩行するヒキガエルのような姿で。

 ソレは2メートルは超え、力士のような肉付き。

 ソレは灰色で、ブヨブヨとした皮膚。

 ソレは目が無く、目の位置にはピンクの触手が蠢いている。

 ソレは手に怪物と同じ程の大きさの槍を持ち、暗く黒い魔力を纏っている。


 「p"y"a"」


 怪物が奇怪な鳴き声を放った瞬間、空気を引き裂く音が背後から聞こえた。

 ただの勘ではあったが、僕は右に跳んだ。そしてそれは正解だった。


 左脇腹に違和感を感じる。熱くて、喪失感とでも呼ぶべき感覚。

 見ると、僕の左脇腹は削れていた。血が流れ、赤く染まり、少し欠けている。


 止血。いや、無理だ。その隙に殺される。今は観察と回避に専念。隙を見て回復薬を使う。


 一瞬で判断を下し、行動する。冷たく、鋭く、思考が加速していく。

 

 (ツヴァイヘンダー)を担ぎ、脇腹を押さえながら走り出す。


 「p"y"a"ー!」


 鳴き声。そして空を裂く音。


 背後の魔力が急激に高まるのを感じ、全力で駆ける。そしてすぐ僕のいた位置に()が出現したのを確認する。

 あれがさっき僕の脇を削いだ技で間違いない。魔術か魔法か知らないが、分かるのは喰らうとヤバいことだけ。実際あの時横に跳ばなかったら腹を突かれて致命傷だっただろう。そう思うと冷や汗が噴き出す。


 相手の技は割れてきた、あとは隙を見て回復。そして斬り殺す。


 「p"y"p"y"ッ!」


 顔の触手がうねうねと動き、謎の液体を撒き散らす。とても気色悪い。今まで見たどんな魔物よりも冒涜的で、常識から外れた外観をしている。


 『■■■■ァ■■ッ!!』


 喉に魔力を込めて咆哮すると、自分でも驚くほどの声量が出る。怪物は怯んだように硬直した。

 その隙に、ポケットから回復薬の瓶を取り出して蓋を開け飲み干す。


 空いた瓶を投げつける。怪物は槍で叩き落とした。

  

 回復薬の影響か身体が熱くなり、脇腹がぐちゃぐちゃと音を立てながら再生を始める。アドレナリンのお陰か痛みは感じない。むしろ気持ちいいくらいだ。

 傷は数秒後にはほぼ元通りに治った。これで心置きなく殺し合える。


 両手で剣を握り、一気に距離を詰めていく。


 「p"y"!」


 眼前で魔力が急激に高まり、一瞬で槍が出現する。ギリギリで反応し、頭を傾けるが避けきれず、頬が切り裂かれる。

 流れる血を舐めとり、怪物を睨みつける。


 止まらず、更に勢いをつけ走り出す。間合いまで残り4メートル。

 相手は槍でこっちは剣。リーチは劣っている。力と技量は不明。体格もこちらが下。


 勝てるか?


 いや、勝てる勝てないじゃねぇ。


 ()()


 それだけを考えろ。それ以外は邪魔だ。ただ僕は全力で、一撃で殺す気概で剣を振るえば良い。


 「p"y"gg!」


 ビュンッと音が立つほどに速い突き。身体を逸らして躱すが、避けきれず肩に浅いのを一撃受ける。

 怪物はそのまま槍を横に薙ぎ払う。滑り込むように下に潜り、槍を避け、剣を構える。

 とても低い、しゃがむような姿勢で構える。剣は大きく重い。連撃は狙えない。だから、一撃で決める。

 

 「シャッアァアッ!!」

 

 一歩踏み出しながら剣に魔力を全力で込め、振るう。遠心力を乗せた大振り。


 怪物は跳躍し避けるが、僕の振るった剣は怪物の足を斬り落とした。怪物は足から青色の血液を撒き散らしながら落下し、片足で着地する。


 「……p"…p"、p"」


 耳障りな汚い高音の鳴き声。顔の触手が忙しなく蠢き、灰色の皮膚が波打つ。

 斬り落とした足の断面から、青い血が流れ出ている。


 「『■■■■……」


 怪物は聞き取ることの出来ない言葉を、下を向きながらぶつぶつと唱え始めた。

 

