青春?そんなのいいから殺し合え
2021年もよろしくお願いします
「シィッ!」
剣を振るえば首が飛び、血と臓物が舞い散り、魔物の悲鳴が響く。
「朱鷺くんストップストップ!ヤバいって!中村ちゃん気絶してるって!ああぁ!?脳みそ飛んでたぁぁ!?」
向こうも楽しそうだなァ〜!僕ももっと楽しみたいなァ〜!
けど、もう終わりみたいだ。残りはゴブリンが1体だけ…名残惜しい。せめて最高の一撃で殺してあげよう。
「ギィ…ギィ…」
ゴブカスくんは、命乞いでもするように床に伏せた。心なしか、鳴き声も悲しそうだ。
けどね、君はこれから僕たちの寝具代になって貰わないといけないんだ。ゴメン。
「フゥー…ッ!」
魔力を練り、循環させ、身体と剣に纏わす。
剣をツヴァイヘンダーに変更してからは魔力の消耗が大きくなってしまった気がするが、それはまぁ置いておいて。
剣を構える。足を踏み出し、全力で振り下ろす!
この動作を1秒ほどの速さで行う。今回はゴブカスくんが斬りやすい体勢になってくれたのと、周りに敵がいなかったという好条件だったから綺麗に、無駄なく出来た。
これをいつでも、どんな状況でも繰り出せるようにもっと鍛錬を積みたい所だけど、難しいね。
「もう。もうヤダぁぁ!!パパぁ…ママぁ…」
うわ急に泣き出した。大丈夫かなぁ?流石に精神的に耐えられないか。もう少し持って欲しいんだけどな。
「明さぁん、ダメじゃないですか。なに泣かしてンですか」
「はァ!?君よく人のせいに出来るな!!急激に気が狂い始めてないか!?それとも本性表し始めたのか!?」
テンションブチ上げじゃないですか。やっぱ人間って、血を見ると興奮しちゃいますよね。僕もですよ。分かります。
「まあ落ち着いて下さい。中村さんが怖がってますよ」
「っぐ。確かに…ごめんな」
塔の中に中村さんの啜り泣く声が充満していく。なんだか嫌な雰囲気だ。せっかく8階まで頑張って来たのに。
10階まで残り2階、まぁこの階も攻略が完了したので、実質残り1階な訳だが。
「んー…今日はここまでにしておきましょう。それで良いですよね?」
「そうしてくれるとありがたいかな。もう手も足もプルプル痙攣してるんだ」
時刻も夕方の6時と、結構な時間だ。これ以上無理に進んでも、怪我が増えるだけだろうし。
「…中村さん。大丈夫ですか?」
うずくまって泣くだけで、喋ってはくれない。少し時間が必要そうなので、放っておこう。
その間に、色々と準備しておく。ご飯とか、寝る場所とか決めたりね。
…………
…………
30分ほど経過した頃、中村さんが立ち上がってこっちに寄って来た。目は泣いていたせいで赤くなっているが、今はもう落ち着いたようだ。
「…ごめんね、役立たずで」
うわ面倒せェ〜!
誰か心理カウンセラー呼んでくれないか。これは適当な対応すると、とんでもないことになるパターンだ。
明さんとこそこそ話で相談する。
「(明さん…どうします?)」
「(ここは同年代の朱鷺くんが何とかしてくれよぉ…俺は無理だよ)」
「(え〜っ)」
どうやら僕が対応するしかない無いようだ。これで急に暴れ出しても僕の責任じゃないからね?
「良いんですよ。今はゆっくり休んで下さい」
全力で、優しく穏やかに、マイナスイオン全開で諭すように話しかける。
こういう時は否定せず、かと言って肯定し過ぎない!完璧だろこの対応!
「…うん…ありがとう」
よっしゃァ〜!勝った!
「(朱鷺くんナイッス〜)」
一安心したところで、僕はステータス画面を閉じる。ショップ機能で買うものは決めたので、後は何かすることないかな。
特にする事もないので、魔力感知と操作の練習でもしてよう。時間がもったいないしね。
それからは会話もなく静かに時間が経過し、全員のお腹が空く頃になったら、僕がご飯は何が良いか尋ねた。
ご飯の時も会話はなく、嫌な沈黙が流れながら食事をした。
中村さんも明さんも、限界と言うことだろう。気付いたら塔にいて、常に魔物を警戒し、殺し合い、薄暗い空間を怯えながら進む。
残酷ではあるが、適応出来ないなら死ぬだけだと僕は思う。もちろん人には死んで欲しくないので、全力で支えようとはしてるけど、難しいかもしれない。
「…ごちそうさまです」
ご飯を食べ終わったら、ショップで寝袋を人数分購入して、配る。他にも歯磨きセットやら体を拭くシートも。痛い出費ではあるけど、ストレスを溜められるよりはマシだろう。
そして、寝るときの見張りの順番を話し合いで決め、3時間交代で眠ることにした。
娯楽がないので、眠たくなるかもしれないが、生きる為にも何とか頑張るしかない。
「じゃあお休みなさーい。明さん見張り頑張って下さいね」
「朱鷺くんも起こしたらすぐ起きてくれよ?」
心配なのは中村さんだけど…少しずつ落ち着いて来てるし、大丈夫?だと信じたい。
まぁとにかく身体を休めよう。今日は戦いっぱなしで疲れた。休憩も全力で。
…………
…………
眠りが深くなる前に明さんと見張りを交代した。めっちゃ眠いけど、仕方ないよなぁ。
3時間もあるし、魔力感知と操作の練習をもっと積もう。
自分でも驚くくらい成長が実感できて、とてもやっていて楽しいから寝ちゃう事はないだろう。
「あの…朱鷺くん…ちょっと、いいかな?」
魔力操作の練習をしていると、目を覚ましたらしい中村さんに肩を叩かれ、話しかけられる。明さんが起きないよう小さい声で話を続ける。
「どうしました?」
「怖くて、寝れないの…。魔物に襲われるじゃないかって不安で…」
そう言った中村さんは少し青ざめた顔をしていて、本当に怖がっていることが分かる。
正直そんな事言われてもどうしようもねぇってのが本音だし、こんな時、女の子にどんな事を言えば良いのかも分からない。男だったら、黙って寝ろで良いんだけどなぁ。
僕が守る?臭いし無責任だよなぁ。黙って抱きしめる?やっぱキモいよな。
イケメンならどうする。イケメンじゃないから分からない。
お、思い出した!こういう時女の子は、解決を求めているのではなく、共感を求めてる…らしい!
「分かります、その気持ち」
そう言って僕は、自ッ然に肩に手を回す。
「…すごい落ち着く」
「今は、ゆっくり休んで下さい。中村さんの分も僕が見張っておきますから」
「…ありがとう」
顔、赤くない?もしかして青春来ちゃった?
代償として僕は追加で3時間見張りをする事になったので、プラマイゼロどころかマイナスだ。
まぁ僕には攻略サイトもあるので、適当にトーク機能やらショップ機能やらで時間を潰す。が、睡魔は容赦なく僕を襲う。
「ねむ」
こくり、こくりと体が揺れる。眠たい。
意識が飛び、視界が暗転する。
広がる闇の中で、誰かが、笑っていた。
その誰かが、僕に近づいて言った。
『決別の時だ』
『英雄よ。試練がお前を待っている』
『扉を開けろ。死と祝福が待っている』
『楽しませろ』
『楽しめ』
★・ブックマークを貰えると、すごい嬉しいです