 嫌な予感がする。

 

 あの雰囲気はどこか、僕が()()()()を使う時と似ているように感じる。

 

 「■■■■』」


 そして怪物がこちらを向いた時、寒気が僕を襲った。

 アイツの魔力が跳ね上がり、しかも別の魔力が混じっている。僕の英雄特権と同じようだが、違う。格が

、違う。


 「『■■■(moon beast)』」


 ムーンビースト。そう聴こえた瞬間。


 僕は床に倒れた。


 自分から倒れたわけじゃない。何か、圧倒的な力で押さえつけられている。押し潰されそうなほど、骨が軋むほどに強い力。

 

 直感でしかないが、これは……重力?


 「p"…kya!kya!」

 

 怪物がゆっくりと近づいてくる。聞こえる鳴き声は、まるで僕を嗤っているようだ。


 「クソッがぁ…!」


 何とか力に逆らい、顔を上げる。視界に映ったのは、槍。

 回避が頭に浮かんだ頃には頭を槍で叩かれ、額を強く地面に打ちつける。


 「kya!kya!kya!」


 全身を槍の穂先で突き刺される。だが致命傷ではない。アイツが加減しているからだ。

 血がどこからも溢れ、全身が赤に染まる。少しずつ再生は始まっているがそれ以上に血が流れる。


 痛みと屈辱を感じつつも、僕の頭は回る。


 コイツが僕と同じ英雄だとしたら……この力が英雄特権によるものだとしたら……!

 

 「kykyaa!!」


 僕にだって、使える筈だ……!


――――――――――――――――――――――――

 『祝福を受け入れるか?』

 『試練を乗り越えられるか?』

 『英雄を殺し、自分こそが神に愛されるに相応しい英雄だと、証明できるか?』

――――――――――――――――――――――――


 「祝福を…受け入れる!試練を乗り越える!英雄も殺して!証明するッ!」


――――――――――――――――――――――――

 『よろしい。では、授けよう』

 『時を測り、魔を誅し、星辰を正す者よ』

 『戦いに狂い、血に酔い、破滅をもたらす者よ』

 『神を愛し、神を殺せ』

――――――――――――――――――――――――

 

 「『英雄特権:祝福昇華』ッ」

 

 「『闘争本能(Vorvados)』『狂身狂霊(berserk)』」

 

 立ち上がる。身体は重く、鈍重だ。一歩ずつ、一歩ずつ進む。


 「p"y"!?」


 怪物は槍を突き出す。その刺突は、今の僕にはとても遅く見えた。

 槍を掴み取り、怪物ごと引き寄せる。ゆっくりと距離は縮まっていく。


 「p"!?p"p"」


 何が起きているのか理解出来ていないのか、受け入れられないのかは不明だが、慌てふためき触手をうねらせている。


 そしてもう、その触手を掴み取れる距離だ。


 「■す■ァ…!■ェ…死■…!」


 首を握り潰すほどの力で掴みながら、空いた右手で触手を引き抜く。

 皮膚が破れ、青い血が飛び散る。脳のような器官が見え隠れする。


 「p"y"……p"」

 

 触手を投げ捨て、右手に魔力を込める。赤黒い魔力。鋭く、抉り取るようなイメージで纏う。


 抵抗は感じるが、絶対に逃がさない。左手に更に力を込めると首の肉が千切れ、血管らしきものを今度は掴む。


 魔力を纏った右手を、心臓の部分に突き刺していく。ずぶずぶと肉を割き骨を断って進む。

 

 「ミッけた」


 心臓を掴み、握り潰す。

 

 「p"…!」


 大きく痙攣し、命が絶える。それと同時に重力らしき力も消える。

 怪物は足から塵となり、少しずつ崩れていく。最後に残ったのは、怪物が持っていた槍と、真っ黒な魔石だった。

 


バルバトスじゃないよ。ヴォルヴァドスだよ。

バーサークじゃないよ。ベルセルクだよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